第56話 一騎打ち

実の所、ヴァサーゴとの一騎打ちのイベントはゲームでもある。だから……こいつのやりそうなことは大体予想がつく。とはいっても、ゲームのヴァサーゴは魔剣なんぞ持っておらず、状況的にも主人公の兵士たちに囲まれている状態で、やけくそ気味に主人公を挑発して一騎打ちに持ち込むという状態だったのだが……

 まだ、勝負が分からない状況で、一騎打ちに持ち込んでくるとはな……俺を舐めているのか、アイギスに良いところを見せたいのか……それとも、魔剣の力に飲まれ好戦的になっているのかもな。



「それでは……ヴァサーゴ=インクレイとヴァイス=ハミルトンの一騎打ちを始めます」


 

 伝令魔法が飛び交い、戦場ではもう、戦いの音が止み、両陣営の兵士たちが俺達の勝負の行く末を見つめている。

 我が領土の兵士はもちろんの事、相手の兵士たちもこの一騎打ちに否定的ではなかったという事は、彼らも本当は戦いたくはなかったのだろう。ましてや、当初は楽勝と言われていたのに、無茶苦茶苦戦をしているのだ。当たり前だろう。それに……これで負ければすべての責任はヴァサーゴにおしつけれるわけだしな。

 そんな事を考えているとヴァサーゴが禍々しく光る魔剣を掲げながら、にやりと笑う。



「どうした、黙って? 僕が怖いのか、ヴァイス? お仲間や部下のおかげで僕たちと互角に戦えたようだけど、今回はばかりはそうはいかないぜ」

「邪教や魔剣の力に頼っているだけのくせにずいぶんとかっこつけるな。あのな……俺は怒ってるんだぜ!! お前のせいでどれだけうちの兵士が死んだり怪我をしたと思ってるんだ!?」

「はっ、そんなの僕という英雄の覇道の犠牲になるんだ。あの世で感謝しているだろうよ!!」



 その一言と共に、ヴァサーゴが斬りかかってくる。確かにそれなりに鍛錬はしているのだろう。その動きは早いが……カイゼルやロザリアに比べれば敵ではない。敵の攻撃を俺が受け流そうと剣を重ねた時だった。



「うおおお!?」

「ははは、どうした? 無様だなぁ!!」

「うう、お父様の魔剣があんなやつに!! ヴァイス気を付けて!! 『ダインスレイブ』は金属すらも切り裂くわ!!」



 アイギスの言う通り俺の剣を紙でも斬るかのようにして斬りやがった。ふざけんなよ、金属ってあんなに簡単に切れんの? ゲームで使っていたアイギスの防御無視攻撃はこういう事だったのだろう。てか、クールタイムで光線放てない状況なのに、接近したらこれはやばいな……

 だけど……チートなのは武器だけだ。俺は得意げな笑みを浮かべているヴァサーゴに嘲るように言った。



「今ので俺を仕留めきれなかった。お前の負けだな」

「何を言って……え? 上級魔法だと!?」

「影の暴君よ、その腕を我に貸し与えん!!」

「ぐえぇぇぇ」



 俺の詠唱と共に影が巨大な獣となり、そのするどい爪が受け止めた剣ごとヴァサーゴを吹き飛ばす。魔剣は宙を舞い、ヴァサーゴは胸から血をまき散らしながら、そのまま地面に倒れる。別に魔法を使っちゃいけないという約束はしてないからな。そもそも俺は魔法のが得意だし。そして……上級魔法を使った瞬間、味方陣営から鋭い視線を感じたのは気のせいか?

 そして、俺は影の獣の一撃で胸から血を流し、苦しそうに呻いているヴァサーゴを見つめながら、次に来るであろう攻撃に備えて、もう一つの魔法を唱える。



「くっそ、やれ!!」

「影の腕よ、我に従え!!」



 ヴァサーゴの命令によって彼の部下が放った矢を俺の影の手が受け止める。死角からの攻撃をまるでしっていたかのように対処した俺を信じられないという表情で見つめているヴァサーゴに俺は吐き捨てるように言った。



「お前のやりそうなことはわかっているんだよ。これでこいつの反則負けだ。捕らえろ!!」



 今ので俺を殺していれば、状況は多少変わったかもしれないが、それも失敗に終わった。卑怯な真似をしたヴァサーゴに愛想が尽きたのか、俺の兵士があいつを捕えるのを部下たちですら止めはしなかった。もちろん矢を放った彼の部下も捕縛済みだ。

 

 


