第31話 遭遇
結局その後俺達がアステシアと顔を合わせることはなかった。どうやら彼女はご飯もみんなと別々にとっているらしい。
そして、夜になり、皆が寝静まった時に、俺とロザリアは教会の周囲を探索していた。冒険者という設定だからか神父に深夜の見回りをお願いされたのだ。ロザリアは寝ていても良いのだが、「二人の方が安全です」との事でついてきてくれた。
「先ほどは申し訳ありません、ヴァイス様……初対面の方にあのような態度を取ってしまうとは……」
「いや、気にするな。彼女にはハデスの呪いがかけられているんだ。ハデス教徒以外に嫌われるという呪いがな。だから、ロザリアが彼女を嫌っても仕方ないんだよ。俺はホワイトの加護があるから大丈夫なんだろうけどな」
「ハデス教徒……ヴァイス様を傷つけ、アイギス様を苦しめたやつらですね。本当に許せませんね……ですが、なぜ、ヴァイス様はあの方が呪われていると知っているのですか?」
「それは……ホワイトの加護だよ。あはは」
「そうなのですね、流石はヴァイス様です!!」
まさか、ゲームの知識ですとは言えずに適当な嘘をつくと、ロザリアは本当に感心したように褒めてくれた。
罪悪感がやべえええええええ!! そして、彼女はホワイトの事を思いだしたように寂しそう溜息をつく。
「本当はホワイトちゃんも連れて行きたかったんですが……」
「あいつは可愛すぎるし、神獣だからな……不必要に目立つ可能性があるから、ナイアルにあずかってもらったがやはり寂しいな……元気にしているといいんだが……
ホワイトのきゅーきゅーとした鳴き声を思い出して、俺も少し寂しさを感じる。今回の件が終わったらたくさん可愛がってやろう。そんなことを思っている時だった。
「きゃっ」
ロザリアがいきなり足をもつれさせ、俺に捕まるようにして、こちらに抱き着いてきて……耳元で囁く。
「ちょ……ロザリア……?」
「顔を動かさないようにして、あの建物の上を見てください。何者かが潜んでいます」
「なんだと……」
俺は彼女の言葉通りにさりげなく、屋根の上を見る。だめだ、全然わからん。気配も感じない。流石は元冒険者のロザリアと言ったところだろう。
魔法は多少うまく使えても、ここらへんが実戦経験の違いなのだろうか……
「かなりのやり手の様だな……俺が魔法で身を隠すから、ロザリアは相手をこっちに誘導してくれるか?」
「そんな……ヴァイス様が危険です」
「お前は俺が守ってくれるんだろう。なら、大丈夫だ。それに俺だって強くなったんだぜ」
「もう……そんな言い方ずるいですよ。ただし……危険だと思ったら絶対に逃げてくださいね」
そして、ロザリアと二手に分かれて俺は魔法を使い影にその身をひそめる。体は動かせないが、幸い視界は見えるのでタイミングを見逃がすことはなさそうだ。
しばらくすると、先ほどロザリアが言っていた場所に氷の槍が降り注ぎ……、銀色に何かが光ったと思うと、氷が弾かれた。
「ははは、まさか。私の気配に気づくとはなぁぁ!! なかなかやるではないか!! こんなところで強敵に会えるとは、これこそ神の加護というべきか!!」
「あなたは何者ですか? なぜ、この教会をさぐっていたのですか!!」
ロザリアの魔法をぼろきれのようなフードを身にまとった何者かが左右の手に持った短剣で、弾く。こいつかなりの強敵だ……緊張が走る。
「すまんな、このダークネス!! 故あって、正体を明かすことはできんのだ。美しきレディよ」
「なるほど、あなたはダークネスというのですね!!」
「なっ、なぜ、我が名を!! 貴様まさか鑑定スキル持ちか!!」
いや、緊張しないわ。アホだわ、こいつ……だけど、ダークネスか……むっちゃTo LOVEるしそうな名前である。それに、どこかで聞いたことがあるんだよな。ゲーム本編には出ていなかったはずだ。多分設定資料集で見ていたのかもしれない
しかし、言動こそ、あほっぽいがダークネスの実力は本物である。あのロザリアと互角以上にやりあっているとは……
「すまないが、ここでこれ以上目立つわけにはいかんのだ!! 一旦撤退させてもらうぞ!! ふははは!!」
けたたましい笑い声と共に、ダークネスがロザリアの槍による突きを受け止め、その力を利用して屋根の上から飛び降りる。
かっこつけるためか、空中でクルクルと回ってやがる。
ナイスだ。ロザリア!!
俺が身を影にひそめているところに誘導されたダークネスが着地すると同時に俺は隠蔽魔法を解いて、新しい呪文を唱える。
「この私が気配に気づかなかっただと!! だが、まだ若いようだな!! 死にたくなけば、そこを……」
「影の暴君よ、その腕をもってして、我が敵を捕えよ!!」
「バカな!? 上級魔法だと!!」
ダークネスの言葉を無視して詠唱をすると、俺の影が巨大な獣となって、彼を捕えるべくその爪を振るって襲い掛かる。
彼は一瞬そのフードの中で驚愕の声をもらし……楽しそうに笑った。
「やるな、が、しかーし!! 我が右腕に風の獣、我が左腕に風の鳥!! 風よ、わが刃にまとわりつけ!!」
「こいつも上級魔法を使えるのかよ!!」
左右それぞれの剣に風を纏わせて、右の風を纏った剣で影の獣の爪を受け止め、左の刃を地面に突き刺すと、風が舞い上がり、轟音と共に上空へとロケットのように飛び上がる。
「ふははははは、さらばだ!! ああ、なんとぉぉぉぉ!!?」
俺のダメ元の影の獣の獣による尻尾による一撃がかすり、軌道がずれたからか、情けない悲鳴を上げて変な体制でそのまま飛んでいった。しかし、あいつがアステシアを狙うハデス教徒なのだろうか……ずいぶんとコミカルなやつだったが……
「何の騒ぎですかな」
「……眠い」
あれだけ騒いだ(主にダークネスが)せいか、クレイス神父とアステシアがやってきた。どうしようかと思っていると、いつの間にか俺の傍にいたロザリアが状況を説明する。
「不審者がいたというので、ロイスさんと一緒に見回りをしていたのですが、謎の男に襲われたんです。彼が行方不明の少女に関して知っているかもしれません。かなりの強敵でしたので、他の教会に応援を呼んだ方がいいかもしれません」
「本当に不審者がいたのね……そいつがマルタを……」
アステシアは相もわからず無表情だが、その声には悔しさがにじみ出ていた。それよりも、俺はまるでわかっていたかのような表情で、「ついに現れたか……」とつぶやいているクレイス神父が気になった。
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