第104話 VSクレス

 俺のことを二回目だと勘違いしたクレスだったがその攻撃は止まることはない。まあ、そりゃあ、そうだよな……こいつからしたら俺は怪しすぎるもんな。ましてや、仲間だったならばともかく、俺とこいつは敵対していたのだから……

 だが、逆をいえば誤解さえ解けばこいつを仲間にできるのではないか? そして、こいつの……実際にハデス教徒を打倒した知識と経験は有用だ。



「待て、クレス。お前は勘違いをしているぞ。俺はお前の敵じゃない」

「その証拠があるのかい? どのみち僕の正体を知った君は厄介だ。ここで倒すしかないんだよ」

「ヴァイス様!!」



 身体能力を上げたクレスはそのまま、押し切ろうとしたがロザリアの槍によってはじかれて……まずい!! こいつに距離をとらせたらやばい。

 

 


「影の暴君よ、断罪の鎖を我に貸し与えよ!!」


 

 俺の影がまるで巨大な獣の様に形どり、その一部が闇よりも更に深い深淵の様な黒色の鎖となり、敵を束縛しようとしたところだった。



「な……上級魔法だって!? そんなのもつかえたのか!! だけど、光をつかさどりし姫君よ、我を守る領域をつくりたまえ!!」

「な、この方も上級魔法を!?」



 ロザリアが驚愕の声を上げるのも無理はない。クレスの詠唱と共に彼を中心に光が生まれ俺の闇の鎖を喰らうようにして無効化してしまったのだ。

 そして、俺やフィリス、スカーレットなどがつかっているから勘違いされやすいが、上級魔法はぽんぽんと使えるものではない。ましてや、魔法学校の学生ごときが扱えるものではないである。



「お前も上級魔法をつかえるとはな……相当頑張ったな」

「君こそ……伊達にフィリスの兄ではないってことかな? その力を正しいことに使えばもっと……」



 クレスがなぜか悔しそうに顔をにじませる。てかさ、こいつはなんで俺が敵であることを前提にしているのだろうか?

 前とは違うとはいえ、こちらは敵意を示していない。話くらいは聞いてくれてもいいと思うのだが……



「正しいことってなんだよ。お前はなんのために戦っているんだ? 俺はハデス教徒じゃないぞ」

「嘘だね!! 僕は決めたんだよ。前回救えなかった人たちを救うってさ!! 前回悲しんだ人たちを笑顔にするって!! だから、今回はダークネスさんが「あえて弱い剣で戦って勝つのがかっこいいのだ!!」って言っていたのを師匠に止めてもらった!! 迷っているフィリスにも君と話すように説得した。そして僕はここに巣くっている黒幕たちを倒したら、アイギスとアステシアを救う。それで……カエデには平和なこの世界を楽しんでもらうんだ。それが僕の与えられた使命だから……そのために僕は……君たちハデス教徒を倒す!!」



 それは今にも泣きそうな叫びだった。こいつは今まで二回目の人生を生きて誰にも言えずに頑張ってきたのだろう。ゲームの知識を知っているから全体の流れを知っている俺と比べて、たかが二回目の人生を送っているだけのクレスがどれだけ苦労をして、これだけの力を手に入れて、黒幕たちを突き止めたかなんて想像もつかない。

 だってさ……こいつはこいつなりに頑張ってきていたのだ。魔力を上げるチートも知らずに上級魔法を使えるまで努力して……ハデス教徒の事を誰にも言えないでひたすら頑張って……

 正直、ただ倒すだけならば、アイギスの結界に閉じ込めてダインスレイブを放てば勝てるだろう。だけど、俺はこいつの話を聞きたくなってしまったのだ。




「待て、さっきから言っているが俺もハデス教徒の敵だ!! お前だって知っているだろう。ハミルトン領が邪教を倒そうとしているのを!!」

「ああ、そうだね。だから、僕も君に会うまでは期待していたよ。だけどさ、そんなに邪神の匂いをにおわせておいて仲間だって信じろっていうのは無理だろ!!」

「俺から邪神の匂いだって?」

「ヴァイス様……」



 何を馬鹿なと言おうとして、俺を前世からこの世界に送り出したやつの声を思い出す。もしかしたらあいつの力でこの世界にきたからなのか……? そして、ゼウスの加護を得たクレスは俺から感じるあの声の主の気配をハデスと勘違いしている?

 そんな俺風に考えているのを無言の肯定と思ったのか、すさまじい魔力の流れと共に、クレスの手にあるエクスカリバーが光り輝いていく。


 まずい……こいつ、まさか、王級魔法を……?



 俺が冷や汗を流した時だった。すさまじい速さで赤い何かが接近してきたかと思うと……



「あんた!! ヴァイスに何をしてるのよ!!」

「君はアイギ……ぎぇぇ!?」



 俺たちとクレスの間に入ったかと思うと、同時に、彼女の足が綺麗に半月を描いたかと思うと、そのまま、クレスの顎に直撃して、汚い悲鳴を上げた彼はそのまま地面に倒れて、動かなくなった。

 すげえ、やはり武力だ、武力で解決した!!

 そして、俺はというと……もう一人の乱入者によってピンチに陥っていた。



「お兄さま……今日は疲れたから宿でお休みになられると聞いていたのですが……これはどういうことか説明していただけますか?」



 いつものようにおしとやかな笑みを浮かべているフィリスだが、その目は一切笑っていない。やっべえ、マジで怒ってる。



「なあ、ロザリア……」

「ヴァイス様に邪神……? それにクレスさんの言った最後とは……」



 ロザリアに視線で助けを求めようとするも珍しく何かを考えているかのようにぶつぶつと呟きながら難しい顔をしているのだった。



------------------------------------------------------------------------------



やはり武力、武力は全てを解決する


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る