「ヴァイス様さすがです!! お強くなられましたね」

「やっぱりヴァイスはすごいわね!! 魔剣を使った相手も倒すなんて!!」

「ちょっと焦ったけど……よかったわ……治療の必要がないのが一番ですもの」

「おめでとー。あ、でも、悔しいからハーレムにはさせないよ」



 勝利した俺にみんながかけよってくる。確かにナイアルがいなかったら、ハーレムだったな!! 別にちょっと残念だななんて思っていない。



「くそ……なんでだ。お前だって、優れた妹が憎かったんだろ? 領主の座を妹に奪われそうになったんだろ!! だから、自分の親父を殺して領主になったんだろうが!! 僕と同じじゃないか!! なのに……なんでお前はそんなに慕われているうえに強いんだよ!!」



 我が領土の兵士に捕らえられたヴァサーゴが憎々し気に俺をにらみつけながら叫び声をあげる。彼を守ろうする兵士も、庇おうとする従者もいないようで、彼の部下たちはただ遠巻きに見つめているだけだ。

 それにしても、なんで俺が父を殺したとか言ってんだ? ああそういや、こいつはハデス教徒にもらった毒で身内を殺して領主になったんだっけ。

 だから、俺も同じことをしたと勘違いしたのだろう。そして、こいつは勘違いをしている。ヴァイスとお前が同じはずがないだろうが!!



「何を言っているんだ。親父が死んだのは本当に偶然だし、俺はフィリスの事は羨ましいとは思ったが憎んではいないぞ。それに……お前は領主になった後に何をやった? ちゃんと領民のために働こうと思ったのか?」

「何を言っているんだ? 僕を認めなかった……馬鹿な弟を領主として認めるような奴ら何てどうなってっていいだろうが!!」

「そこだよ……そこがお前と俺の違いだ……そして、お前は剣術も基礎はできているが、動きが鈍かったな……領主になってからは剣を振るったことはあるのか?」

「くっ……」



 俺の言葉にヴァサーゴは悔しそうに口を紡ぐ。そう、そこが違いだ……ヴァイスはなんだかんだコンプレックスを背負いながらも努力はしていたのだ。だけど、こいつにはそれがなかった。ただ自分を不幸だと嘆き、楽な方に流されていったのだ。こいつとヴァイスは似ているようで違う。だから俺はこいつを推せなかったのだ。



「でも……」

「あんたが誰だかしらないけど、ヴァイスはすごいし、頑張っているしかっこいいんだから!!」



 それでもなお何かを言うとした彼の前にアイギスが割り込んだ。それにロザリア達も続く。



「そうですよ。それにヴァイス様は頑張っているから……一生懸命努力をしているから強いんです。あなたと一緒にしないでください!!」

「あなたに敵地にいって、誰かを救うような気概があるかしら? とてもそうは見えないわね」

「くっ……」



 彼女達の言葉にヴァサーゴは悔しそうに顔を歪めた。そうして、この戦争は終わり……そう思った時だった。



「所詮使えぬ領主だな。まあいい、お前の暴走でみんな死んだ。そういうことにしておいてやろう。ヴァサーゴよ、この魔剣も領主の座には貴様はふさわしくない。敵ともども死ぬがいい!!」

「カイザード!! 僕を裏切るのか?」

「ふん、三将軍である私が貴様のような無能に忠誠など誓うものか!! 私が貴様の後はついでやる!!」

 

 いつの間にか魔剣を拾っていたのか、立派な鎧を着た男が魔剣を掲げてこちらに向けて振りかぶろうとしている。くっそ、クールタイムが終わっていたのか!! てか、人望なさすぎだろ、地面に向けて剣を振るおうとする。自爆覚悟かよ!! まずい……このままじゃ……そう思った時だった。



「やらせん、ヴァイス様は我らの希望だ!! この身を犠牲にしても守って見せよう!!」

「ちぃ!!」



 カイゼルが自分の剣をカイザードに向けて投げつけるとそのまますさまじい速さで迫る。とっさに、魔剣ではじいたカイザードに隙が出来た時だった。



「不死鳥よ、我が敵を焼き払いたまえ!!」



 アイギスが連れてきた赤髪の女性が魔法を詠唱すると、鳥の形をした炎がカイザードにまとわりついて、一瞬にして消し炭になった。

 上級魔法だと……そして、この二人は……



「見てたわよ、本当に上級魔法を使えるのね。やるじゃない。でも、まだ詰めが甘いわね。」

「お久しぶりです、お兄様。魔剣は拾っておきますね」

「また、私の出番が……」



 そういうと二人の女性は仮面とローブを脱ぎすててて俺にあいさつをする。カイゼルが何か言っているが気にしている場合ではなかった。

 だって、魔法を放った赤髪の女性と、俺をお兄様と呼んだ紫髪の女性はゲームでもとてもなじみのある人物だったのだから……

 



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最後の二人組誰なんだ……?


そして、三将軍の扱いが……

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