第105話 一難去ってまた一難

 拗ねた顔で、俺を見つめるフィリスと、今だ気絶しているクレスを睨みつけているアイギス、その様子を苦笑しているロザリアと一緒に俺は宿の自室にいた。

 正直無茶苦茶居心地悪い……



「それで……これはどういうことなのか、教えてくれますよね、お兄様」

「そうよ。大体こいつはなんでヴァイスを襲っていたのよ。あの魔法には殺気が籠っていたわ」

「いやぁ……それは……」

「ヴァイス様、これは下手に誤魔化さずに話したほうがいいと思いますよ」



 どう言い訳をしようか迷いながら、ロザリアに助けを求めるも彼女もお手上げなようだ。とはいえだ。俺の転生の事とクレスの人生二回目の事は隠して話した方が良いだろう。



「ああ、近いうちにわかる事だから言うが、俺がいた屋敷の主はハデス教徒だったんだよ。そして、最近暗殺された二人も男もハデス教徒なんだ。だから、その三人を暗殺したやつと会えると思って待機していたんだ。確かな実力を持っているから手を組んだり情報交換をできると思ってさ。まさかそれがクレスで、ハデス教徒だと勘違いされて襲われるとは思わなかったけどな」

「流石です。ヴァイス様……こんな短時間で情報を得ていたのですね」

「なるほど……でも、それなら私にいってくれてもよかったじゃないですか?」

「そうよ、ヴァイスったら水臭いんだから」



 嘘は言っていない。大事な情報を話していていないだけである。だいぶ無茶な理屈だとは思ったが、これまでの実績があるからか三人は一応納得してくれたようだ。



「あはは、悪かったって。でもさ、アイギスはおつかいで忙しそうだったし、フィリスには学園生活を楽しんでいて欲しかったんだよ。俺達と違ってこれからも王都にいるんだ。変な事には巻き込みたくなかったんだ」

「それはわかりますが……ですが、クレスが暗殺なんてことをやっているなんて……」

「こいつ、にやにやしている胡散臭いやつだとおもってけど、結構強いのね」

「ううん……」



 フィリスとアイギスの視線がクレスに集まった時だった。それを見計らっていたかのように、彼はうめき声を上げて目を覚ます。



「フィリスにアイギス……君達はその男を……ヴァイスを信頼しているんだね?」



 開口一番にそんな事を聞いてきた。ああ、こいつ、さてはさっきまで気絶しているふりをしていたんだな。俺は相当疑われているらしい。大方、この二人の素の反応を見ようとしていたのだろう。それこそ脅迫されていないかとか……

 そして、そんなクレスに二人はちょっと怒ったように口を開く。



「当たり前じゃないですか、お兄様は私の事を大切な妹だって言ってくれて……悩んでいるきは助けてくれる優しい人なんですよ。あなたこそ何をやっているんですか!!」

「そうよ、ヴァイスは誰も助けてくれなかったお母さまを救ってくれて……私と友達になってくれたんだから!! ヴァイスは信頼できるんだから、あんたみたいに胡散臭いやつとは違うのよ!!」

「フィリスを大切な妹と言って……アイギスが信頼をするか…………そうか……君達はもう救われていたんだね……」



 彼女たちの言葉をかみしめるように繰り返しながら俺のことを見つめる。そして、何かを考える彼を見てもう一歩だと俺は感じる。

 こいつのことは別に推しキャラではないが、プレイヤーとして、操作していたのだ。愛着くらいはある。

 それに、俺はさっきの……彼の今度こそ救いたいっていう言葉もきいているのだ。仲間になってくれるならそれにこしたことはない。

 


「なあ、アイギス、お前には嘘を見抜く能力があるだろう? クレスが質問したらそれを俺に使ってくれないか?」

「なっ……君はまさか僕に信頼されるために……?」

「なんでそんなことをしないといけないのよ。私はそんなことをしなくてもあんたのことは信じてるわよ」

「ああ、そうだな。アイギスが俺を信じてくれているってことは知ってるよ。だけどさ、これは儀式みたいなものだと思ってくれ。クレスには必要なことなんだよ」



 不満そうに唇を尖らせるアイギスを宥めながら、俺はクレスを見つめる。彼はこれまで、自分一人だけで二回目の人生を送り、破滅を回避するために色々と苦労をしてきたのだ。それくらいしないと信じてはもらえないだろう。



