第103話 強くてニューゲーム

「ヴァイス様、この装備って王都で流行っているんでしょうか?」

「かっこいいからな、当たり前だ」

「……もしかして、私のファッションセンスがおかしいのでしょうか?」



 ロザリアが困惑の声を上げるのも無理はないだろう。俺たちが駆け出して行った先にいたのは、一人の人影とそのまわりで倒れている警備兵らしき武装した連中だった。そして、その襲撃者らしきものも俺と同じパンプキンヘッドを装備していたのだから……



「あいにくだけど、ここにいる貴族はもう殺したあとだよ。来るのが遅かったね」

「いや、別にそんなのはどうでもいいんだよ。むしろ余計な手間が省けてお礼を言いたいくらいだぞ」

「ふぅん、そうか、それは幸いだよ。光の天使よ、我らが敵を貫け」

「ヴァイス様!!」



 敵のパンプキンヘッドの詠唱と共に、槍を持った光が翼の生えた人の形となって襲ってくるのをロザリアが槍で押しとどめる。

 そして、俺はロザリアの制止を無視して敵に斬りかかる。



「はは、いきなり中級魔法放つ上に正体を隠して悪者退治とは、最近の学生は随分と、行儀がいいみたいだな!! クレス!!」

「君こそパンプキンヘッドの効果を知っているとは……やはり、僕と同じように神に認められた人間か、フィリスをいじめていただけの悪徳領主が強くなったものだね、ヴァイス=ハミルトン!!」



 俺たちは斬り合いながらも正体を隠しているお互いの名前を呼ぶ。そう、パンプキンヘッドの真の効果は幻覚によって正体を隠すアイテムになるのだ。現に俺の目には彼がどんな武器をもっているかもわからない。ぱっと見ただの被り物にこれの効果を知っているのは、一度使ったことのある人間だけだろう。

 そして、ゲームではイベントで強制装備をされるイベントがあるので、彼はこの効果を知っていて身に着けていたのだろう。俺も……決してテンションがあがってつけていたわけではないのだ。いや、本当に!!



「ヴァイス様は、悪徳領主なんかではありません!! 氷よ、束縛せよ!!」

「そうかい!! 彼は命をとして、守ろうとした君を見捨てて逃げるような人間だよ。光よ、我をまもりたまえ!!」



 斬り合っている俺たちの間を縫うように氷の鎖がクレスを拘束しようと、迫るがクレスの詠唱と共に彼が不思議な光に包まれると、嘘のように氷の鎖は消え去っていた。

 ステータス異常回復魔法である。いや、接近戦もできて攻撃も、回復とかもできるってチートすぎないか? てかさ……



「お前がヴァイスの何を知っているんだよ!! 勝手に知ったふりをして語るんじゃねえよ!!」

「だとしたら、私は本望だったでしょう。ヴァイス様のために死ねたのですから」

「くっ、流石に……戦の王よ、我に加護を!! 汝の力を貸し与えよ」



 クレスの一言に俺たちの攻撃が激しくなるが、相手は身体能力アップさせる上級魔法を使いでさばききってやがる。

 てか、こいつ……魔法はすごいけど、剣術はそこまでじゃないな……ゲーム本編の主人公はバランス型だが、魔法はあくまでサポート系が多い。強さを求めるのならば剣術だ。なのに、このステータスのいびつさ……転生者だったら、普通は剣術に力を入れて、魔法はサポートくらいにするというのに……



「ロザリア……ちょっと無茶をするから守りを頼む」

「わかりました。ヴァイス様のことは必ずお守りします」

「くらいやがれ!!」



 その一言共に、俺の防御を一切に考えない突きがクレスの左手をかすめて血がにじむ。だが、彼の鞘が光ったかと思うと、すぐに傷は癒えた。

 そして、体勢を崩した俺を狙う一撃をロザリアがいなす。ああ、これで、確信が持てた。こいつの持っている武器はおそらくエクスカリバー、常に、体力回復効果がついているチート武器だ。そして、それを手に入れる条件は一つだけ。



「お前……人生二回目だな」

「やはり、君もそうだったか、ヴァイス=ハミルトン」



 俺の言葉にクレスがにやりと笑った気がした。そう……ゲームでいう『強くてニューゲーム』というやつだ。スキルと一部のアイテムを引き継いだうえに、「エクスカリバー」を入手した状況でもう一度最初っからプレイできるのである。

 ただし、レベルは引き継げず、1に戻る。それが彼のいびつな強さの秘密なのだろう。さて、どうするか……ここから俺はこいつに敵意がないとどうやってアピールをすればいいんだろうな……転生者の方がまだましだった気がする。


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クロノトリガーというゲームの強くてニューゲームは衝撃的でしたね。


というわけでクレス君は人生二回目でした。まあ、彼からしたら、一度目に比べて変な行動しているヴァイス君はあやしいだろうなぁ……

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