第57話 二人の来訪者
アイギスが連れてきた仲間の一人が放った魔法によって、三将軍が魔剣を使うのは未然に防がれた。
それはいい……だけど、なんでこの二人がいるんだ? 少なくともゲームでは主人公が、ヴァイスを倒そうとするまではハミルトン領に来ることはなかったはずだ。
「ヴァサーゴ=インクレイ。邪教と通じた上に、一騎打ちに横やりまで入れて……本当に救いがないわね……これはハミルトン領に攻め入った理由に関しても、調査が必要かしら……まあ、今頃ダークネスがやってるでしょうけど」
「お前はなんなんだよ!! 何の権限があって僕にそんな口をきいているんだ!! 僕は領主だぞ!!」
「ふふ、権限がならあるわよ、ヴァサーゴ=インクレイ!! 私はスカーレット。十二使徒が一人『煉獄の魔女』と名乗ればあなたもわかるかしら?」
魔法を放った女性が髪をかきあげると、炎のように美しい髪が舞う。意志の強そうな瞳に、ローブの上でもメリハリがわかる起伏の豊かな体の20歳くらいの美女である。
そして……彼女の言葉を聞いたヴァサーゴの顔が絶望に染まる。
「十二使徒だって……なんでこんなところに……」
ざわついたのはヴァサーゴだけではなかった。わが軍の兵士も敵兵も状況が把握できずに困惑の声があふれる。
「さっきの魔法、あれが『煉獄の魔女』の力か……」
「いや、本当かよ? こんな辺境に十二使徒がわざわざ来るのか?」
皆がざわつくのも無理はない。ダークネスはあんなんだったが、本来は十二使徒は特別な存在であり、上級貴族くらいすごい存在なのだ。てか、俺だって状況を把握できていないんだよな。本来ならば王都にいるはずのスカーレットが何でこんなところにいるんだよ!!
兵士たちの本物かどうか信じられないというも言葉もわかる。だけど、俺はスカーレットの事を知っている……いや、彼女だけではいない、魔剣を片手にこちらをじっと見つめほほ笑んでいる紫髪の少女の事もだ……
「これはサービスよ、ヴァイス=ハミルトン」
その言葉と共に捕えられたヴァサーゴと、俺の顔が空に映った。これは……幻惑魔法の応用か!! 声ではなく映像まで戦場に届けると言うのは伝令が使う魔法とはレベルがけた外れのはずだ。それをこんなにあっさりと……
驚いている俺を見て、にやりと笑う赤髪の女性……スカーレットが目線でさっさとやれとばかりに訴えてくる。
「ああ、ありがとうございます……ヴァサーゴは捕えた!! ここにて、我らのハミルトン領の勝利を宣言する!!」
そうして、戦場に勝利の雄たけびが響き渡ったのだった。
戦争も終わり、色々と戦後の処理をこなしながら数日が立った。あのあと、俺達は何やらやることがあるというナイアル以外は帰宅し、久々に体を休めたのだ。その時に久々にステータスを確認したのだが……これはなんだろうな……
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ヴァイス=ハミルトン
武力 50→55(実戦経験によってアップ)
魔力 75
技術 30
スキル
闇魔術LV2
剣術LV2
神霊の力LV1
職業:領主
通り名:普通の領主
民衆の忠誠度
40→50(戦争の勝利によって兵士たちの忠誠度がアップ)
ユニークスキル
異界の来訪者
異なる世界の存在でありながらその世界の住人に認められたスキル。この世界の人間に認められたことによって、この世界で活動する際のバットステータスがなくなり、柔軟にこの世界の知識を吸収することができる。
二つの心
一つの体に二つの心持っている。魔法を使用する際の精神力が二人分使用可能になる。なお、もう一つの心は完全に眠っている。
(推しへの盲信)リープ オブ フェース
主人公がヴァイスならばできるという妄信によって本来は不可能な事が可能になるスキル。神による気まぐれのスキルであり、ヴァイスはこのスキルの存在を知らないし、ステータスを見ても彼には見えない。
神霊に選ばれし者
強い感情を持って神霊と心を通わせたものが手に入れるスキル。対神特攻及びステータスの向上率がアップ。
異神十二使徒の加護 NEW
ゼウスでもハデスでもない異界の神に認められた十二人の強者にのみ与えられるスキル。異神の加護にステータスアップ及び、自分より下の存在に対して命令を下すことが出来る。
ヴァイスは異界十二使徒の第二位であり、第三位から第十二位は空位。世界が異神の存在を認識したことによってスキルが目覚めた。
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異神とやらに忠誠を誓ったり信仰した記憶はないのだが……そして、異神なんてゲームには登場しなかったはずだ。考えられるとしたら、俺をこの世界に呼んだあの声だろうか?
