第4話 隠しアイテム
「こんなところがあったなんて……何年も屋敷で働いていたのに全然知りませんでした」
「そりゃあな、ここは代々領主しか知らない道だからな」
屋敷にある地下書庫に隠された扉を開けて俺達は一緒に歩いていた。長く使われていなかったからだろうどこかかび臭い。
「ヴァイス様が知っているって言う事は、先代様に領主として認められていたのですね、嬉しいです!!」
「いやあ、ははは……」
俺の言葉に自分の事のように喜ぶロザリアを見て俺は苦笑することしかできなかった。これは単にゲームの知識で知っているだけにすぎない。そして、この通路を知っていたのはヴァイスではなく、その義妹のフィリスだったのだ……つまりそう言う事なのだ……だからこそ俺はヴァイスを認めてあげたい。彼は領主に選ばれたわけではなかったが、それでも一生懸命だったのだから……
今回の借金も、全て民のために色々と彼は考えた結果である……だけど、彼にはそれを実行したが、成功するだけの知識と経験が足りなかった。本来の後継者ではなかったため、父から教わるはずの知識と人脈も得ることはできなかったし、ゲームの主人公のようにそう言うのに詳しい仲間に運よく巡り合う事もなかったのだ。
一生懸命頑張ったのにそれが報われないのはきついよな……ヴァイス……
俺は自分の心に語り掛ける。期待されないというのは辛いし、頑張っても見てもらえないのはつらいものだ。だから、俺は……俺だけは彼の頑張りを認めてあげたいのだ。まあ、ちゃんとロザリアっていう理解者はいたみたいだけどな。
「どうしました、ヴァイス様」
「いやぁ、ロザリアは本当に頼りになるなって思って……メイドもやってくれて、俺の護衛もやってくれるなんて……君がいなかった俺はどうなっていだろうか?」
「もう、何を言っているんですか!! 私はヴァイス様の専属メイドなんですからそんなことは当たり前です!! それに私はヴァイス様はすごい人だってちゃんと知ってますから。あ、そろそろ、魔物と遭遇しそうなので私の後ろに隠れてくださいね」
嬉しそうにニコニコしていたロザリアだったが、通路の奥を見つめると真顔に戻って槍を構える。確かに何者かの気配がする。
ここにいる魔物はビックラットという巨大鼠である。ゲームの序盤に出てくる魔物だという事もあり、あまり攻撃力が高くないがすばしっこいため厄介なのだ。
「氷よ、束縛せよ!! ヴァイス様すぐに片づけますね」
「あ、ああ……」
俺達が通路を出ると案の定5.6匹のビックラットがいたのでロザリアの加勢をしようと剣をかまえた俺だったが、彼女は詠唱と共に魔物達の足元を凍らせて槍を振るって瞬殺していった。
いやいや、強すぎんだろ!! まあ、冷静に考えてみれば仮にも主人公パーティーが苦戦した相手なのだ、無茶苦茶強いに決まってるよな……
「ヴァイス様!! 倒しましたよ。これで先に進めるはずです」
「ああ、ロザリアはすごいな。こんな一瞬で倒すなんて……」
「うふふ、ヴァイス様に頼られるのが嬉しくってつい、頑張ってください。もっと褒めてくださったら嬉しいです。なんちゃって……ヴァイス様……?」
「よくやってくれたな、ありがとう、ロザリア」
えっへんとどや顔で俺に笑顔を向けてくるロザリアの俺は頭を撫でる。褒めてっていうとこんな感じでいいんだろうか? なぜか、ロザリアは顔を真っ赤にしている。やっべ、冷静に考えたら彼女の方が年上なのだ、気分を害してしまっただろうか?
「あ、その……今のは褒めるって言われてこういうのがいいかなって思ったんだが……」
「いえ……その驚いてしまっただけです……ヴァイス様に頭を撫でてもらえて嬉しいです」
「そうか、じゃあ、先に進むぞ!!」
俺とロザリアの間にちょっと変な空気が流れるのを誤魔化すように、俺は歩きはじめる。そして、ようやくやたらと頑丈な扉を開けるとその先にはいくつかの革袋が保管されており、金貨がちらりと見える。
うおおおお、ゲームで見るのとは違いまじでキラキラ輝いている!! それにあとはあれがあるはずだ。
「すごいです、ヴァイス様!! これだけあれば借金を返してもおつりが来ますよ!! 本当によかったです……領地を奪われなくて済むのですね」
「ああ、そうだな。ご先祖様に感謝しないとな」
興奮しているロザリアに答えながら俺は壁のくぼみに隠されている小さな木箱を取り出す。宝箱の中身は赤い宝石が埋め込まれた指輪と、青い宝石が埋め込まれた指輪の二つの指輪が入っていた。
「ヴァイス様、その指輪は……?」
「これはハミルトン家の家宝だよ。ロザリアこれを受け取ってくれ。きっと君を守ってくれるはずだ」
「そんな、こんな高そうなものは受け取れませんよ」
「いいから……これは命令だ。早く指を差し出すんだ」
遠慮しているロザリアの手を強引にとって、彼女の白く細い薬指に赤い宝石の指輪をはめる。この指輪は持ち主の命を一回だけ守る効果があるのだ。ヴァイスのためならば命を捨てるほどの想いを持つ彼女の事をきっと守ってくれるはずだ。
そして俺にはこれである。満面の笑みを浮かべながら自分の薬指に青い宝石の指輪をつけた。
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魔力の指輪
装備したものの魔力の成長値及び魔力を上げる効果がある。初代ハミルトンの領主が戦争で武勲を立てた時にもらったもの。
ステータスアップ
魔力 40→50
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予想通りの結果に俺は思わず笑みを浮かべる。ゲームではこのお金は主人公が領主として活動するための資金となり、この赤い宝石の指輪は主人公の身を守るのに使われ、蒼い指輪は義妹のフィリスの魔力をより高めるために使われるものだが……
俺がもらってもいいよなぁ?
だってさ、お前ら主人公は他にも救ってくれる人がたくさんいるんだ。これは……これくらいはヴァイスを救うために使ってもいいだろう?
「じゃあ、行くぞ。って……重っ!! 金貨やべえな……ロザリア悪いけど革袋を運んでくれないか? ロザリア?」
「え……ああ、はい。失礼しました。すぐに運びますね。よいしょっと」
なぜか指輪のはまった自分の指を見て顔を真っ赤にしていたロザリアは俺が声をかけると慌てた様子で革袋をどんどん担いでいく。身体能力やば!! 俺とか二つが限界なのに十個くらいもっているんだが……しかし、一体どうしたんだろうか? 指輪を上げてからちょっと様子がおかしいんだが……
「ヴァイス様……命令を聞く代わりに私のお願いも聞いていただいてもいいでしょうか?」
「あ、ああ……別に構わないが……」
ロザリアが珍しく笑顔でなく真剣な顔をする。俺と同じような指輪をしたのがそんなに嫌だったのかな? そんなことを思っていると彼女は少し間を開けてその内容を言った。
それは予想外の内容で俺は反対をしたが結局押し切られてしまった。
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