第66話 ダンジョンにて

ここはハミルトン領の魔物が大量に発生し、ヴァイスが戦力が整うまで放っておこうと言っていたダンジョンである。

 立ち入り禁止の看板を無視して二人と一匹の影が入っていた。



「ザイン様ぁ、ダンジョンって何でこうも湿っぽいんすかね? 早く家に帰ってペットたちをモフモフしたいっす」

「スターク……文句を言うなっての……でもそうだなぁ……こっちに来て教えてもらったお菓子のレシピを試したいんだよな。子供達もきっと喜んでくれるだろう」



 スタークはペットを、ザインはいつも可愛がっている孤児院の子供の事を思いながらため息をつく。今回の遠征はかなり長い事もあり、軽いホームシックにかかっているのだ。



「それにしても、ヴァサーゴのやつ使えなかったすね。戦力二倍で、魔剣も使って負けるとか……あんだけお膳立てしてもらって、何やってんだよって感じっすよ。やっぱりハデス様の加護がないやつは生きてる価値ないっすね」

「まあ、元々利用するための領主だからな。適度に無能で自尊心だけは高いのを狙っているんだ。仕方ないだろ……それにしてもお前の加護は本当にすごいな……俺いらなくないか?」

「えっへっへ、そりゃあ、ハデス様から頂いた加護ですからね。これくらい朝飯前っすよ」



 ザインがあたりを見回しながら褒めると、スタークは照れくさそうに頬をかく。魔物があふれるダンジョンだと言うのに、周りの魔物達全てが、まるで神を称えるかのように頭を垂れているのだ。

 これがザインがハデスから授かった加護『テイム』である。彼の能力は強力で、射程範囲に入った魔物全てを従える事ができる。すでに四つのダンジョンの魔物を従えていると言うのに、その力は衰える事を知らないようだ。

 しばらく歩くと、スタークの相棒の魔狼が声を上げる。



「ワォーン」

「ああ、お腹すいたのか? 負けたせいで異教徒達をろくに食わせてやれなかったからなぁ……」

「ワォーン!!」

「うーん、まじかぁ……確かに女っぽいが、鱗には気をつけろよ?」



 じゃれるようにスタークに甘える魔狼に苦笑しながら、撫でる。そして、指をパチンの鳴らすと、それまで頭を下げていたラミアという下半身が蛇の女形の魔物が起き上がった。



「無抵抗に食われろ」

「……」



 その一言で、感情の無い目をしたラミアはそのまま、自らの喉元を見せつけるようにして魔狼の元へと進む。すると、その白い喉に魔狼が食いついた。

 血しぶきをあげながら魔狼がラミアを食べ終えるのを待っている間に、二人は雑談を始める。



「でも、エミレーリオ様の後は誰が十二使徒になるんすかね、やっぱりザイン様じゃないっすか? ぶっちゃけ、戦闘力で言ったら、ハデス教徒の中でも二十番くらいじゃないっすか」

「そんなにほめてもお菓子しかでないぞ……って、二十番じゃ、十二使徒に入れねーじゃねーか、馬鹿にしてんだろ!!」

「あ、ばれました? ひぃぃぃ、命だけはお助けを!!」



 ザインが拳を上げると、わざとらしく悲鳴を上げるスターク。魔物が大量に出るダンジョンだと言うのに緊張感もかけらもないが、彼らにとっては魔物何て恐怖の対象にすらならないのだ。



「だいたい、俺は十二使徒なんて器じゃねーよ、こうして、任務にいって子供たちに土産話をしたり、そこで得たレシピでお菓子をつくってやる。それでいいんだよ……」

「そうですねぇ……わかりますわ。俺もペットが食うに困らないだけの餌を稼げれば満足ですからね。ああ、ここのボスをテイムしたら適当に、村を襲わせて、餌をたくさん用意しないと……子供がいるといいなぁ……こいつ生きたまま、ガキを食うのが一番好きらしいんすよね」

「お前な……魔物を暴れさせるのはいいけど、ちゃんと俺の分も残しておけよ。異教徒どもを殺してなぶって、子供たちに武勇伝を話してやりたいからな。ふふ、あいつらもいつかハデス様のために戦うんだ。楽しみだなぁ」



 二人は楽しそうに未来を話し合う。そして、彼がテイムした魔物とザインが暴れ周辺の村を襲うことによて、ヴァイスの民衆の忠誠度が下がるのが正史。

 だが、世界はとある存在によって、既に別の歴史へと動きを見せていた。



「シャー――!!」



 彼らの声に誘われたのか、ラミアの血しぶきに誘われたのか、奥深くにいるはずのリザードキングがやってきたようだ。

 リザードキングはリザードマンというトカゲのように全身がうろこで覆われた人型の魔物の亜種である。

 きらびやかな虹色の鱗に通常のリザードマンの二倍はあろうかという巨大な体躯に、冒険者が使用していたものを奪ったのだろう、錆びついた剣を右手に握っている。こいつはここの魔物を支配している強力な魔物である。



「こりゃあ、大物だ!!」



 予想以上の獲物に、スタークは思わず歓喜の声を上げた。リザードキングは魔物の中でも強力な個体である。この鱗は斬撃はおろか、魔法も弾くという。おまけにこいつは虹色で見栄えもいい。



 良いコレクションになりそうだな……



 正面から戦ったら十二使徒でも苦戦をするであろうが、そんな魔物に対してもスタークは余裕のある笑みを浮かべたままであった。



「ラッキー、奥までいかないで済んだぜ。従え!!」



 スタークがいつものようにテイムをしようとすると、違和感を感じる。なんだこれは……すでに他の存在に支配をされている……?



「おい、どうしたんだ。変な顔をして……こいつをテイムしたらさっさと……」

「気を付けてください、ザインさ……」



 ぐしゃりと何かがつぶれる音がして、あたりに血が舞う。スタークが言葉を言い切る前にリザードキングの剣がザインを潰したのだ。



「は……え? は……?」



 信じられない光景にスタークの思考が停止する。やばいやばい、なんで、俺のテイムがきかない? てか、ザインさんが反応しないってどれだけだよ



「きゃうーん!!」

「ダメだ!!こっちにくるんじゃない」



 主の危機を察知したらしき、魔狼がリザードキングに襲い掛かり、あっさりと返り討ちにあって押しつぶされた。

 剣を振るった時にリザードキングの身に着けた鱗の間から、なにやらタコの触手みたいなものが生えているのが見える。まるで、リザードキングに寄生しているようなそれを見て、スタークは嫌悪感と同時に本能的な恐怖を感じる。

 なんだ、こいつは……



「なんでだよぉぉ、俺達が何をしたっていうんだよ。ただ魔物どもを殺したり、異教徒どもを拷問したり、生きたまま食わせたりしただけだろ。何が悪いって言うんだよ。助けてくれ、ハデス様ぁぁぁぁ」



 意味の分からない恐怖に襲われ、足は震えて満足に動けず、スタークはこちらへと近づいてくるリザードキングに悲鳴を上げる事しかできなかった。そして、そのまま彼はリザードキングの一撃で絶命した。



「「ーーーーー!!」」



 そして、ダンジョン中で魔物達の雄たけびが響く。テイムをされていた不快感に対する反発である。「殺せ殺せ」と多種多様な魔物達が叫び声をあげる。

 そして、彼らは、憎き人間達に対して進軍をはじめるのだった。







ハデス二人組活躍せずに死んでもーた……


すいません、今日はプライベートがバタバタしているためこの時間に投稿します。

また、感想返しも後ほどおこないますー。

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