第46話 作戦会議

 あの後俺達は急いで屋敷へと戻り、ロザリアとカイゼルの三人で会議をしていた。

 ヴァサーゴを筆頭とする周辺貴族との戦いはもう少し先にゲームでおきる。その時の理由は簡単だ。ゲーム本編では彼らは既にハデス教の傀儡と化しており、主人公たちがハデス教徒と敵対すると宣言と同時に戦争が起きるのである。

 本来だったら、まだまだ時間はあったはずだ。タイミングが早すぎるだろ!!



「この状況で宣戦布告かよ……」

「いえ、このタイミングでよかったです。私たちはこの書類の存在を知ることができました。ハミルトン家の印章があるこの書類がある以上、私たちが王都や周辺貴族に無実を訴えても、効果は薄いです。時間をかけて調査をすればヴァイス様の無実は証明できるでしょうが、ヴァサーゴがそれを許さないでしょう。そして、バルバロが毒殺されていたというのは本当なのですね」

「ああ……我々が帰った時にはバルバロは殺されていたそうだ。あんなに厳重に警備をしていたはずなのに……」

「内通者がいたのかもしれません、仕方ないですよ。あなたのせいではありません。おそらく、私たちが奴隷売買組織を倒しに行ったというのを聞いて、手を打ったのでしょう。それで……ヴァイス様どうしましょうか?」



 狼狽しているカイゼルをロザリアが、冷静にたしなめる。俺の行動によって歴史が変わってきているな……もしかしたら、今後はゲームの知識が役に立たなくなるかもしれない。だけど、俺は主人公とは違う。優秀な仲間だっている。乗り越えれるはずだ。

 二人の視線から俺への信頼を感じ俺は思う。



「まずは状況の整理だ。それで……この書類は本物だと思うか、ロザリア?」

「わからないと言うのが本音ですね……質が悪いのは、署名がヴァイス様ではなく先代様な所です。死人に口なしと言いますし、実際は先代様ではなくバルバロが領主の印を使用して偽造したのかもしれませんが、私達にはわかりません。そして、このタイミングで宣戦布告をしてきたということは、この書類の写しを、ヴァサーゴがもっているものと思われます。私たちが文句を言ってもこの書類を元に、自分たちの正当性を主張するでしょうね」

「となると……周囲の付き合いの薄い領主や王都が積極的に援護をしてくれる可能性は少ないか……」

「はい……しかも、奴隷を売買した相手は領主や貴族ではなく、ヴァサーゴの領地の商人になっていますからね……調査をすればヴァサーゴやほかの貴族まで行きつくでしょうが、その時間がありません。だからこそ宣戦布告をしてきたのでしょう」

「今、俺たちがヴァサーゴを断罪しても、戦争を吹っ掛けられたお返しとしか思われないだろうな……そして、これだけ用意周到に俺達を貶めようとしているんだ……やつらは俺たちを徹底的につぶす気なのだろうな。和平の道もないだろう」

「でしょうな……普通交渉をするならば妥協点を考えるものですが、賠償金の額と言い、彼らは我らを滅ぼす事しか考えていないように見えます」



 カイゼルがうなづく。そして……今回の件はハデス教徒も関わっているだろう。ヴァサーゴの領地にハデス教徒の十二使徒がいて奴隷売買に力を貸していたのだ。完全に真っ黒だろう。



「しかし、戦争か……」



 一般的に貴族同士の争いがないわけではない。そう言った場合はお互いの正当性を主張して、周辺の貴族を味方をつけるか、ここいらをまとめている大貴族に援助を頼むのだが、我がハミルトン領も、ヴァサーゴのところも、両家ともブラッディ家の配下である。

 幸いにも俺はラインハルトさんとは仲が良い。一方的にこちらにだけ協力をしてくれとは言いにくいが、戦争の仲裁くらいはやってくれるだろう。

 とはいえ……万が一のことも考えておかないとな……



「カイゼル、うちの戦力でインクレイ家に勝つことは可能か?」

「はい、インクレイ家の兵力だけならば接戦の末勝てると思います。ただ……他の貴族もサポートしているとなると苦戦するでしょう。数が違います。1.5倍なら倒せますが二倍ととなると難しいかと……」

「真っ向からではこちらが不利か……何らかの策を考えないとな……」



 この世界の戦争は現実とは違い戦略だけではなく、一人の英雄で戦況が変わる事はある。それこそ十二使徒クラスがその筆頭だ。ゲームで目立ったのは、ブラッディ家に伝わりし魔剣を振り回し、全てを薙ぎ払う『鮮血の悪役令嬢アイギス』やハデスとゼウスの両方の加護を使いこなし、デバフとバフを振りまく『冷酷なる偽聖女アステシア』、王級魔法を使いこなし、連発することのできる『狂乱の魔導士バイオレット』がそれにあたる。

 ゲームと違い二人は仲間だが、彼女達がそのレベルに達すのはまだまだ先だし、あの力は悲しみを代償に得た力だ。俺は二人には幸せになってほしいと思う。

 あと考えられるのは、王級魔法を使えたり神獣の契約者か……



 いや、俺じゃん。でも、俺が使える王級魔法は単体の攻撃に特化しているんだよな……使える属性が火とか氷だったら話は変わったのだが……



「大丈夫ですよ、ヴァイス様は一人ではありません。私達みんなで力を合わせて、考えましょう」



 悩んでいる俺を元気づけるように、ロザリアが俺の手を握り微笑む。そうだ……俺は一人じゃないんだ。確かゲームの知識ではヴァサーゴの仲間には強力な部下は数人しかいなかったはず……ロザリアやカイゼル……そして、俺がいれば多少の不利は挽回できるだろう。

 そして……俺にはゲーム知識がある。ゲームで使われた戦略を使えば多少はうまくいくのではないだうか? そうして、俺は打てる手を打つべくことをやる。



「カイゼルは兵士の編成を急げ!! ロザリアは領民たちに戦争が起きる事を告知してくれ。俺はインクレイ家に交渉の手紙と、ラインハルトさんに援助を頼んでみる」



 インクレイ家への無罪のという旨の訴えだ。もちろん、これに意味はないだろうが、とりあえずやっておいたという事が大事なのである。何の反論も無ければ相手に意見を正しいと言っているようなものだからな。

 そして、翌日、二つの手紙が届いた。一つはインクレイ家からの手紙である。そこには「我々が正義であり、貴様らの奴隷売買によって、治安の悪化及び、王家に余計な不信感を待たせた事への賠償金及び、奴隷密売組織の解体、これがなされない場合戦争をさせていただく」と書いてある。

 好き勝手言いやがって死ねよ。という感想しかない。それよりも問題はこっちだった。



「どうしました、ヴァイス様」

「ああ……ブラッディ家は今回の戦争は中立として見守るそうだ。両者の主張は真っ向から対立しており、どちからに肩入れをするのは難しいというとさ……」



 俺の言葉にロザリアとカイゼルが息を飲むのがわかった。




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アイギスはどんな反応をしているのでしょうか……

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