第70話 リザードキング

冒険者から状況を聞いた俺は指示を出す。どうやら、魔物の群れが攻めてきて、教会に村人を避難させて、戦えるもので各個撃破しているらしい。



「俺達は逃げ遅れた村人の捜索と魔物を狩るぞ!! スカーレットさんは申し訳ありませんが教会の防御をおねがいできますか!? あと、フィリスも一緒に来てくれ」

「お兄さま……?」

「お前にはお兄ちゃんのすごいところを見せるって言ったろ? あとさ、お前のすごいところもみせてくれよ」

「はい!!」



 元気な返事と共にいつものメンバーとフィリスで魔物達を倒していく。そこそこ強い魔物であるリザードマンやワイバーンという小型のドラゴンに、ラミアがいるが次々と倒していき、村人を救出していく。



 これは……もはや主人公パーティーよりも全然強いな……



 飛行しているワイバーンはフィリスの魔法と、アイギスの魔剣で撃退し、ロザリアが俺達を守り、アステシアが回復や身体能力の向上というサポートと、俺が闇魔法による不意打ちという最強の布陣である。

 最初は怪訝そうな冒険者達も俺達に尊敬の目線を送り始めている。現金だと思うが、実力主義の世界だからな。アイギスの言葉の通り武力で解決するようだ。



「これなら何とかなりそうだな」



 あらかたモンスターを倒して、家に潜んでいたところを襲われた村人を助けた俺達は、アイギスとアステシアが帰ってくるのを待ちつつ周囲に魔物がいないかと警戒していた。



「そうですね、さっき女の子を助けたお兄様、かっこよかったですよ」

「なんかフィリスに言われると恥ずかしいな……」



 俺は驚くほど素直にフィリスの褒め言葉を受け入れる事ができている自分に驚く。そんな風に和やかな雰囲気が流れたが、ロザリアは鋭い目で魔物達がやってきた方を見つめる。



「ヴァイス様、フィリス様、気を付けてください。どうやら強敵の様です」



 彼女が見つめる先からは悲鳴のような声が聞こえ、五、六人の冒険者が走ってやってくる。そして、その冒険者の内の三十歳くらいの女性ががこちらを……いや、ロザリアを見て大きく目を見開いた。



「ロザリア、なんでここにいるのよ!? あんたは領主を守っているんでしょう?」

「久しぶりですね、ガーベラ。それよりも何があったんですか? あなたほどの冒険者が逃げ帰るとは……」



 ガーベラという名の女性は慌てた様子で今来た方向を指さした。




「逃げ帰っているわけじゃないわ。体制を立て直すのよ!! リザードキングが現れたの!! いえ、あいつはただのリザードキングじゃないわ。私たちの魔法も剣も通じないの。教会にむちゃくちゃ強い魔法使いがやってきたそうだから、その人に頼るしかないのよ。あなたたちも早く避難しなさい」



 そう言い残して、彼女はそのままに教会の方へと走って行く。ロザリアが険しい顔をして言った。



「彼女は私の冒険者時代の先輩です。私やアンジェラとは違い現役の冒険者で、ここの村の警備をお願いしていたのですが……負けず嫌いの彼女が逃げる事を選択するとはかなりの強敵の様ですね」

「まさか群れのボスが来ているのか? 本来ならダンジョンにいるはずなんだけどな……何かが変わっているのか……」



 ゲームとの違いに俺は少し困惑する。とはいえ、そもそも進行してくるタイミングから言っておかしいのだ。ゲームの情報は参考程度にした方が良いだろう。

 だが、今の話を聞く限りゲームとボスは同じようだ。確かにここのボスのリザードキングは通常のリザードキングと違い、その鱗は魔法への耐性が高いのだ。

 だけど……全てがうろこに覆われているわけではないし、王級魔法には耐えられずにダメージを受けるはずだ。何発も当てれば倒せるだろう。



「お兄様、どうしますか? 私達も撤退し、教会で迎え撃つのありだと思います。あそこまで戻れば師匠もいますし……」

「ああ、そうだなぁ、ここはいったん撤退を……」

「助けてくれぇ!! こんなところで死にたくねえ!!」



 フィリスと話し合っている時だった、先ほどのガーベラたちが逃げてきた方から悲鳴が聞こえてきた。逃げ遅れがいたのかよ!!

