第67話 ラインハルトさんからのサプライズ
カイゼルからの報告を聞いた俺は手土産を片手に、急いでとある場所へと向かって馬車を走らせていた。ゲームではもっと先のはずなのに、もうスタンビートが来るのかよ!!
なぜだ? 俺達の戦争が刺激になったのか?
「ヴァイス様、カイゼルによる魔物撃退部隊の編制及び、アステシアさんによるアンジェラへの協力要請の手配は済ませました。それで、なぜヴァイス様、自らがブラッディ家に向かうのですか?」
「ああ、流石にわが軍も連戦はきついからな。援軍を頼もうと思ってな」
「その……狙いはわかりますが、ラインハルト様やアイギス様とは懇意にされているとはいえ断られる可能性もあるかと……」
ロザリアの不安ももっともである。今回の戦争でブラッディ家は中立を決め込んだ。アイギスが援軍に来てくれたがあれは彼女の独断だろう。
そして、断られる可能性がある援軍の願いに行くよりも俺が領地でやることはあるのではとそういいたいんだろう。でも、その心配は不要である。
「大丈夫だよ。今回は手土産があるからな」
「それはまさか……」
心配そうにしているロザリアに俺は厳重に封印された魔剣を掲げて見せて安心してもらう。そう、これはヴァサーゴのやつがもっていた『ダインスレイブ』である。元々はブラッディ家の物とは言え、戦争に勝った俺に所有権があるのだ。
まあ、俺が装備をしてもいいんだけどな……ここはラインハルトさんに貸しを作っておいた方が良い気がするんだよな。それに……これを使いこなすのは結構大変そうだ。
剣を握って、一瞬抜いただけだった。それだけで、凄まじい破壊衝動に襲われたのである。近くにいたアステシアが状態異常の魔法をかけてくれなかったら剣の魔力に飲まれていたかもしれない。回数をこなせば何とか使えるようにはなると思うんだけどな……
ゲームではアイギスは完全に使いこなしていたから相性もあるのだろう。だったらこういう場の取引に使用したほうがいいと思ったわけだ。
「流石ですね、ヴァイス様。これならばきっとラインハルトさんも動く理由ができたと協力してくれるはずです」
「ああ、貴族ってめんどくさいよな……」
俺だって、もちろん、ラインハルトさんがわざと援軍を送らなかったと思っているわけではない、しがらみが色々とあるのだろう。だから、今回は動きやすい理由を作ったのだ。先祖代々の魔剣を取り返してくれたお礼という理由をな。
そして、ブラッディ家に着いた俺は門番に要件を伝える。最初にパーティーに来た時がずっと昔のように感じるな……
「やあやあ、ヴァイス君。元気そうで何よりだ」
「どっかの誰かが援軍を送らなかったから大変だったんだから!! ねー、ヴァイス!!」
「ぐはぁ!!」
笑顔で出迎えてくれたラインハルトさんの表情がアイギスの一言で泣き顔に変わる。同意をもとめないでくれよ。なんて返事をすればいいんだよ……
「いやね……私もこっそりと助けに行く予定だったんだよ……だから、アイギスそんな風に拗ねないでおくれ」
「ふん、私はお父様が嫌いよ!!」
「ぐはぁ!!」
アイギスの言葉で悶えるように胸を抑えているラインハルトさん。俺は一体何を見せられているのだろうか……?
視線を感じて、ロザリアの方を見つめると彼女は苦笑しながら、「助けてあげて下さい」と訴えてくる。確かにちょっと可哀そうになってきたしな……
「アイギス……俺は大丈夫だから……それにアイギスが助けに来てくれてすっごい嬉しかったよ」
「えへへ、嬉しかったんだー……大切なお母さまを救ってくれた、私の大事な友人のピンチですもの助けるのがあたりまえじゃない!! 放置するなんて頭がどうかしているのよ!!」
「ぐはぁ!!」
アイギスの容赦のない言葉にラインハルトさんがさらにダメージを喰らった。いや、もうこれどうすりゃいいんだよ……何言ってもアイギス煽るじゃん。
しばらく悶えていたラインハルトさんだったが仕切り直しをするように咳ばらいをする。
「それで……ヴァイス君が私を訪れたのは領地内でスタンビートの前兆があるので力を貸してくれという事かな?」
「はい。もちろんタダでとは言いませ……」
「いいだろう、ブラッディ家は全面的に力を貸すと誓おう」
「え?」
予想外の言葉に俺は驚く。貴族特有の駆け引きが始まるものと思っていたのだが……そんな俺を得意げな笑みを浮かべながらラインハルトさんは答える。
「娘にこれ以上嫌われたら生きていけない……じゃなかった。ハミルトン領で魔物が溢れればそれは我が領地も影響を受けるだろうからね。気にしないでくれたまえ」
「ありがとうございます。あと、ラインハルト様にお見せしたいものがありまして……」
「それは……」
絶対前者も理由に入っているだろうなぁとおもいつつ、素直に礼を言って持ってきた魔剣を差し出す。予想以上に簡単に、助けを借りる事は出来たが、彼らにより貸しをつくっておきたいし、何よりも俺を助けにきてくれたアイギスがゲームで必死に取り返そうとしていた剣なのだ。
