第45話 奴隷売買組織

「いや、圧倒的だな、わが軍は!!」

「うふふ、流石ヴァイス様が率いている軍ですね」

「何というか、一方的ね……相手が可哀そうになってきたわ」




 ロザリアの報告を聞いて、俺は軍を率いて、即座にわが領地に残っていた奴隷密売グループの本拠地を襲撃にしに行っていた。

 戦いの結果は……楽勝である。不思議な事にハデス教徒もいるかと思いきや、ほとんどがかつてのバルバロの部下だった。



「これも、ヴァイス様がラインハルト様から軍事訓練を受けるチャンスを下さったおかげです!!」

「それはちがうぞ、カイゼル。お前がリーダーとして彼らを訓練してくれたおかげだ。本当にありがとう」

「きゅーきゅー♪」



 俺はかしこまっているカイゼルの緊張をほぐれるように微笑みかける。そして、俺の言葉は嘘ではない。領主としての仕事やアステシアの救助などをしている間にも彼は一生懸命我がハミルトン領のために誠心誠意尽くしてくれたのだ。そして、その結果兵士たちの単体の能力だけではなく、指揮能力も向上し。軍としての戦力が上がったのである。

 もはや俺は、最初に率いた時とは別部隊の様で、バルバロの残党何か相手ではなかったのだ。今回は俺やロザリアたちは後ろで様子を見ているだけで終わってしまったのだ。これなら魔物だって怖くはないかもしれない。そろそろスタンビートが起きる前に戦いに言っても良いかもしれないな……



「ヴァイス様、捕らわれていた奴隷たちはどうしましょうか?」

「食料と水を与えてやれ。あと希望をするやつには故郷まで送ってやろう。仕事が欲しいっていうやつには適性を見つつ斡旋する。幸い我が領地は発展途上だ。兵士や、商人、職人も募集しているからな」

「そうですね、では持ってきた食料を奴隷の方に配ってあげてください。」



 ロザリアの命令で兵士たちが食料を奴隷たちに渡すように指示をしに行く。ここにいたのは十人くらいか……肉体労働用のガタイの良い青年から、そういう事目的なのか、女性の奴隷も多い。一部の人間を除いて、俺達に救われたことによりその瞳に安堵の色がうつっている。

 そして、俺はいまだ暗い顔をしている数人を見つめながらアステシアに訊ねる。彼女たちはよほどひどい目にあったのだろうか、救われたというのに、どうでもよさそうにしている。それが何とも心苦しい。



「アステシア……彼女達に心が落ち着くような薬を処方できるか?」

「ええ……もちろん。ただし、精神的なものだから、長期的な治療になるけど大丈夫? お金だってかかわるわよ」

「ああ、もちろんだ。救える命は救いたいからな。頼むよ」



 俺の言葉にアステシアはわずかに笑みを浮かべた気がする。



「ふーん、あなたのそういうところ……好きよ」

「え? なんだって?」



 何やらぼそぼそと言っていて聞こえなかったので、聞き返すと、アステシアはいつものように無表情に戻ってしまった。



「別に……女性にはお優しいって言ったのよ」

「誤解されるようなことをいうのやめてくれない?」

「うふふ、冗談よ、みなさん怪我をしている方は言っていってください。私が治療致します……あなたは……」

「アステシア……なんでここに……?」



 そんな軽口を叩いて、奴隷たちの様子を確認しに言ったアステシアの動きが少女の前で止まる。知り合いなのだろうか? だが、安堵の表情を浮かべていた少女とアステシアはお互い見つめ合い複雑な表情をしている。



「あなたが私を助けてくれたのね、あの時はあんなにひどい事を言ってごめんなさい……その……神父様や、キース、カタリナは元気?」

「ええ、大丈夫よ……マルタ……」



 少女の名前を聞いて教会でさらわれたと言っていた少女がそんな名前だということ思いだす。そして、アステシアの表情が固いのは……



「アステシア、大丈夫だ。お前の呪いは解かれている。だから、今回は本当に彼女は君に感謝しているんだよ。どうしてもしんじられなければ俺を信じろ」

「まったく……プリーストに安易に神様以外を信じろとか言わないの。でも、ありがとう……マルタ、無事でよかったわ」



 助けを求めてきたキ―スに襲われたことを思いだしていたアステシアを安心させるように声をかける。そして、彼女は俺の言葉にわざとらしいため息をついてからマルタをまっすぐ見つめる。もう大丈夫そうだ。ここは彼女に任せよう。

 奥の部屋へと入るとそこにはロザリアとカイゼルが何やら深刻そうな表情で書類を見つめていた。



「なにかあったのか?」

「ヴァイス様……」



 俺に気づいたロザリアとカイゼルは共に目を見合わせて、うなづいた。いや、本当にどうしたんだよ……

 カイゼルは部下に対して命令を下す。



「人払いをしてくれ、しばらくは誰も通すな」

「ヴァイス様はこちらを見てください」



 兵士が去ったのを確認してから、神妙な顔をしてロザリアが渡してきた書類に目を通すと、どうやら奴隷売買に関することが書いてあるようだ。

 販売先は周辺の領地の貴族や商人の名前が色々とかいてあり、これを国に提出すれば、彼らの罰則は免れないだろう。だけど、責任者の名前で俺の目は止まる。ドワイト=ハミルトン……



「親父が関与していたのかよ……」

「いえ、そうとも限らないんです。これは確かにわが家の印章なのですが、サインの癖が前領主様のものとは違います。それに日付が空白なため、偽造をしているのかもしれません」

「バルバロめ……このような事をしていたとは……」



 俺とロザリア、カイゼルは頭を抱える。ヴァイスが自暴自棄な時に好き勝手にやっていたのだろう。だが、どうすればいいのだろう。この紙を差し出せばハミルトン家もまた、罰則を免れないだろう。しかも責任を追及されるのは今は亡き父である。あとはバルバロに何とか自白をさせるしかないのか……



「ヴァイス様大変です!!」

「今は誰も入るなと言ったはずだぞ!!」



 いきなり入ってきた兵士を叱責するカイゼルだが、兵士はそれでも言葉を続ける。



「申し訳ありません、ですが、どうしてもお伝えしなければならないのです!!」

「かまわん、どうしたんだ?」

「はい、ヴァサーゴ様を筆頭とする周辺領地の貴族達が宣戦布告をしてきました!! 理由は……奴隷の売買をするハミルトン家を許しては置けないとの事です」

「な……」



 俺はその言葉に絶句するのだった。






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印章とハンコどちらが分かりやすいかなって思ったんですが、かっこいいんです

印章にしました。

わかりにくいかな……


というわけで戦争編はじまります。




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