第24話 ヴァイスとブラッディ家

 ハデスとの戦いの後は特にこれといったイベントもなく、泉で薬を作り終えた俺達はブラッディ家の屋敷の待合室で待機をしていた。

 馬車酔いがひどいためナイアルは別室で休んでいる。二人っきりになるタイミングを見計らっていたのだろう、ロザリアが真剣な顔で口を開く。



「ヴァイス様……あれはなんだったのでしょうか?」

「あれは神だよ……しかも、この国を支配しようとしている邪神だ……って言ったら信じるか?」

「冗談ではないんですよね……? あれだけの力を持った存在です。信憑性もありますし、何よりヴァイス様の言葉なら私は信じます。そして……邪神だろうが何だろうが、あなたの身を守ります」



 冗談っぽく返した言葉に彼女は真剣に答える。本当にロザリアはすごいな……だけどその心配はしばらくはないはずだ。あいつが現れる条件はゲームで知っている。



「大丈夫だ。あいつは死んだ。自分の信者の死体を媒介にしか現れないし、一度現れたら数年は出てこれないはずだ」

「流石です、ヴァイス様は博識ですね」



 逆を言えば数年後にはハデスは再び姿を現すのだ。そんな絶望的な状況だというのに、彼女は俺が頼りがいがあるとでも言いたそうに微笑む。だが、その態度に疑問を感じてしまった。



「なんでそんな事をしっているんですか? とかは聞かないんだな」

「はい、ヴァイス様が言わないっていう事は言いたくない事情があるのでしょう? いつか話せるときに説明してくださればかまいません。それに……私はあなたを信頼していますから」



 にっこり笑う彼女を見て、俺はより強く決心する。彼女を守らなきゃな……。それにしても俺というイレギュラーな存在がハデスに察知されてしまった。

 これからゲームの主人公の様に厄介なことにまきこまれるかもしれない。主人公補正がない俺がどこまで対抗できるかはわからない。だけど、俺にはヴァイスとロザリアがいる。



「ありがとう、まだ,詳しくは言えないが、これからこの国はハデス教によって混沌の道へと進むだろう。俺はそうなる前に対抗できるようにハミルトン領を発展させなきゃいけない。それには俺だけじゃない、ロザリアの力も必要になってくると思う。力を貸してくれるか?」

「もちろんです。私はあなたの槍ですから」



 そして、彼女は嬉しそうに笑った。なぜだろうと怪訝な顔をしていると、笑みを浮かべたまま言った。



「私はヴァイス様に頼ってもらえてうれしいんです。領主になった時に私はあなたのそばにいる事しかできませんでした。でも、今は頼ってくれています。もう、あなたを一人にはしませんからね」

「ああ、ありがとう。でも、そんなこと言うとどんどん甘えるぜ」

「うふふ、構いませんよ。膝枕でもしましょうか?」



 冗談っぽく笑いながら彼女は自分の膝を叩く。おそらく、ヴァイスが自暴自棄になっていた時の事だろうな……大丈夫だ。俺は一人で悩んだりはしない。俺は一人じゃないって知ってるからな。



「きゅーきゅー」



 俺とロザリアが見つめあっていると、肩の神獣が僕もだよと言わんばかりにその存在を主張する。



「すっかり、ヴァイス様に懐きましたね。神霊の森からついてきましたし……この子もヴァイス様の事を好きなのでしょうね」

「そうだな……せっかくだし、名前を決めるか」

「きゅーきゅー♪」



 俺達の会話がわかっているかのように聖獣が嬉しそうに俺の肩で踊る。あの時不思議な力がハデスを襲ったのは偶然ではない。こいつは俺と契約をしてくれたのだ。

 その証拠にあれ以来不思議な力を感じると共にこいつは森に戻らず、俺についてきてくれた。



 つまり俺のヴァイスやロザリアを推す気持ちや守りたいという想いはゲームの主人公たちやヒロインたちと同じくらい強いっていうことか……



 俺の推しへの気持ちを認めてもらったようで嬉しくなり、神獣を撫でると嬉しそうにその身をゆだねてくれる。可愛いなおい。



「それで名前だけど……ホワイトテイルゴッドラビットはどうだろうか?」

「きゅーーー!!??」

「ヴァイス様、それはちょっと……」



 神獣とロザリアがマジかよとばかりに少し引いた顔をした。さっき無条件で信じてくれるって感じだったロザリアまでこんな反応をするなんて……もしかして、俺ってネーミングセンスがないのだろうか?



「ああ、すいません、ヴァイス様の考えた名前があまりに個性的だったものでして……では間を取ってホワイトちゃんはどうでしょうか?」

「きゅー♪きゅー♪」

「うふふ、可愛らしいですね。気に入ってくれたようです」

「お前……俺になついていたんじゃ……」



 俺の肩から飛び降りて、ロザリアの膝に頬を擦り付けているホワイトをジト目で見つめる。そんなことをしているとノックの音が響いた。



「ヴァイス様、ロザリア様。ラインハルト様がお呼びです」

「ああ、わかった。すぐ行くよ」



 俺達はすぐに準備をしてメイドさんについて行く。でもさ、ホワイトテイルゴッドラビットってそんなにダメかな? かっこよくない?





