第71話 魔物の巣

 俺はリザードキングの腹を内部から貫くようにしておびただしい量の触手がはい出てくるのを呆然とした様子で見つめていた。なんだこれは……? ゲームでもこいつと戦ったが、こんなものは無かった。というかそもそもこんな触手の様な敵はゲームには登場しなかったのだ。

 触手たちが一番近くにいたロザリアに襲い掛かっていく。



「くっ、こいつら……ヴァイス様、ここは私に任せてお逃げください!!」

「ふざけんな!! そんな事できるかよ!!」



 俺は『ダインスレイブ』に手をかけるも、光線を放てない。ロザリアと触手たちの距離が近すぎるのだ。そして、ロザリアも結界を張る余裕もないのだろう。どうすればいい? 闇魔法を……? いや、さっき王級魔法をはなったばかりだ。精神的な疲労が大きくて使えない。

 そんな時、風の刃が触手たちを切り刻んだ。フィリスの風魔法である。触手どもから解放されたロザリアが急いでこちらへと駆け出す。



「助かりました、ありがとうございます。フィリス様!!」

「ロザリア、今のうちに逃げてください!! お兄様何か手は……そんな……?」



 フィリスが絶句するのもわかる。切り刻まれた触手の断面がすさまじい速さで再生していったのだ。その姿はなんとも醜悪で禍々しい。

 その間にも、俺はロザリアと触手の間に割り込むように駆け出す。俺のロザリアを触手プレイ何てさせるかよ!!



「ヴァイス様危険です!! こっちに来ては……」

「ふざけんな、お前を見捨てろって言うのかよ!! お前は俺のメイドなんだ、勝手ににあきらめるんじゃねえ!! 触手共がこっちにくるんじゃねえぇぇぇぇ!!」


 

 再生した触手がロザリアと俺を再度襲おうとした時だった。触手共の動きがぴたりと止まり、明後日の方向へと進路を変える。



 一体なんだ? まるで俺の命令を聞いたかの様じゃないか? 


 

「氷よ、束縛せよ!!」

 

 

 そんな事が頭をよぎっている間にロザリアの魔法によって触手共が凍てついた。俺は今がチャンスとばかりに、ロザリアを避難させながら『ダインスレイブ』を掲げる。

 すると剣から圧倒的なまでの殺意がなだれ込んでくる。『コロセ、コロセ、オマエヲバカニスルオンナヲコロセ』耳元で悪意に満ちた声がささやく。心の中に全ての生き物への殺意が芽生える。特に俺を馬鹿にしていたあの妹を……いや、違う……俺は何のために剣を……?



「ヴァイス様……」



 一瞬剣の殺人衝動に乗っ取られそうになった俺だったが、耳元から聞こえるロザリアの心配する声で正気に戻る。ああ、そうだ。俺はヴァイス=ハミルトンなんだ。こんな魔剣になんか負けてたまるかよ!!

 ラインハルトさんの言葉を思い出せ!! ロザリアの顔が……アイギスの顔か……アステシア顔が、フィリスとついでにナイアル、カイゼルの顔が頭に浮かんでいく。



「『ダインスレイブ』……てめえは俺に従ってればいいんだよ!! 焼き払えーー!!」

「結界よ!!」



 魔剣を振りかざすと同時に光線が目の前のリザードキングだったものを焼き払う。おそらく、リザードキングの鱗だったら耐えたかもしれないが、触手共は中から現れた時に、リザードキングの身体を食い破って出たため、その身を晒している。しかも、とどめとばかりにロザリアの結界がリザードキングだったものを包んだ。

 結界によって作られた密室で爆発する圧倒的な熱量が触手共を焼き払い轟音と共に爆発した。今度こそ倒したはずだ。またフラグっぽい事を言うなよ? と思って冒険者の方を見るとすっかり気絶していた。

 煙がはれるとそこには触手の残骸は燃えきっており、虹色の鱗が残っているだけだった。



「ヴァイス様!! 流石です、魔法と魔剣を使いこなす様は本当に素敵でした」

「指揮するところもかっこよかったです。お兄様!!」



 ようやく倒した俺が一息ついて剣を鞘に戻すと、ロザリアと、フィリスが駆け寄ってくる。あたりに魔物の気配も大分なくなってきた。



「ラインハルト様から心が弱いと魔剣に魅入られると言われていましたが、打ち勝ったのですね、流石はヴァイス様です」



 どこか誇らしげにロザリアが言う。そして、それはフィリスも同じなのだろう。だけど、それは違う。さっき魔剣に勝てたのはロザリア達が俺を支えてくれてたからだ。だからこそ、俺は魔剣の誘惑に勝てたのだ。