今はその価値をわかっていなくとも彼女に渡したいと思ったのだ。
「『ダインスレイブ』……ブラッディ家に伝わる魔剣ですよね。ヴァサーゴが持っていたので、取り返しておきました」
「ああ……この感覚……かつて戦場を共に回った相棒ではないか……邪教の連中に渡した時点でもう二度とこの手にすることは叶わないと思ってたが……ありがとう、ヴァイス君……だが、これはもう、君の物だよ」
「ですが……」
「君が戦争で勝って得た戦利品だ。気にしなくていい。それに、全盛期を終えたロートルよりも、君が持っていたほうがこいつも喜ぶだろう」
ラインハルトさんは一度『ダインスレイブ』を握った後に、にこりと笑って困惑する俺に返した。そして、立ち上がると優しい口調で言った。
「ついてきなさい。君は二度も邪教の侵攻を食い止めてくれたんだ。個人的なお礼をさせてくれないかい?」
「お父様……まさか……」
驚いた顔をするアイギスに、ラインハルトさんはにっこりと笑うのだった。
「すごいなこれ……」
「武器の造形に詳しくない私でもわかります……ここにあるのは全てが業物ですよ」
飾られている鎧や、剣や槍などからは魔法の力があふれ出して、キラキラと輝いている。試しに一つ剣に触れてステータスを見てみる。
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「魔剣エターナルフォースブリザード」
効果:一瞬で相手の周囲の大気ごと氷結させる。相手は死ぬ。ただし、消費魔力が激しく使ったものも死ぬ
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なにこれ、やべえけど使えねえな……俺は魔剣をそっと戻す。
「はっはっは、子供たちの成長を見るのと珍しい武具を集めるのがわたしの趣味でね。そういう反応をしてもらえると嬉しいよ。妻何て、邪魔だからさっさと売りなさいってうるさいんだよ」
あの後、俺達はラインハルトさんに連れられて、俺達は彼の宝物庫に連れていかれたのだ。確かにさっきの魔剣みたいに使い勝手の悪いものもあるが……
あたりを見回すと、ゲームでも出てきたアイテムもちらほらと目に入った。元はここにあって、市場に出たのかもしれない。でも、一体何の用なのだろうか? まさか自慢するため……じゃないよな?
「ヴァイス君のここ最近の活躍はめざましい。神霊の泉の発見や治安の改善など領地の発展もすさまじい上に戦争にも打ち勝った。君に注目をしている貴族は何人もいるだろう。そして……これだけ目立てば敵もいるだろう。だからね……ロザリア君には主を守る力を持ってもらおうと思ってね。この中から一つ君に欲しいものをプレゼントしようと思うんだ」
「私にですか? 悪いです。だって、これらは貴重なものなのでしょう?」
ロザリアが驚愕の声を上げるのも無理はない。それだけ貴重なものなのだ。それこそゲームではイベントや敵のドロップでしか手に入らないようなものである。
しかし、なぜかラインハルトさんは自虐的な笑みを浮かべた。
「これだけの武具があっても私には手は二本しかないからね。君達はここにある武具を使ってもっと強くなって欲しいんだ。私が権力にしばられて身動きが取れない時も自衛をできるようにね……それに……君達にアイギスはとても懐いているようだ……だから、我儘かもしれないが何かあったらあの子を守ってほしい……」
ラインハルトさんはこの前の戦争に関して言っているのだろう。確かに圧倒的な力を持ちながらも、彼は俺達に手を貸すことが出来なかった。だから、自分で身を守れるだけの力を手に入れろと言ってるのだろう。
「わかりました。ラインハルト様遠慮なくいただきます。ヴァイス様もアドバイスを頂けると嬉しいです」
「ああ、任せろ。ロザリアにぴったりなものを選ぶよ」
「ふふ、なんでも好きなものを持って行ってくれ。そして、その力を役立ててくれると嬉しい」
そう言うと、ラインハルトさんが俺達が手にするものを一個一個説明してくれる。しかも、効果だけではなく手に入れた時の武勇伝までセットで結構楽しかった。
それにしても本当に宝物庫って感じだ。某バビロニアの金ピカ鎧の王様だったら、侵入しただけでぶちぎれるのにラインハルトさんは一本ずつくれるというのだから、太っ腹だ。
そして、俺とロザリアは二人で話し合ってもらうものを決めたのだった。
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ロザリアとヴァイス君の強化イベントでした。
魔剣って響きがいいですよね
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