第58話 ヴァイスの魔法

「じゃあ、初級魔法を使って見なさい。あなたの腕前がどんなものか見てあげるわ。そうね……影の手でお手玉でもしてみなさいな」

「ああ……魔法学校の試験内容と同じですね。確か最低ラインが、一本の手で一つの石を持ち上げるでしたっけ?」

「良く知っているじゃないの。結果次第では、あなたを特待生として、私の教室に招いてあげておげてもいいわよ」

「スカーレット様、申し訳ありません。ヴァイス様は我が領土の大切な領主なのでスカウトは勘弁していただけると嬉しいです」

「ちょっとくらい、いいじゃないのよー!!」



 何とか俺を魔法学園に入学させようとするスカーレットをロザリアがたしなめると、ちょっと拗ねた顔をした。

 ちなみにこの試験はゲームのチュートリアルにあるイベントだ。そこで主人公はすごい魔法の才能を見せつけて、スカーレットにスカウトされるのである。ちなみに主人公の場合はゲームを始めるときに最初に好きな属性を選んだりする。羨ましい限りである。



「わかります、やってみますね」



 スカーレットは俺が魔法を使う所を目を輝かしてみつめている。実の所彼女はゲームでも重要キャラなのである。十二使徒であり、主人公とフィリスの魔法の師匠なのだ。

 魔法を上手に使える人間には甘く、ここで王級魔法を使って見せれば彼女の中で俺の存在は大きくなるし、主人公達の力を借りることだってできるかもしれない。もう、ゲームとはだいぶ変わってしまっているが、ハデス教徒と敵対している以上、彼らと仲良くしておくためのコネはあるに越したことはない。



「頑張ってくださいね、お兄様」

「ヴァイス様、ポーションの準備はしてあるので、ご安心ください。ヴァイス様のすごいところをみ見せてあげてください!!」



 ロザリアはもちろんの事フィリスも応援をしてくれている。この子が何を考えているかはわからないが、とりあえずは良いところを見せておこう。



「影の腕よ、我に従え!!」



 俺の詠唱と共に、影の腕が5本でてそれが独立したように動いて石を一つずつ拾って、お手玉をしてみせる。訓練は欠かしていないのでロザリアに見せた時よりもだいぶ成長したがどうだろうか?



「ふぅん、制御力は中々やるわね。でも、私はこれくらいなら赤ちゃんの時にはできたわよ」

「師匠……負けず嫌いが過ぎませんか? お兄様……すごいです!! こんなに器用に魔法を使うのは私でも無理ですね」

「流石です、ヴァイス様。あれからも慢心せずに訓練を続けてくださったのですね!!」



 スカーレットがちょっと驚いたように目を見開いた後に、澄ました顔で鼻を膨らます。ふふ、やはりヴァイスは優秀なようだ。転生してから毎日可能な限り魔法を使う訓練はしていたからな。威力はわからないが制御力には十分あるのだ。

 スカーレットが澄ました顔をしたまま俺の影の手に触れると眉を顰めた。



「まあいいわ、でも、制御力に気を取られすぎて、出力が少ないわね。もっと普通にやっていいわよ」

「え、これが普通ですが……」


 

 スカーレットの言葉に今度は俺が怪訝な顔をする。もちろん、制御には気を遣っているが、別に威力を加減してるわけではない。

 


「そんなはずは……まあいいわ。じゃあ、ちょっと王級魔法を使って見てくれるかしら。的は……そうね、これを叩きなさい。炎を司る不死鳥よ、その姿を現さん!!」



 スカーレットの詠唱と共に現れた炎が火の鳥を模した形になる。これが彼女の上級魔法であり、フィリスが将来受け継ぐ魔法である。あの炎はただの炎ではなく、対象を燃やし尽くすまで、消えないという性質を持つのだ。

 ゲームでは毎ターン一定のダメージを与える効果があるので長期戦では重宝したものだ。それにしてもスカーレットの表情が気になる。俺の魔法はどこかおかしかったのだろうか? まあいい、結果で納得させればいい。

