第54話 謎の援軍
『魔剣ダーインスレイヴ』それはブラッディ家に伝わる魔剣の一つであり、ゲームではアイギスが装備している敵専用のアイテムである。
効果は今見たように、精神力をエネルギー源にして光線を解き放つことと、戦場にて血を浴びれば浴びるほどの切れ味が増すのである。初代領主はこの魔剣を片手に戦場で鮮血をまき散らし、笑いながら戦っていたいわれる。これがブラッディ家の名前の由来とまで言われる魔剣だ。
「なによ、あれ……反則じゃないの……」
「あれが魔剣ですか……冒険者時代に名前だけは聞いたことがありますが規格外ですね……ただ、強力な力には代償があるはずです。あの魔剣にも何か弱点が……」
「ああ、弱点はあるさ。光線は連続では放てずに、クールタイムがあることと、精神力が弱いものが持てば、剣の魔力に魅入られて正気を失うんだよ」
ロザリアの言葉に俺が答える。そう、魔剣は決して無敵の武器ではない。それに使用しているのはアイギスではなく、ヴァサーゴだ。ゲームでは拠点ごと滅ぼした一撃も、壁を破砕するだけに踏みとどまっている。
生で見た魔剣の威力に驚いたが勝機はある。引きこもったままの勝利はできなくなったがな。
「ロザリア、アステシア……悪いが俺についてきてくれないか? 相手がもう一度魔剣の力を使う前にあいつを捕える」
俺はホワイトを甲冑の間に避難させながら言った。戦場を突っ込むのだ。俺のサポートとしてロザリアと、ヴァサーゴの周囲を守っているであろうハデス教徒の加護の対策にアステシアの力は必須だろう。
しかし、ゲームの知識で魔剣の弱点を知っている俺と違い彼女達はついてきてくれるだろうか……? 現に厳しい訓練を乗り越えたハミルトン領の兵士達ですら魔剣を恐れてざわついているのだ。だけどその心配は杞憂だった。
「もちろんです、ヴァイス様の事は私が必ず守りますから!!」
「あなたね……専属プリーストの私がついていかなくて誰がついていくのよ。魔剣の攻撃だって死ななければ癒してあげるから安心しなさい」
二人は当たり前のように頷いてくれた。その事が嬉しくて……俺は涙ぐみそうになりながらも礼を言う。
「二人ともありがとう。伝令、再び頼む!!」
俺は馬の方に駆け出しながら大声で叫ぶ。ロザリアも馬に乗り、アステシアは俺の背中に捕まる。
『あの魔剣は連続では使えない!! 今のうちにつっ込むぞ。我こそはというものは俺についてこい!!』
俺は浮き足だっている兵士たちに激励の言葉を飛ばす。そして、俺が敵陣へと突っ込むための準備をするが、ついてくるものは少なかった。兵士のほとんどは動揺しているのだ。
無理もない……魔剣の威力は強力な癖に弱点はあまり知られていないのだ。いわば大砲に剣でつっ込めと言われているようなものである。俺の言葉を信頼して即答した二人が異常なのだ。
くそ……時間がないってのに……この人数でつっ込むか? いや、流石に数が少なすぎるな……
「お前ら!! 何をやっている!! 我らが領主自らが先陣を切ると言っているのだぞ!! それなのに我ら兵士が臆病風に襲われてどうすると言うのだ!!」
魔法を使ってもいないのに戦場に響く声があった。その主はカイゼルだ。
「確かに我らの領主に問題がなかったとは言えん、着任の直後は色々とやらかしもした。だが、最近はどうだ? バルバロという暴君を追放したのは? 我らの士気を上げるために前線に出て、将を打ち取ったのは? 我らのために教会に頼んでプリーストを派遣してくれたのは誰だ? そのおかげで死傷者が格段に減ったのに気づいていないとは言わせんぞ。現に今も自ら先陣を切ろうとしているではないか? 我らが領主を信じずして、誰を信じると言うのだ!!」
カイゼルの言葉に戦場がざわざわとざわめく。そして、次々へと兵士たちが馬に乗り、武器を構え始める。俺の言葉が通じない人間にも、ずっと我が領土で兵士たちと共にいて、働いていたカイゼルの言葉は心に響いたのだろう。