「よくわからないけど、わかったわ。それでクレス……あんたはヴァイスに何を聞きたいのよ」

「ああ……そうだね、君はハデス教徒か?」

「いいや、違うよ」



 俺が首を横に振ると、アイギスも首を縦に振って肯定する。その様子をクレスはじっと見つめている。こんなの茶番だと思うだろう、だけどアイギスは腹芸ができるような子ではないし、もしも俺が嘘をつけば彼女の信頼は失われるだろう。

 だからこそクレスも驚きながらも話にのってくれたのだ。



「もう一ついいかな? 君は彼女たちを救うために戦っているんだね?」

「それは違うよ」



 クレスの言葉に俺は首を振ると、彼の視線がわずかに強くなる。だけど、俺は気にしない。俺の生き方はとっくに決まっているからだ。



「俺が救うのは彼女たちだけじゃない。俺も救うんだ。俺はそのためにここに来たし、これまでもそのためにがんばってきたんだ」

「なっ」



 俺の返事に予想外とばかりにクレスが目を見開いていた。だけど、これだけは俺は譲れない。俺はロザリア達だけを救うためにいるんじゃない。ヴァイスも救うためにいるのだ。



「なんだよ。それ……だけど、そうだよね。誰かを救うだけじゃなくて自分も救わないといけないよね……」


 しばらく、きょとんとしてた彼だったがいきなり笑い声をあげた。なにこいつ、ちょっと怖い。頭大丈夫かな?



「クレス何を笑っているんですか? だいたいあなたは私や師匠に黙って何をやっていたんですか?」



 怒ったフィリスにへらへらとわらいながら、クレスは答える。



「ごめん、フィリス。それは今度話すよ。ヴァイスさん……俺はまだあなたを完全にしんじたわけじゃない。だけど、二人の信頼は本物みたいだし、俺もあなたの事を知りたくなりました。だから、もう少し様子を見ようと思います。まずは先ほど襲ったことを謝らせてください」



 そういうと、クレスは立ち上がって、頭を下げる。そこには先ほどまでの敵意はない。



「あんたね! ヴァイスを襲っておいてそれだけですむと……」

「アイギス。いいんだ。怒ってくれてありがとう。クレスももう戦う気はないんだろ? なら、この話は終わりだ。ロザリアもそれでよいよな?」

「はい、もちろんです」



 獣のように唸りながら今にも襲いかかりそうなアイギスを宥めて、ロザリアに同意を求めると彼女はうなづいてくれた。

 これで一応は解決だろうか。クレスとは仲間というよりも、休戦という感じだろうがな。

 


「じゃあ、フィリス帰ろうか、ヴァイスさん。あなたのことはこれからも見させてもらいますよ。では」

「ちょっと、クレス! まだ話は終わってませんよ! では、お兄様失礼しますね」

「よくわからないけど、ヴァイスがいいっいうならいいの……かしら?」



 そんな会話をしながらみんなが出ていった。そうして、俺はようやく一息つく。



「ヴァイス様、お茶でも飲まれますか?」

「ああ……ありがとう。それとさ、ロザリアもなんか俺に聞きたいことがあるんじゃないか?」

「それは……」


 なんだろう、クレスと戦ってから彼女は何かをなやんでいるきがしたのだ。そして、俺の言葉に彼女は迷ったようすを見せて……意を決したように口を開いた。



「ヴァイス様。クレスさんが言っていた邪神とはなんなのでしょうか? それは……あなたが、変わったこととなにか関係があるのでしょうか?」



 ロザリアのその言葉に俺はなんと答えていいかわからなくなったのだった。



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なんでロザリアがいきなり気にしたかっていうのも理由があります。

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