第68話 魔物の巣
新しい武器を手に入れた俺たちはさっそく戦場にいた。魔物たちが今にもあふれ出しそうなのだ。一刻もはやく手を打つ必要があるからな。
現にいつもは静かなはずの森はどこか騒がしく、ここまでくる間にも何回か魔物の群れと戦っている。
「それで……魔物の巣への戦力配分ですが、本当にこれでいいのですか? ラインハルト様にはすでに一つ魔物の巣を潰してもらった上に他にも二つも任せてしまうなんて……」
「ああ、任せてくれたまえ。ブラッディ家の兵士と当主の力をお見せしよう。それよりも……アイギスの事を頼むよ」
申し訳なさそうな俺の言葉に彼は、力強くうなづいきながら俺に『ダインスレイブ』を返す。魔物の巣は大きく分けて、五つあったのだが、それは既に「お手本だよ」と言ったラインハルト様がダインスレイブを放ち壊滅させていた。
一撃だった。彼が魔剣を振るうと、魔物たちは巣ごと、滅ぼされて、あたりにクレーターのような跡が残っただけである。ヴァサーゴや、ゲームでアイギスが使っていた時の比じゃない。マジでやべえよ。マップ兵器じゃん。
そして……その強力な魔剣が今俺の手元に戻ってきたのだ。少し恐ろしい。
「あれが『ダインスレイブ』の本来の力なんですね……俺につかいこなせるでしょうか?」
「大丈夫だよ。私とて、最初っからあんなふうに使いこなせたわけではないからね。『ダインスレイブ』を持つと負の感情に支配されるだろう。そんなときには大切な人の存在を思い出すんだ。そうすれば『ダインスレイブ』の魔力にだって打ち勝てるはずだ。ちなみに私の時はマリアとの初デートの時を思い出してだね……」
やべえ、話が長くなりそうだ。だけど大切な人か……だったら今の俺には問題はないだろう。ロザリアや、アイギス、アステシアに、ホワイト、ついでにナイアルとか何人もの人がいるからな。
ラインハルト様の話の切れ目を狙って返事をする。
「わかりました……必ずや、使いこなして領地と……アイギスたちを守って見せます」
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいね。それよりも、私は君の情報収集能力に舌を巻くよ。よくぞ、魔物の巣の配置と戦力をこれだけ正確に調べたものだ。これがなければダインスレイブの『インフェルノフレイム』があっても、こうあっさりは決まらなかっただろうしね」
ラインハルト様は俺の言葉に満足そうに笑う。てか、あの技ってそんな名前だったんだ。なんか、くっそ長い詠唱と共に、魔剣を振るう姿はなぜか、ダークネスを思い出させた。
ちなみに俺が魔物の巣の配置や戦力を知っているのはゲームの知識がメインである。まあ、ちゃんと定期的に冒険者を雇って状況を報告させていたこてイレギュラーをなくしたのも功を奏したのだろう。それにしても実力者であるラインハルト様に褒められるのはやはりうれしいものだ。
「そうよ、ヴァイスはすごいんだから!! 二人とも魔物に動きがあったみたいよ!!」
「思ったよりも早いな……」
「おお、アイギス!! お父さんの活躍をみてくれたかい!?」
俺とラインハルトさんの会議にアイギスがやってきて口を出す。いつもならばロザリアの役目だが、ラインハルト様に気を使ったのだろう。アイギスが見てラインハルトさんのテンションが露骨に上がる。
「ええ、すごかったわ。さすがはお父様ね」
「ふふふ、そうだろう。そうだろう。お父さんはすごいんだよ!! ヴァイス君、こっちは任せたまえ、魔物なんて敵ではないさ。よかったら、アイギス……お父さんの近くで勇士を……」
「じゃあ、お父様は頑張ってね!! 私はヴァイスをサポートするわ!!」
「ああ……そうかい……」
「その、娘さんをお借りしますね……」
「ああ、かまわないとも……ストレス解消に魔物を倒してくるから気にしないでくれたまえ」
露骨にへこむラインハルトさんに申し訳ないなと思いつつも、こうして軍議は終わった。
ラインハルトさんと別れた俺たちは、選別したメンバーと共に馬車で魔物の巣への近くの村へと向かっていた。俺たちが担当する魔物の巣は二つ、一つはゴブリンやコボルトなどの数は多いがあまり強くない魔物の巣だ。こっちはカイゼル率いる兵士たちに担当をしてもらっている。領地を守るためだからか、連戦だというのに士気が高まっているのはありがたい。
「じゃあ、行くぞ。みんな」
俺の言葉に、みんながうなづく。ロザリアとアステシア、ホワイトはもちろんのこと、魔剣を携えたアイギスに、フィリスとスカーレットがいる。
こっちの洞窟はリザードマンだったり、ラミア、低級のドラゴンであるワイバーンなど、強力な能力を持つ魔物が多いが数は少ないため、少数精鋭の方が動きやすくてよいのだ。
それにここのボスのリザードキングは倒した後に鱗を加工すると優れた防具になるんだよな……本来はゲームの中盤で戦うのだがどうだろうか?
俺の疑問はあっさりと解決することになる。
「ヴァイス様……来ました」
その一言共に森の中から矢が飛んでくる。リザードマンによる奇襲だろう。剣ではじききれるか? と思ったときだったロザリアが窓から馬車の屋根へと駆け上り槍をかかげる。
「ヴァイス様……あなたを守るためにラインハルト様からいただきた力をみせましょう」
彼女を中心に、不可視の結界が現れて槍を防ぐ。これが彼女が手に入れた新しい神槍パラスの力である。本来ならばゲームの終盤で手に入る武器なだけあって高性能だ。
「うおおお、すげえ!! まるで守り神だな」
「はい、私はヴァイス様を守るためにいますから」
「あれが魔法を持った槍……分解したらだめかしら?」
「師匠……魔法学園にあった魔杖を解体してボーナスで弁償したのを忘れたのですか……」
俺の言葉にロザリアが嬉しそうに微笑んだ。
「すごいじゃないの!! やはり魔物とは意思疎通は難しいわね……そういう時は武力よ、武力はすべてを解決するわ!!」
「まずい……サポートとしての私の立場が……」
アイギスの魔剣の一撃によって、リザードマンが風の刃によって切り刻まれ、戦いは始まった。アステシアが何かへこんでいるから後で慰めておこう。
ロザリアがヒロインとしても、戦力として一歩リードですね。
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