第32話 ヴァイスとアステシア
結局あの後は警備をかねて、俺とロザリアが子供たちと一部屋で固まって寝るという事になった。神父さんは不審者の事を報告しに、アステシアは嫌われてしまっているからと、相変わらず距離を取って自分の私室で寝ているというわけである。ひどい話だとは思うのだが、それだけ呪いが強力なのだ。仕方ない。
「ロザリア……ちょっとアステシアの様子をみてくるよ」
「私も……といきたいのですが、そうはいきませんね。私は失礼な事を言って傷つけてしまいそうですし……」
中々離してくれなかったキースが寝静まったのを確認して、俺がロザリアに声をかけると彼女は子供たちを見て……カタリナがぎゅっと服を掴んでいるのを手を撫でながら申し訳なさそうに言った。
「ああ、気にするな。適材適所ってやつだ。今回はアンジェラから助けてくれって言われていることを説明するだけだしな」
「よろしくお願いします。ですが……思ったよりも強力な呪いな様ですが、治す方法はあるのでしょうか?」
「ああ……確実とはいけないがいくつか思い当たる方法がある。とりあえず彼女をハミルトン領に連れて言ったら色々と試してみよう」
「流石です、ヴァイス様は博識ですね」
信頼に満ちた笑みを浮かべるロザリアに思わず苦笑する。よくもまあ、疑わないものだ……なぜ俺がそんな事を知っているかとか気になっているだろうに……だけど、それを聞かなくても信用できるくらいの関係があるのだろう。だったらそれを裏切るわけにはいかないよな。
俺は絶対成功させると改めて誓う。
アステシアの呪いを解く方法は大まかに二つの可能性が考えられる。一つは神獣の加護である。強力な神獣と契約し、その力で呪いを浄化させるのだ。ちなみにこれに関しては、ゲームでもイベントがあり、殺した相手に寄生するという能力を持つハデス教徒の幹部に、その身を乗っ取られそうになった仲間が、神獣と契約したことによって打ち勝ったというイベントがある。
これに関しては俺が彼女の呪いに対しても抵抗できているから可能性は高い。
「とはいえ……ホワイトは俺と契約しているし、神獣自体がポケモンみたいにそうそういるわけではないからなぁ……ゲームでも主人公達が契約できたのは、偶然が重なった感じなんだよな……まあ、主人公補正なんだろうけど……」
残念ながら、俺は序盤に死ぬ悪役貴族だからな。主人公補正は期待できないだろう。そして、もう一つの方法は……神霊の泉の水を使う事である。
「あれに関してはイベントっていうよりも、ただの回復アイテムなんだよなぁ……」
ゲームで一個だけ所持できるアイテムで『神霊の水』というものがある。使ったら再び泉に行けばすくえるのだが、何個も入手しようとすると「神霊の泉の水は貴重だ。独り占めにするのは良くない」というテキスト画面が現れるのである。
うるせえ、たくさん持たせろよって思ったのは俺だけじゃないだろう。効果はいかなる状態異常も回復するというものである。その状態異常には毒や麻痺の他に呪いという動けなくなる状態異常も含まれるのだ。アステシアの呪いにも効果はあるはずだ。ゲームの様に飲ませるだけでなく、もっと全身から浴びれば変わるかもしれない。
俺はそんな事を思いながら、アステシアの部屋の前にたどり着く。元は倉庫かなにかだったのか、じめじめとしているうえに他の場所に比べて古く、今にも壁に穴が空きそうだ。これだけで、彼女の扱いがわかるというものだ。
「すまない、ちょっと話をしたいことがあるんだがいいか?」
「……別にかまわないわ。何の用かしら?」
ノックをするとしばらく、間を置いて返事が返ってくる。その声色には警戒心が籠っている。それも仕方ないだろう。これまでさんざん理不尽に迫害をされていたのだから……
絶対、助けるからな、アステシア。
扉を開けると、ベットに机、そして、本棚があるだけの質素な部屋だった。建物自体は古いが、中は綺麗に整頓されている。そして、本棚には様々な宗教に関する本なかりがずらりと並んでおり真面目な性格が……と思っていると『もふもふ図鑑』という本が目に入った。
そう言えば、ゲームでも神獣を見た時は少し表情が動いていたなというのを思いだす。正直の話、推しの部屋だぁぁぁぁぁぁぁと叫んで転げまわり、匂いを嗅ぎたいが、今はそんな場合ではない。くっそ、本当に残念だぜ。
「人のプライバシーをあまり見ないで欲しいわね……そんなところに立っていないで座ったらどう? 子供たちは元気かしら?」
「ああ、今はロザリアと一緒に寝ているよ」
「そう……よかった……」
俺の言葉に彼女は安堵の吐息を漏らす。ゲーム本編では、彼女は一生懸命救おうとしていた人間に裏切られたショックで闇堕ちをするのだ。そして……ハデス教徒になった彼女はハデス教徒以外には徹底的には厳しい行動をするのである。
今の彼女ならば……子供を思いやる気持ちのある彼女ならば、まだ救えるはずだ。
「それで用なんだが、アンジェラという女性を知っているか?」
「……ええ、知っているわ。懐かしい名前ね。どうぞ」
そう言うと彼女は、無表情のまま俺の前に果実水の入ったコップを置いた。しかし、推しを見てきた俺にはわかる。一瞬目が輝いたのを見逃さなかった。アステシアにとっては本当にアンジェラは大切な人なのだろう。
俺は彼女からもらった果実水を口に含んで、話を続ける。
「俺は彼女からの依頼で、君を助けに来たんだ。みんなから嫌われるのは辛いだろう? 俺はおそらく君を助ける方法を知っている」
「私を救う方法を……そう言えばあなたは、私を嫌悪しないのね。なぜかしら?」
無表情だった彼女の目が大きく見開かれる。そして、一瞬ふっと笑った気がする。その笑みを見て……俺は嫌な予感に襲われた。
この笑みはゲームでも見たことがある。主人公達と相対するときと……敵を皆殺しにする時に浮かべる冷酷な笑みだ。
「それは……」
俺が理由を説明しようとすると、急激に頭が重くなる。まんだこれ……体が動かなくなっていく……
「私が答えてあげるわ。それは……あなたが邪教の人間だからでしょう?」
「違う……俺は君を……」
「私にかけられた呪いの正体は知っているわよ。『邪教の人間以外に嫌悪されるの呪い』でしょう? 私が困っている時に救世主の様に助けて、洗脳でもするつもりだったのかしら? 残念ね。これでも、かつては聖女と呼ばれていたの。呪いの種類くらいはわかったわ。あいにく解くことはできず弱めるだけだったけど……」
俺を見ながら彼女は少し悔しそうに言った。まずい……ハデス教徒だと勘違いされている。ちなみに彼女が今言った方法は、実際にハデス教徒が彼女を仲間に入れた方法である。
説得力がありすぎるな、おい。
「マルタをさらったのもあなたたちかしら? ゆっくりと話をきかせてもらうわ。拷問とかはしたことないけど、傷ならすぐ治せるから安心して」
アステシアはそう言うと、俺の腰から剣を抜く。うおおおおおお、やられるぅぅぅぅぅ!! アイギスと言い、流石悪役だぜ、みんな暴力的だぁぁぁぁぁぁ!!
-----------------------------------------------------------
アイギスといいアステシアといいヒロインがみんな初手は暴力をふるってくる感じになってしまいましたね……まあ、元が悪役だから仕方ないのか……
やはりロザリアが癒し……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます