第55話 ヴァイスとヴァサーゴ
援軍の数は五十人と少数ではあるが、一人一人がすさまじい能力を持っていた。おそらく、ブラッディ家の精鋭なのだろう。武官であるインクレイ家の兵士たちを次々となぎ倒していく。
そして、そのおかげで敵に動揺が走った。まあ、変な仮面をつけた集団にいきなり襲われて、しかもそいつらが無茶苦茶強かったらビビるよな。何はともあれチャンスである。
「一気に攻めるぞ!!」
「「はい!!」」
「きゅーー」
俺の号令にロザリアとカイゼル、ホワイトが答え、振り落とされまいと、無言でアステシアが俺にしがみつく。そして、彼女はアイギスが連れてきた援軍たちを見てぼそりと言った。
「あの掛け声……何かの儀式かしら……良くない気配がするわね」
「確かに不気味だけど、深い意味はないんじゃないか? なんか、ブラッディ家の人間ってわからないようにするために適当に言わせてるらしいぞ。いやでも……なんか聞いたことがあるんだよな? ってあぶね!!」
「きゅーー!!」
一瞬何かを思い出しそうだったが、飛んできた矢がこちらをかすめた事によって思考が中断される。ホワイトがビビって俺の甲冑の中に入り込んだ。確かに戦場はすさまじい状況だった。しかし、優勢なのはこちらだ。
魔法や矢が飛んでくるが、それをロザリアの氷と、ナイアルの触手が弾き、カイゼルとアイギスの剣が敵を打ち倒す。もちろん俺の影も相手を転ばせたりと活躍している。
そして……本来厄介なはずのハデス教徒の大半はアステシアの力によってその加護を無効化されて、成すすべもなく倒されていく。アイギスはブラッディ家につたわる魔剣をもってきたらしく、振りかざすとともに真空波が発生して、敵を切り刻む。
「ふふん、所詮加護にだけ頼っている邪教の信者ね、私たちの敵じゃないわね」
「これがブラッディ家の魔剣『テンペスト』よ!! 喰らいなさい、そして思い知るの!! 武力よ、武力は戦場で全てを解決するんだから!!」
流石はゲームの二大ボスである。まだその能力は発展途上にもかかわらず相手を圧倒する。敵にしたら厄介だが、仲間にしたら心強すぎるな……
そうして、俺達は予想以上に苦戦せずに、ヴァサーゴの元へとたどり着いたのである。
「やるじゃないか、まさか、こんなにも早くここに来るなんてねぇ。ちょうどいい、君達に話があるんだ」
精鋭たちのおかげであっという間にやって来た俺達に対してヴァサーゴは隠れもせずに、刀身が血の様に真っ赤な魔剣を、その手に持ち堂々とした様子で出迎える。
周りの兵士たちも武器を構えているが、なぜか攻めてこない。もちろん、俺達を歓迎しているわけではないだろう。何を考えているかわからんな……
「あいつが親玉ね、殺すわよ!! ってあの剣、まさか……」
「そうね……辛気臭い顔しているし邪教でしょう。天罰を下しましょう」
「ちょっと待った!! なんか話があるっていってるだろ!! 気持ちはわかるけどさ!!」
魔剣に気づいたアイギスが魔剣を、アステシアが問答無用でおっぱいサンダーを放とうとしたのを俺は慌てて止める。この元悪役たち物騒すぎるな!!
相手の兵士たちが攻撃をしてこない。という事は何らかの交渉をしたいという事だろう。正直無視して、斬りかかりたいが、戦争をしているとはいえ俺達は同じ派閥の貴族である。多少の礼儀というものがあるのだ。いや、もうここまで来たらどうでも気もするけどさ……
「ヴァイス=ハミルトン……悔しいけど、お前たちは僕が思ってたよりもやるみたいだね。そして……まさか、アイギス様を戦場に引き連れるほど気に入られるなんてね……ちゃんと彼女がかかわらないように手は打ったはずなんだけどな……」
そう言ってヴァサーゴは、どこかうらやましそうにアイギスを見つめる。この視線……マジでこいつはアイギスの事が好きなのだろうか? そういや、誕生日パーティーでも口説いていたもんな……
「……? あなたは誰かしら? いいから、お父様の剣を返しなさい!! 今なら半殺し二回で許してあげるわ!!」
怪訝な顔をするアイギスの言葉にそれまで余裕ぶっていたヴァサーゴの表情が固まる。てか半殺し二回って殺しているじゃねーか、許す気ないだろ……
それに対するヴァサーゴはという哀れなくらい慌てて自分の存在を主張する。
「え? 僕ですよ、ヴァサーゴ=インクレイです!! 幼少の時には共に剣を学び、パーティーでも何度もお会いし、この前の誕生日パーティーでもお話をしてたじゃないですか?」
「知らないわ。それに、私はあなたの事は嫌いよ!! だって、魔剣を返さないうえに、他人を……私の大事な友人であるヴァイスを見下しているでしょう!!」
「な……僕はあなたにボコボコにされてから、ずっと忘れられなかったというに……」
存在を認識されていなかったうえに、全否定されてたヴァサーゴは泣きそうな顔で声を漏らす。ちょっと見ていて可哀そうになってきたな。
まあ、こっちに冤罪をふっかけて戦争をおこしたんだ。ざまぁみろって気持ちの方が強いし容赦はしないけどな。
すると、ヴァサーゴはなぜか俺を憎しみに満ちた目で見つめて言った。
「まあいい、ヴァイス=ハミルトン!! 僕と一騎打ちをしろ!! どっちが優れた領主なのか、アイギス様に証明してやるよ!!」
「一騎打ちか……」
いきなりの提案に周囲がざわっと騒がしくなる。敵軍の兵士もヴァサーゴがそんな事を言うとはおもってもいなかったようだ。
正直これで俺達の一騎打ちで決着がつくなら、これ以上の兵の被害が無くて済むだろうし都合がいい。リーダーであるヴァサーゴががいなくなれば相手も大人しく成るだろうしな。
そんな事を思っているとロザリアと目が合った。彼女は俺をじっくりと見つめて頷いた。どうやら、考えは筒抜けらしい。
「ヴァイス様……信じています。あんなやつやっつけちゃってください!!」
「ああ、任せろ。その提案のったぜ!! 俺がぶっ倒してやるよ!!」
心配性のロザリアが安心した顔で送り出してくれる。それが嬉しくてつい気合が入ってしまう。そうして、最終決戦が始まる。
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