「ヴァイス様、来客がいらっしゃいました。大丈夫ですか?」
「ああ、ごめん。ちょっと考え事をしてたんだ」
「色々と大変でしたからね。これがひと段落ついたらお休みしましょう。神霊の泉にピクニックにいくのもいいかもしれませんね」
俺の思考はロザリアの言葉によって中断される。まあ、今は考えていても仕方のない事だろう。俺は気を取り直して仕事にかかる事にした。
そして、領主の部屋に二人の来客がやってきた。
「それで……今回の戦争の賠償金及び、捕虜としたヴァサーゴ=インクレイの身代金がこれくらいね。奴隷売買に関する資料にあなたの父の名前があったから、調査が入ると思うけど……本当に潔白ならば、すぐに終わるはずよ、安心しなさい」
「はい、ありがとうございます。スカーレット様」
戦後の処理の資料をいろいろとまとめてくれたスカーレットに、俺は緊張しながらもお礼を言う。今回の戦争に関しては、相手が複数の貴族を味方にしていたこともあり、本来ならばもっと揉めるような案件だったのだが、十二使徒であるスカーレットが間にはいったおかげで驚くほどスムーズに進んだ。誰もが十二使徒を敵に回したくはないのだろう。これなら戦争で戦死した兵士たちの家族への補償金や、費用などを払ってもおつりがくるだろう。
ついでとばかりに少し領地も増えたしな。問題はだ……
「それで……十二使徒であるスカーレット様がこんな僻地に何をしに来たのでしょうか?」
「あらあら、可愛い弟子の実家に遊びに来ただけ……じゃあ信じてもらえないかしら? ねえ、フィリス」
「お久しぶりです。お兄様、ロザリア」
スカーレットにあいさつを促されてフィリスが席を立って、上品にお辞儀をする。結局バタバタしていたこともあり、あの戦場で再会してからちゃんと話すのはこれが初めてである。
いや……俺が無意識に避けていたのかもしれないな……
「ああ、元気そうで何よりだよ、フィリス」
「魔法学校は楽しめていますか? フィリス様」
「はい、師匠のおかげで、楽しい生活をさせていていただいています。お兄様も、領主として活躍されているようでよかったです」
ヴァイスとフィリスの関係はあまりよくなかったからか社交辞令的な会話が続く。さっきから胃が痛いのは俺の内なるヴァイスの気持ちと……俺の前世の妹への感情のせいだろう。というか、この子ゲームとキャラが違うんだけど……
そして、会話がひと段落ついたときにスカーレットが、新しい話題をふる。
「それで……ダークネスと一緒にハデス教徒の十二使徒を倒した時に王級魔法を使ったっていうのは本当かしら?」
「え……?」
鋭い視線で、スカーレットがこちらを見つめてくる。ああ、彼女の目的はこれか……彼女は魔法に関して異常なまでの興味を見せるからな。王級魔法を使える人間は少ない。それで、俺に興味を持ったのか……
どうするか……本来だったらあまり目立ちたくはないが、ダークネスにはばれているし、今回の件で、ハデス教徒との敵対は致命的なものになった。彼女たち十二使徒とは仲良くしておいた方がいいだろう。
問題はフィリスだよなぁ……すました顔をしてロザリアの入れた紅茶を飲んでいる彼女見て思う。今の俺を彼女はどう思っているのだろうか?
「それで……どうなのよ、めんどくさい書類を手伝ったんですもの。それくらい教えてくれるわよね」
スカーレットが好奇心に満ちたキラキラとした目で見つめてくる。ああ、なんで彼女がわざわざ十二使徒の名前を使ってまで手伝ってくれたかわかった。
俺の魔法によっぽど興味があるらしい。まあ、ここで彼女を好感度を稼いでおいて損はないだろう。
「もちろんです。ただ、ここではあれなので中庭でお見せしましょう」
「うふふ、やったー!! どんなものか楽しみね。あと……もう一つ聞いていいかしら?」
俺の言葉に笑顔になった彼女だが、再び鋭い視線で俺をにらみつける。え、なんか失言あったかな? てか、スカーレットの顔が真っ赤な気がするんだけど……
そんな彼女を応援するようにしてフィリスが声をかける。
「師匠、ファイトです!!」
「ええ……その……ダークネスのやつ、私の事なんか言ってなかったかしら?」
「「は?」」
予想外の言葉に俺だけじゃなくて、ロザリアまで間の抜けた言葉を上げてしまった。まって、この人まさか……
「な、なんでもないわ、今のはなしよ、中庭に行くわよ」
「ああ、師匠、そっちは中庭ではないですよ!! 待ってください。ああ、もう恋愛が絡むとポンコツになるんだから……」
そういって、さっさと出ていくスカーレットと慌てて追いかけるフィリスを見て思う。この20歳可愛いな!!
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わーい、主人公に新しいスキルが手に入ったよ!!
なんでいきなり入ったんでしょうね……
というわけで戦争編は終わり義妹編はじまります。
また二人のハデス教徒と、ヴァサーゴが持っていた魔剣は出番がちゃんとあるのでもう少しお待ちを
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