第47話 ヴァイスの作戦
ブラッディ家が中立を守る……その言葉は俺の計算を大きく狂わした。
「ヴァイス様……それはいったいどうしてでしょうか?」
「ああ、ご丁寧にインクレイ家の方から、俺達が見つけた奴隷売買の書類の写しが送られてきたていたそうだ。その上、他の貴族の大貴族様も今回の件は静観しろとブラッディ家に手紙が来たそうで身動きがとれないらしい……」
「先手をうたれましたね……それにしても、準備が良すぎます……まるで事前に計画をしていたかのようです」
「くっ!! ラインハルト様が敵にまわらなかっただけでもマシという事か!!」
ロザリアと、カイゼルが険しい顔で俺が見せたブラッディ家からの手紙を見つめる。確かにこういう風に同じ派閥の貴族同士が争っている場合はどちらかが明確に悪いと証明できない限り片方に肩入れするのは難しい。そして、俺とラインハルトさんが懇意していると言うのは周知の事実である。だからこそ手を打ってきやがったのだろう。
おそらく、ラインハルトさんに、警告をしてきた大貴族とやらもヴァサーゴとグルだろう。そして下手したらハデス教徒の一員かもしれない。なんでこんなに俺達が睨まれているんだよと思ったが、ハデスを倒し、ハデス教徒の十二使徒をぶっ倒したのだ。警戒をされても無理はないかもしれない。むしろ俺だったら真っ先に潰すわ。
まあ、あいつらがどこまで俺の行動を把握しているかはわからないが……
「カイゼル!! インクレイ領とその周囲の奇襲を警戒して兵の配置をしておいてくれ。ロザリアは周囲のなるべく詳細な地図とその場の地理に詳しい人間の手配を頼む。あとは……ナイアルにポーションを仕入れたいという旨の手紙、アイギスに気にするなという旨の手紙を書くから送っておいてくれ」
俺は開戦に向けて準備をするために二人に指示をする。もちろんインクレイ家に賠償金なんて払うつもりはない。あちらの提案を拒否をしたことによって相手は近いうちに力によって訴えてくるだろう。そして、軍を動かすのだ。事前にある程度は動きはわかる。
それまでに戦いに勝つための準備をしておかなければ……俺達は数では劣っていても、攻撃範囲は狭いが王級の魔法を使える俺と、強力な魔法に優れた槍の使い手であるロザリアという一騎当千の人間がいるのだ。戦略さえあれば十分戦えるはずである。
翌日、俺は戦場になるであろう我がハミルトン領とヴァサーゴの領土の境になる場所へと馬車を走らせていた。馬車の中で地図を読んでいると酔いそうになるがそんな事を言っている場合ではない。もちろん、前世で戦った経験なんてないが、俺にはゲームで培った知識と経験がある。そして……やりこみまくっていた俺はゲームで主人公や敵が実際使った戦略だって頭に入っているのだ。
後は現地に行って、ゲームと実際の地形の差異と俺達の戦力で可能な戦略を練ればいいのである。考え事をしていると、笑顔を噛み殺しながら膝の上で眠っているホワイトを撫でていたアステシアから粉末状の薬を渡される。
「酔い止めよ。飲みなさいな」
「ああ、ありがとう……苦いな……だけど、アステシアは、館にいてくれてよかったんだぞ。ここは戦場になるんだ。危ないぞ」
「何を言っているのよ。専属プリーストの私があなたのそばにいないでどこにいるっていうの。安心しなさい。死なない限り治してあげるわ」
俺の言葉に心外とばかりに彼女は無表情に言った。俺的にはようやくハデスの呪いから解放された彼女には、自由を満喫して欲しかったんだけどな……
「アステシアさん、ご安心を……私がいる限りヴァイス様には敵に指一本触れさせませんよ」
「それは心強いわね。あなたの事ももちろん癒すから、二人で彼を守るわよ」
御者席で馬車を操っているロザリアの言葉にアステシアが大きく頷いた。まるで俺がヒロインみたいである。しかし、推しに守られると言うのは嬉しいな……
周囲には我が領土の兵士たちが見回りをしているが、今俺の周りにいるのはロザリアとアステシアだけである。ちょっとした調査をするだけなので敵に動きを察知されないように少人数で動いているのである。
「これ以上は馬車では難しそうですね……」
「わかった。十分だよ。馬車はいったんここにとめておこう。起きろ、ホワイト!!」
「きゅーーー!!」
「ああ……温もりが……」
俺の言葉と共にホワイトが肩に飛び乗り、アステシアが寂しそうに声を上げる。さっきまで膝枕していたんだからいいだろ!! てか、ホワイトのやつ、俺の推しといちゃつきやがって羨ましいなおい。
「皆さん、魔物や獣がいるかもしれないので気を付けてくださいね」
冒険者としての経験があるロザリアを先頭に俺達は目的地へと向かう。彼女は獣道だというのにまるで平地と変わらぬように歩いていく。
「きつかったら言えよ」
「ありがとう。でも、大丈夫よ、プリーストは色んな所に布教に行くからこういうのも慣れてるの。私は足手まといにはならないわ。それに……こんなこともできるのよ。神よ、我らの旅路に祝福を!!」
俺がアステシアを心配して声をかけると彼女は少し得意げな顔をして呪文を唱える。すると、俺達の足が光って体が軽くなった。
うおおおお、すげえ、素早さアップの魔法って実際受けるとこうなるのか!!