 だけど……ロザリアはともかくフィリスにまで素直にお礼を言うのはまだちょっと恥ずかしいな……



「俺はヴァイスだぜ。魔剣には負けん!! なんてな」

「……その、お兄様……面白いですね……」

「申し訳ありません、ヴァイス様。私の頭が悪いせいで面白さを理解できずに……」



 むっちゃ気を遣われた!! こんな事だったら素直にお礼をいえばよかったー。と後悔していると、アイギスたちがやってきた。アステシア、だけでなく、スカーレットもいる。魔物は壊滅させたという事だろう。



「ヴァイスーー、大丈夫? ボスがいるって聞いたから急いできたわよ!! 私の魔剣で瞬殺なんだから!!」

「あら、もう遅かったようね……でも、無事で良かったわ。一応回復はしておくわね」

「ああ、後は魔物の巣を叩くだけだな」



 そうして、彼女たちと合流した俺達は馬車に戻って魔物の巣へ向かう。もちろんリザードキングの鱗の確保は忘れない。これはいい防具の素材になるからな。



 村の襲撃にほとんどの戦力を割いていたのか、道中では魔物達との遭遇はかなり少なかった。自分でも拍子抜けするほど、魔物の巣につく。

 そこは大きな洞窟になっており地下まで続くダンジョンのようなものだ。気のせいかシャーシャーというリザードマンやラミアの鳴き声が聞こえてくるようだ。その姿はまるで奈落への入り口である。



「ボスは倒したが、この中は魔物の巣だ。何匹も魔物がいるはずだ。警戒していくぞ」



 俺の言葉にロザリア達が頷いたが、スカーレットが不思議そうな顔をして手を上げる。



「ねえ、この洞窟の中って人質とかいるのかしら? あとは中にどうしても入らないといけない理由があったりとか……?」

「いえ、リザードマンたちは人を捕らえる習性はないので、その心配はないと思います。まあ、あとはやつらがため込んでいる宝とかがあるかでしょうが、そんなに重要な物はないでしょうね」

「じゃあ、入る必要は無いのね、魔物を駆逐すればいいんでしょう? よかったら私にまかせてくれるかしら?」

「ええ……まあ、そうですね」

「師匠……まさかあれをやるんですか?」



 スカーレットさんの言葉にうなづくと、呼ばれたフィリスはなぜか引いた顔をしている。一体何をはじめるのだ? と思っていると、フィリスと手を繋いで詠唱を始める。

 これは……王級魔法か!!



「炎帝よ、天界の炎を我らに貸し与えん、全てを焼き払う原初の炎を今ここに!! フィリスあわせなさい!!」

「わかりました。炎を司る不死鳥よ、その姿を現さん!!」



 スカーレットの炎が人の形に、フィリスの炎が不死鳥を象った。フィリスのやつ、火の上級魔法も完全に使いこなしているなぁ……

 驚きはそれだけではなかった。二種類の炎がまじりあい大きな球体となっていく。



「一体何を……まさか!!」

「うふふ、『煉獄の魔女』の力をみせてあげるわ。始まりの炎は不浄なるものを焼き払い、火の鳥の魔法はその者を焼き払うまで決しては消えない!! ヴァイスよく見ておくことね!! これが合体魔法よ!!」



 炎の球体はそのまま洞窟の中に入っていき、凄まじい勢いですすんでいった。

 合体魔法……すげえな。メド○ーアとかも使えんのかな? とか思っていると轟音と共に洞窟の炎があふれ出す。



「うおおおお、あぶねえーーー!!」

「結界を張ります!! 避難してください!!」

「無茶苦茶ね……十二使徒ってこんなやつばかりなのかしら?」

「これが魔法なの……? お父様の魔剣並みじゃない……」

「師匠がすいません!!」



 俺達は咄嗟に回避する。ロザリアの結界で炎を逸らさなかったら俺達もまきこまれたんじゃ……そう思って見ていると、洞窟はそのまま崩れていった。

 いや、まあ、俺も漫画とか読んでてこういう事は考えたことあるけどさぁ……まじでやるかよ……少なくともゲームではできないわざである。

 そう思いながらスカーレットを見ると高笑いをしていた。


 

「うふふ、言ったでしょう。魔力よ、魔力は全てを解決するの!! 武力じゃないわ!!」

「ううーー」



 スカーレットの言葉にアイギスが拗ねたように頬を膨らませる。大人げないな二十歳……てか、魔法も武力な気がするけど……何はともあれ、俺達はスタンビードを防いだのだった。









すいません、感想は今日の夜か明日には返しますー。


魔物の巣……ゲームとかやってるとこうすりゃ早いと思うんですが、何で主人公達はしないんでしょうね?

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