第69話 襲撃されし村

俺たちはロザリアの結界とアイギスたちの攻撃でリザードマンたちを倒しながら、村へとたどり着いた。外側からのすさまじい力によって破壊された木の柵をから入るとその中は怒号と悲鳴に満たされていた。

 冒険者らしき連中が魔物と戦ってくれているようだ。魔物の巣の近隣の村に警備費として、お金を支給しといてよかった。そう思うながら、今リザードマンを切り捨てた冒険者に声をかける。



「大丈夫か? 村はどうなっている?」

「お、援軍か、ありがてえ……って貴族様かよ……」



 俺の声を聴いた冒険者の男はこちらの装備を見て、露骨に落胆する。冒険者たちは実力主義だ。だからこそ、貴族への偏見もあるようでその反応はあまり芳しくない。とはいえ、彼らが村を守ってくれているのは事実だ。俺たちの実力を示すのはあとでいい。とりあえずは現状把握だ。



「まずは、この村を守ってくれた事に感謝する。それで……村人は無事なのか?」

「ああ……教会にみんな避難してるよ。でもよお、あんたも女の子にいいところをみせたいのはわかるけど、やめた方がいいぜ。こいつらかなり強いぞ。逃げるなら女子供をつれていってくれ。頼む」



 俺が彼らの仕事をねぎらったからか、少し態度が柔らかくなる。なるほど……俺が女性ばかりつれていたから、女の子にかっこつけたがっているアホ貴族と勘違いをされてしまったんだようだ。

 あいにく、うちの女の子たちは守られるだけの奴なんていないんだよなぁ。それと彼の勘違いを正さなければな。



「なるほど……お前は一つ思い違いをしているようだな……アイギス、こういう時はどうすればいいか教えてくれないか?」



 冒険者をすごい目で睨みつけてたアイギスだったが、こちらの意図を理解してくれたらしく猛犬のような獰猛な笑みを浮かべた。



「決まっているわ。こういう時は武力よ、武力はすべてを解決するわ!!」

「は?



 その言葉と共にアイギスの魔剣から発生した風の刃がリザードマンを細切れに切り刻むと冒険者が間の抜けた声をあげる。そして、それだけでは終わらなかった。



「いいえ、武力じゃないわ。魔力よ、魔力がすべてを解決するの!! フィリスいくわよ」

「はい、師匠!!」

「はぁぁぁぁぁ!!??」



 今度はスカーレットとフィリスが魔法を放ち魔物達を全滅させる。マジで俺の義妹とその師匠は優秀である。

 



「いや、あんたら何者だよ……」

「これで俺たちが遊びできたわけではないとわかってくれたかな?」



 呆然とした冒険者に俺はどや顔で答える。







「ジェシカ……私の事はいいから早くお逃げ……」

「いやだよぉ、お母さんだけを置いてなんていけないよ」

「ごめんね……私の足がちゃんと動けばみんなと一緒に逃げれたのに……」



 私は申し訳なさそうに自分の足をなでるお母さんに抱き着いて涙をこらえる。あまり騒げば魔物たちが聞きつけるかもしれない泣くこともできない。皆は教会に逃げているようだが、足の不自由な母を置いてなんか行けずにクローゼットの中に隠れているのだ。

 冒険者さんたちも必死に戦ってくれているが魔物の数が多すぎるようで中々撃退できないようだ。



「こんなことなら、領主様の言うとおりに街に避難をすればよかったのかなぁ?」

「そんなこと言ったって先祖様が開拓した村を捨てるわけにはいかないし、ヴァイスっていう領主はどうしようもないらしいやつらしいじゃないの……」



 お母さんはそういうが私はどうなのかなと思う。税金をいきなり上げて私たちの生活を圧迫したのもヴァイス様であり、謝罪し税金を下げたのも、そして、この村の警備のためにとお金と冒険者ギルドとの伝手をくれたのもヴァイス様らしい。一体どっちが本当のヴァイス様なのだろう? こんな田舎村では情報もろくに入ってはこない。実際会えば多少は判断もできるだろうが、領主様がこんな所に来ることはないだろう。



「シャーシャー」

「シャー?」



 魔物たちの声が近くなり、私とお母さんは体を震えさせて抱き合った。来るな来るな……とゼウス神に祈る。

 しかし、残酷にも扉を乱暴に蹴破る音と共にリザードマンたちが入ってくる。彼らはなぜか怒っているようだ。

 こんな事ならば冒険者に護身術でも習っておけばよかったと後悔する。歌がうまいとおだてられて吟遊詩人の真似事なんかしている場合ではなかったのだ。



「「ひぃ……」」



 徐々に近づいてくる足音に私たちは悲鳴を上げて抱きあうことしかできなかった。そして、クローゼットの扉が乱暴に開かれると、そこには無機質な目でこちらをみつめているリザードマンがいた。ああ、私の大好きな英雄譚ならば、ここで颯爽と英雄が現れるだろうに……

 リザードマンが剣を振りかぶるのが見え、咄嗟に目を瞑る。しかし、一向に痛みはこなかった。



 なんで……?



 まさか、こいつらは私達を嬲り殺すつもりなのだろうか? 恐る恐る目を見開くと、リザードマンは、影の手によって拘束されておりうめき声をあげている。そして、そのままやってきた一人の青年が剣を一振りすると、首から血をまき散らして絶命する。



「大丈夫か? ここは危険だぞ」

「はい……でも、母が……」

「足が折れているのか? アステシア、治療を頼む。アイギスは二人を教会まで護衛してもらっていいか?」



 私を助けた青年はてきぱきと指示を出していく。そして、私たちは赤髪の少女に連れていかれる前に彼に聞く。



「助けていただいてありがとうございます。あなたのお名前は……」

「ああ、俺はヴァイス=ハミルトンだ。俺の考えが甘かった……まさか、魔物がこんなに早く現れるとはな……」



 彼がヴァイス……おそらく領主様なのだろう。申し訳なさそうに私を気遣う彼に英雄の姿をみたのだった。





まあ、普通は領主自ら魔物を狩りにくるとは思いませんよね…

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