「つきましたよ、ヴァイス様!!」
彼女の言葉と共に川のせせらぎの音が聞こえてくる。ロザリアの案内と、アステシアの魔法によって想定よりも早く着くことができた。
「ここで何をしようって言うの? まさか、水浴びをしているところをまた覗こうと……」
「戦争前にそんなこと考えているやつがいたらあほだろ!!」
「また……ですか……?」
アステシアの言葉につっ込むと、ロザリアが怪訝な顔をしている。待って、ちょっとこわいですよ、ロザリアさん……てか、そもそも覗いたことないんだけど……一瞬迷ったけどな。
川に手を突っ込むとそこそこ深い。これならばちょうといいだろう。
「この川はちょうど、敵が進軍するであろうルートの上流なんだよ。だから、ここをせき止めておけばどうなると思う?」
「ああ、なるほど、水攻めってやつね!! 溺死は辛いらしいけど……私たちの敵ですもの。無様に死んでも神様も喜ぶでしょう」
いや、喜ばねーだろ……ゼウス神がどんな性格かはわからないが……納得したアステシアとは別にロザリアは難しい顔をしている。
「確かに水攻めは定石の一つですが……この川の規模では狭いですし、一気に全滅とはいかないと思いますよ」
「ああ、そうだ……だけど、分断はできるだろう」
「はい……ただ、せき止めるにも時間が……ヴァイス様、まさか……ですが、それではあなたを守れなくなってしまいます!!」
「これはロザリアにしかできないことなんだよ……俺だって無茶はしない。仲間だっているんだ……それとも俺はまだ頼りないか?」
「そんな言い方ずるいですよ……ヴァイス様が頑張っていることは知っています。ですが……」
俺の作戦の意図がわかったのか、ロザリアが渋い顔をする。だけど、何とか納得してもらわないといけないのだ。
「言い争っている時間はないみたいよ。開戦の合図だわ」
アステシアが指さす方向を見ると狼煙がたっている。敵が進軍してきたという事だろう。もう話し合っている時間はない。
俺は自分の指から魔力アップの指輪を外してロザリアに渡す。
「ロザリア……これを受け取ってくれ。今回の作戦で君の助けになるはずだ。そして、俺は必ずこれを返して貰いに行くと誓おう」
「……わかりました。絶対ですからね。アステシアさん……ヴァイス様をお願い致します。そして……これは私が世界一大切な人からいただいたとっても大事なものなのです。ヴァイス様に預けるので返しに来てくださいね」
「ええ……わかったわ」
「ああ、もちろんだ。絶対返すよ」
お返しとばかりにロザリアが、俺が上げた指輪をにぎらせてくる。シリアスな雰囲気の俺とロザリアとは別に、俺の作戦がどんなものかわかっていないアステシアもキョトンとした顔をしながら頷いた。
いよいよ、戦争だ。流石に俺は緊張するな……
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ヴァイスの作戦……まあ、わかりやすいですよね。
そして、指輪交換ってなんかもうカップルみたいですねw
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