 魔力回復ポーションを飲んだ後に、今頃アステシアに毛づくろいでもされているであろうホワイトの加護を感じながら俺は王級魔法を放つ。



「常闇を司りし姫君を守る剣を我に!! 神喰の剣!!』



 俺の影が人の形になり、今にも暴れそうな圧倒的な闇を、剣に宿して火の鳥に斬りかかる。効果は一瞬だった。王国の頂点に近い魔法使いの魔法とはいえ、上級魔法は上級魔法だ。俺の王級魔法の相手ではなく、火の鳥は一瞬にして、闇に覆われて、悲鳴を上げながら無と化した。これで合格かなと思うとスカーレットは信じられないものをみたかのようにして、ぶつぶつと呟く。



「え? なんで……あの程度の魔力で王級魔法が使えるの? あの魔力では本来上級魔法だってイメージできないはず……というか、今、別の人間の魔力が補充されたような……でも、どこかいびつだったけど、あれは確かに王級魔法だった……考えられる可能性はなにかしら……それに……普通よりも疲労が大きそうね……つまりは……」

「あのスカーレットさん……?」



 なにやら俺の魔法を見て、ぶつぶつと呟いた。え? 俺が王級魔法をつかえるはずがないってなにを言っているんだ? 実際使ってるんだけど……まあ、ちょっとチートはしているものの今使えるということはヴァイスは将来使えるようになるってことだろう?



「ねえ……あなた……もしかして、詠唱後のイメージが自分の脳内に浮かんだんじゃなくて、他人が使った魔法をイメージして魔法をつかったんじゃないかしら」

「え、なんでわかったんですか?」



 スカーレットの言う通り、俺の脳内に浮かんでいるのは中級魔法までだ。後はゲームでフィリスが使用した時のイメージを使っているのである。

 言い当てられてつい、返事をすると彼女の表情が険しくなる。がっかりされるだろうか? 人によってはズルをしていると感じるかもしれない……と思ったがそれは杞憂だった。



「普通はそんな事はできないんだけど……神獣の加護? いや、神獣の契約者にもあったことはあるけど、そんな能力はないはず……メイドさん。ちょっと書室をかしてくれるかしら。今の状況をメモらないと……ヴァイス君、あなた面白いわね。そんな方法で魔法を使うとしている人間はいままでいなかったわ。また話を聞かせなさい。うふふふふふふ、魔法の新しい可能性に立ち会えたわ!!」

「え、ちょっとスカーレット様……わかりました。案内しますから。引っ張らないでください。ヴァイス様、ちゃんとポーションを飲んでくださいねぇぇぇぇぇ」


 

 先ほどまでの顔が嘘のようにぱぁーっと満面の笑みを浮かべ、興奮したスカーレットにロザリアが引っ張られていく。一方的に告げて去って行ってしまった……ロザリアも十二使徒に失礼なことはできないと抵抗できないようだ。

 いきなりの事に俺はもちろんのことフィリスが頭を抱えている。



「申し訳ありません、師匠は魔法のこととなるとああなってしまうので……」

「ああ……別に気にしなくていいぞ」



 そして、俺とフィリスのふたりっきりになってしまった。正直無茶苦茶きまずい。もともとヴァイスは彼女に良い感情抱いていないうえに、フィリスがヴァイスをどう思っているかはゲームではあまり語られていないのだ。フィリスの設定資料集には『実の兄はいるが嫌われている』としかない上にゲーム内での会話も、ヴァイスと戦うときに一方的にヴァイスが罵倒しているだけだった。

 それに……情けない話だが、フィリスを見つめていると、俺が前世の妹を思い出してしまい胸がもやもやすするのだ。とりあえず二人っきりは避けよう。



「じゃあ、館に戻るか……」

「お兄様……よかったら、街を案内していただけませんか?」

「え?」


 俺の言葉を遮った予想外の提案に思わず聞き返すのだった。




----------------------------------------------------------



うわーい、デートですね!!

義妹ちゃんは何を考えているのでしょうね

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る