第106話 打ち明け話

 ロザリアの口から出たその質問はついに来たのかという感じだった。彼女はずっとヴァイスを守ってきたのだ。だから、俺がヴァイスになった時に元々違和感だって感じていたはずなのだ。

 そして、それだけじゃない。


 

 フィリスの時に前世の事で弱音を吐いたり甘えてしまったもんな……



 俺はどう答えようか迷う。正直クレスが人生二回目を隠しているように、異世界転生も本来ならばありえないことのようだ。だから、強引に誤魔化せば彼女は引いてくれるだろう。だけど、それでいいのだろうか?



「申し訳ありません、ヴァイス様。変なことを聞いてしまいましたね。お茶も冷めてしまいましたし、もう一度淹れなおして……」



 押し黙った俺に気を遣ってか、話を終わらせようとするロザリアを気づいたら呼び止めていた。



「ロザリアがさ、急にそんなことを聞こうと思ったきっかけはなんなんだ? だって、その聞き方だと元々は違和感は感じていたのだろう?」

「それは……笑わないで聞いていただけますか?」



 俺の言葉に彼女は少し悩んだように眉をひそめてから、真剣な表情で俺を見つめてくる。そして……その重い口を開いた。



「クレスさんとの戦いの時の話です。あの人が私がヴァイス様を守るために命を落としたと言ったときに不思議な光景が浮かんできたんです。領民たちの反乱がおこり、燃えていく屋敷の中で、私は辛そうな表情のフィリス様とクレスさんと対峙をしていたんです。そして、その時の私の感情は……『ヴァイス様のために戦えてよかった』というものでした。おかしな話ですよね、フィリス様とヴァイス様が戦うはず何てありませんし、あんなに慕ってくださっている領民の方々がヴァイス様に仇なすはずないのに……」



 どこか辛そうな表情のロザリアが語る内容はゲーム本編の内容だった。二週目のクレスに記憶があることわかる。だけど……潜在的に彼女にも一回目の記憶があるのだろうか?

 二週目のゲームをプレイした時は特にテキストに変化はなかったが、ゲームのキャラたちも実はぼんやりとだが頭に浮かんでいたのだろうか? 

 しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。俺はどこかすがるように見つめているロザリアに言葉をなんと返そうか悩む。



 正直さ……誤魔化そうと思えば誤魔化せると思うんだよ。だけど、それじゃあ、ダメな気がするんだ。これはヴァイスとロザリアの物語に割り込んだ俺の責任なのだから。


 だけど、彼女に敵意を向けられたら俺は耐えられるだろうか。ヴァイスにとって彼女が特別だったように俺にとっても特別だ。

 異世界転移した俺に優しくしてくれた彼女。いつでも、俺を支えてくれた彼女。そして、俺の推しを支え続けてくれた彼女。

 そんな彼女に嫌われるのが怖い……



「ああ、そうか……ロザリアのことをヴァイスが大切に想ってたってだけじゃない。俺自身も彼女を大切に想っていたんだ……」

「ヴァイス様……?」



 俺は今更ながら自分の気持ちに気づく。だけど……こんな状況なのに俺を心配してくれる彼女に俺は嘘をつきたくなんてなかった。



「今から話すことはすべて真実だ……信じられないことかもしれないけど聞いてほしい」

「はい……もちろんです」



 そして、俺は彼女に、これまでの事をすべて話す。俺がヴァイスになったタイミング、謎の神の力でこちらの世界にきたこと。そして、俺がヴァイスと話したこと。俺はヴァイスたちを幸せにするために生きているという事を。



「そんなことが……本当に……」



 すべて話した俺に対して、ロザリアが信じられないとばかりにつぶやいて俺を見つめながら再び黙るのを感じる。彼女は今どんな目で俺を見ているのだろうか……

 怖くて、俺は顔を上げることができなかった。だってさ、これまで仕えてきた人間が体を乗っ取った人間だなんてわかったら、どんな感情になるっているんだよ……



「ヴァイス様、私は……」



 彼女が何かを言おうとして……俺は一瞬耳をふさごうとして……



 しょうがねえなぁ、今回だけは俺が力をかしてやるよ



 その言葉と共に俺の意識は闇にのまれた。




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久々のキャラが登場します

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