彼はヴァイスがぐれて左遷された時もずっと、ハミルトン領の事を考えてくれていた。その彼の言葉が周りを活かしたのだ。
俺は馬を走らせてカイゼルの元に向かい礼を言う。
「カイゼル……ありがとう、助かった」
「いえ、私は思ったことを言ったまでです。あなたはそれだけの事を成し遂げているのです。だからこそ、私の言葉も兵士たちに届いだのです」
「よかったわね、ヴァイス」
「きゅーきゅー♪」
「ああ……行くぞ!! ヴァサーゴ=インクレイを打ち取るぞ」
「戦闘は私に任せて下さい!! 今回こそ、手柄を立てて見せましょう!!」
カイゼルが先陣をきり、その後ろを俺達が馬で走る。数では劣っているのだ。一点突破をして、ヴァサーゴを倒すのが一番の手だろう。
しかし、相手も流石は武官の家系である。魔剣の存在で士気が上がったのか、ヴァサーゴを守ろうと必死にくらいついてくる。
なんとか攻め切らないと……そう思った時だった。横から無数の弓矢が飛んできて、相手の兵士を射抜いたではないか? 伏兵を仕込んでいる余裕なんてなかったはずなんだが……
「あれは……仮装集団かしら。いや、本当になんなのよ?」
「「いあ! いあ! くとぅるふ ふたぐん! いあ! いあ! ないあるらとほてっぷ」」
アステシアが絶句するのも無理はないだろう。50人くらいの集団は一人の少女を除いてみんなローブを着こんでいる上に仮面舞踏会でつけるような仮面をつけ、変な呪文を唱えながら戦っているのだ。しかもつえええ!! 二人同時に相手してぶっ倒しているんだけど!!
てか、集団の真ん中にいる小柄の赤髪の少女と、キモイ触手みたいなのを出して戦っているやつ見覚えしかないんだけど……
二人は俺を見つけると馬を寄せてくる。
「その………お前ら何やってんの?」
「久しぶりね、ヴァイス!! あなたの助けに来たわ!! 彼らはナイアルの指示で変な恰好をしているけどうちの精鋭だから安心しなさい!!」
「え? ああ……ありがとう?」
俺はどんな反応をすればいいかわからず、とりあえずお礼を言う。すると触手男もやってきて自慢げに笑った。
「あー、色々あってブラッディ家は表立ってのサポートはできないらしいからね、僕も気を遣って変装をしてもらっているのさ。一応僕らは故郷の村をインクレイ領の兵士に襲われて復讐に燃えている戦士たちで、アイギス守るついでに、戦っているっていう設定なんだ。ちなみに今の僕の名前はアザトースだよ、よろしく」
「設定とかいっているけど大丈夫なのかしら?」
アステシアが冷静につっ込むが、俺もいろいろと突っ込みたい。てか、ハデス教徒よりもこっちのほうが邪教っぽいんだけど!! そんなことを思っていると自称アザトースが、胡散臭い笑みを浮かべながら俺の耳元でささやく。
「ついでに親友殿にとって縁が深い人もつれてきたよ。戦争をしてるっていうのに、どうしてもハミルトン領に行きたいって騒いでいたから仲間にしたのさ」
「え、誰だよ。それ……」
ナイアルが指をさす方向を見ると、赤髪の仮面をかぶった女性と、もう一人の仮面をかぶった女性が魔法を駆使して、敵を撃退しており……その姿を見て、俺の胸がざわりとさわぐ。
まさかあいつは……いや、今はそれどころじゃないな。気になる事が一気におきたが、今がチャンスだ。俺は兵士たちに向けて大声を上げる。
「全軍いくぞぉぉぉ!」
そして、謎の援軍と合流した俺たちは戦場を駆けるのだった
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カイゼルさんの見せ場がきた!!
そして、謎の援軍……アザトース……一体何者なんだ?
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