「よくぞ来てくれた。ヴァイス殿、ロザリア。この度は我がブラッディ家の危機を救ってくれて感謝をする。君の活躍はアイギスから聞いているよ」

「そうよ、ヴァイスはすごいんだから!!」



 ラインハルト様とアイギスが俺達を歓迎してくれる。てか、俺が褒められたのになぜかアイギスが得意気だ。まあ、可愛いからいいか。



「君の知識の深さに救われたよ。妻の体調は順調に回復している。昨日、何て、意識を取り戻して私の事をよんでくれたんだ。嬉しさのあまりつい熱烈なキスを……」

「お父様……自分の親のそう言う話は聞きたくないわ」

「ああ、そうだね……すまない……」



 げんなりしたアイギスにラインハルトさんは気まずそうに頬をかく。まあ、それほど嬉しかったのだろう。アイギスに弟か妹が増えるかもしれないな。



「それはよかったです。それでハデス教の信者は……」

「ああ、彼らが原因だったのだろう? ちゃんと拷問をして、拠点を聞いて潰しておいたよ。しばらくぶりに剣を握ったが私もまだまだ動けるようだね」



 豪快に笑うラインハルトさんだが、ハデス教徒って一人一人が強いんだよな……そいつらの拠点をあっさりと潰すなんて……ゲームではもう死んでいたが、ひょっとしたらこの人、無茶苦茶つよいんじゃ……



「もちろん、近隣の貴族にもハデス教には気をつけるように伝達をしておいた。彼らが暗躍するのを多少は妨害できるはずだ」

「流石です、ラインハルト様。こちらがお願いしようとしていたことまでやってくださって」

「まあ、私の妻の指示なんだけどね。あいつは頭が回るんだ」



 自分の事のように奥さんを自慢するラインハルト様。この人もアイギスと同じで脳筋なのかもしれないな。

 だが、ここでハデス教の戦力を削れたのはでかい。俺の領土が力を手に入れるまでの時間が稼げるだろう。



「それで……私に頼みたいことがあるそうじゃないか? なんでも言ってくれ。私にできる事ならばなんでもしよう。アイギスと婚約をしたいというのなら、前向きに善処しようじゃないか」

「お父様!?」

「ぶっ」

「流石です、ヴァイス様はモテますね」

「ふふふ、冗談だよ。それで、ヴァイス殿。何が望みなんだい?」



 慌てた様子の俺達見てにやりと笑うラインハルトさん。俺は真っ赤な顔をしてじろじろとみるアイギスに少し気恥ずかしい感情を抱きながら、当初の目的をお願いすることにする。



「うちの領地にいくつか魔物の巣が発見されたんです。本来ならば退治をすべきなのですが……あいにくうちの兵士たちではまだ戦力不足でして……準備が整ったら攻めようと思っているのですが、その時にはお力を借りたいのですが、大丈夫でしょうか?」

「もちろん構わないとも。だが、戦力不足なのだろう。せっかくだ。君が良ければ我らが兵士達と合同で鍛錬をするのはどうだろうか?」

「願ってもない事です。ありがとうございます。ラインハルト様!!」



 俺の声は上ずっていなかっただろうか? これは想像以上の収穫だ。ブラッディ家の兵士の練度はかなり高いと有名だ。そんな彼らのノウハウを直接教えてもらえるなんて……

 そんなことを思っているとラインハルト様が声をひそめて俺に囁いた。



「その代わりといってはなんだが……気難しい子だが、これからもアイギスと仲良くしてもらえると嬉しい。さっきの反応からして君の事を悪くは思っていないようだから」

「もちろんです。俺とアイギス様……アイギスは友人ですから」



 ラインハルト様は一瞬目を見開いてから満足そうにうなづいてくれた。色々とあって人間不信になっていた娘の事を心配していたのだろう。



「何をこそこそと話しているのよ!!」

「ふふふ、男同士の内緒話というやつさ、なあ、ヴァイス殿」

「はい、そんな感じです」

「なんかイヤラシイ感じ……」



 会話に入れなかったのが悔しいのか頬を膨らませるアイギス。そんな彼女にラインハルトさんが話題を振りながら、歓談が始まる。

 そうして俺は新しい友人たちと楽しい時間をすごしたのだった。後でハブられたナイアルが恨めしそうにしていたのは正直すまんかった。



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ヴァイス=ハミルトン


武力 45→45

魔力 65→70

技術 25→28


スキル


闇魔術LV2

剣術LV2

神霊の力LV1


職業:領主

通り名:無能悪徳領主?

民衆の忠誠度

20→25(減税によってアップ)


ユニークスキル


異界の来訪者


 異なる世界の存在でありながらその世界の住人に認められたスキル。この世界の人間に認められたことによって、この世界で活動する際のバットステータスがなくなり、柔軟にこの世界の知識を吸収することができる。


二つの心


 一つの体に二つの心持っている。魔法を使用する際の精神力が二人分使用可能になる。なお、もう一つの心は完全に眠っている。



(推しへの盲信)リープ オブ フェース

 

 主人公がヴァイスならばできるという妄信によって本来は不可能な事が可能になるスキル。神による気まぐれのスキルであり、ヴァイスはこのスキルの存在を知らないし、ステータスを見ても彼には見えない。


神霊に選ばれし者

 

 強い感情を持って神霊と心を通わせたものが手に入れるスキル。対神特攻及びステータスの向上率がアップ。


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これにて、二章の悪役令嬢編終了です。最強の後ろ盾と最悪の宿敵をゲットしたぜ!!


明日から偽聖女編になります。FGOがおもしろすぎて色々やばいですが、更新頑張りますのでよろしくお願いいたします。

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