 怪我でもしたのか足を引きずっているのは入り口で会った冒険者だった。



「ヴァイス様!! どうされますか!?」

「決まっているだろ!! この村を守ってくれたやつを見殺しになんかできるかよ!!」

「ふふ、お兄様はかっこいいですね。もちろん、私もついていきます」




 俺の言葉にロザリアもフィリスも誇らしげに頷いてくれた。ちょっとむず痒い……とか言ってる場合じゃないよな。理想を言えばアイギスやアステシアも欲しかったがそんな事を言っている場合ではない……それに、あの敵ならば俺と相性がいい。

 


「あんたらは……」

「ふ、貴族にも骨があるやつがいるって覚えとけよ。それにしてもまじでボスとはな……」

「これは希少種ですね……」

「初めて見ます……通常の個体よりも強いって師匠から習ったことがあります」



 俺達は足を引きずっている冒険者と敵の前に割り込むようにして対峙する。そこにいるのはただのリザードマンではなかった。虹色の鱗に覆われ、その体は普通のリザードマンよりもはるかに巨体でありながら、それが脂肪ではなく筋肉であると一目でわかるほど絞られている。そして、その手には巨大な大剣が握られていた。

 その大剣には冒険者を押しつぶしたのか肉片がこびりついてやがる。



「こいつに魔法は通じにくい。もちろん本来のリザードマンの弱点である氷魔法も効きにくいから注意してくれ!!」




 ゲームでの通称リザードキング=レインボーその鱗は寒さや熱さなどあらゆる環境に耐え続け変色した希少種である。

 通常のリザードマンは氷属性によわいがこいつは例外であり、主人公を苦しめた。そう主人公は苦しめられた。だけど、俺は主人公じゃない。ヴァイス=ハミルトンである。



「大丈夫だ、俺達なら勝てるさ」



 冷や汗をかいている二人に言い聞かせるように俺は激励すると、戦場だと言うのに彼女達は笑みを浮かべて頷いた。



「ヴァイス様がそう言うなら信じます」

「お兄様……ハミルトン家の力を見せてやりましょう」

「あんたら……こいつと戦う気なのかよぉぉぉ」



 約一名をのぞいて心強い言葉が返ってきた。いや、もういいからさっさと逃げてくれないかな……



「ロザリアは相手の隙を作ってくれ!! フィリスは魔法でサポートを!! こいつには属性攻撃が効きにくい。倒そうとはしなくていい、隙を作ってくれ!! そうすれば俺が何とかする」

「わかりました!! 氷よ!! 束縛せよ!!」



 俺の言葉ともにロザリアが魔法を放ちリザードキングの足ごと地面を凍らせ斬りかかるが、何事もなかったかのように氷を破壊しながら奴は動きやがる。

 そして……リザードキングの大剣は素早くロザリアもいなすので精一杯なようだ。



「不死鳥よ、我が敵を焼き払いたまえ!!」



 そして、フィリスが火の魔法を解き放つ。スカーレットの使っていた上級魔法である。もう二種類の上級魔法を使えるようだ。鳥の形をした炎が相手の身体にまとわりつくがそれをハエでもたかっているかのようにうっとおしそうに払うするだけだった。

 決定的な隙ができない……隙ができたらうろこに覆われていていない眼球や口の中などに俺の王級魔法を放とうとしているのだが……このままでは埒が明かない。いっそダインスレイブを放つか?

  俺が悩んでいる間にもロザリアは槍で相手の大剣をいなしながら、氷の魔法を放つ。ひたすら相手の左足を狙っているようだが、氷の魔法は効果がないんじゃないか?。



「ヴァイス様、そろそろです!!



 何がだ……と思ったが、ロザリアがそろそろだと言うのだ。俺にできる事は一つである。王級魔法の詠唱を始める。



「シャアアアア!!??」



 そして、再びロザリアの魔法が相手の足をとらえると、鱗の一部がひび割れ、リザードキングが痛みに悲鳴を上げる。フィリスの消えない炎と、ロザリアの氷で温度差に耐えきれるずに砕けたのか!! 科学の授業で金属でそんな事がおきるとは聞いたがこいつの鱗にも同様なことがおきたようだ……ロザリアは冒険者時代に経験で学んだのだろう。



「常闇を司りし姫君よ、我にしたがい、その力を振るえ!!」


 

 その隙をついて俺の影が人の形を成し、その一部が帯状と化してドリルの様に貫いた。闇魔法の王級魔法は対象の範囲こそ小さいが、当たればその効果は絶大だ。

 そして、冥界の姫君に生命力を吸われているリザードキングはひめいを上げる。



「やったか!!??」



 冒険者がフラグを言いやがった。いや、やったけどさぁ……場合によっては洒落にならない状況になるからフラグを立てるのはやめてほしい。



「ヴァイス様!! 気を付けてください。まだ終わってません」



 生命力を吸われたはずのリザードキングの体内からキモイ触手のようなものが現れたのだ。なにあれ? ゲームでも見たことないんだけど!! やっぱりフラグはだめだな……







やはり「やったか」はフラグですね。


なんでボスから触手が……謎が深まりますね…

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