第5話 悪役貴族の反撃

「ご機嫌麗しゅう、ヴァイス様、景気がよさそうな顔をしておりますな。これならば今日の返事は期待ができそうですな」

「ああ、おかげさまでな……」



 翌日執務室で俺はグスタフと向かい合って座っていた。俺の傍らにはロザリアが控えており、相手も同様にこの前の護衛を連れてきている。彼はこちらを馬鹿にしたような笑みを浮かべて俺を見つめている。どうせ借金を返せないと侮っているのだろう。

 ふはははは、愚かな男だ。俺は悲壮な表情をしているフリをしているがちゃんとうまく騙せているだろうか? 確認のためにロザリアをの方を見つめると彼女は無表情のままうなづいた。そして、口パクで一言『約束を忘れないでくださいね』と念を押しをするのも忘れていない。



「それではヴァイス様、約束通りお金を返していただきましょうか? もしも、返せなかった場合は即座に領地をいただきたいのですが……私も鬼ではありません。もう一度チャンスをあげましょう」

「チャンス? 一体それはなんだ」

「それはこのメイドを私に利息として売っていただきたい。お前も主の役に立てるのならば本望だろう?」



 そう言うとグスタフは下卑た笑みを浮かべてロザリアを手招きする。ふざけんなよ、昨日は一晩だったのに、今度は完全に彼女を奪う気じゃねえか。彼女は一瞬逡巡した様子で俺を見つめたあと悔しそうに口をきゅっとしてグスタフの方へと歩いて行く。



「ロザリアなんで……」

「ヴァイス様申し訳ありません……こうするのが一番かと……」

「ふん、最初っからこうしておけばよかったんですよ。くくく、ずっと可愛がってやろうと思っていたんだ。全くこんな男にはもったいない女だよ。ひげぇ」



 グスタフがロザリアの腰に一瞬触れそうになった直後だった。彼女は彼の腕をひねり上げて、まるで道端に転がるゴミをみるような冷たい目で、椅子から転げ落ちて痛みに悲鳴をあげているグスタフを見下ろした。



「こんな男だなんて……今のは発言は領主様への不敬罪ですね。あと、領主様のものである私に軽々しく触れた罪でしょうか?」

「お前……くっ……」

「あなたは領主様の前で刃物を抜いた罪です。ですがうちの領主様は心優しいので、そのまま武器を収めれば許してくださると思いますがどうしますか?」



 グスタフを助けようと動いた護衛の喉元に短剣が突きつけられる。ロザリアマジでつえええええええ!!

 そして、護衛は自分の命が惜しいのか、即座に武器を捨てた。それを見てグスタフの表情に怒りが浮かぶ。



「ヴァイス様!! お金がないからと言ってこのように力で解決しようとするなんて許されませんぞ!! あなたが私に借金をしていることは有名です。金もないのに私を捕えたとなれば更に悪評が広まりますぞ」

「ああ、何を言っているんだ? 金ならあるぞ。お前が先走って俺のロザリアに変な事をしようとしただけだろ」



 そう言って俺が、机の下に隠していた金貨の入った革袋を取り出してどんと机の上に置くとグスタフの表情に焦りに染まる。



「そんな……どうやってこんなお金を……ここにはもう金はないはずじゃ……」

「なにをいっているんだ? さっき景気がいいっていったばかりじゃないか。ちゃんと人の話を聞かないと商人として成功するのはむずかしいんじゃないか? 心配しないでくれ、借金はちゃんとお前の商会に払うよ、まあ、その時にはお前は牢屋だろうがな」

「そ、そんな……確かに失礼な事を言いましたが、ここまでされるほどのいわれはないのでは?」

「そうだな……それだけだったらここまではしないさ。だけどな、俺は借りは返す主義なんだよ。無知な俺をもてあそんで楽しかったか? 調べはついているんだ。俺に勧めた商品を事前に買いしめ値段を釣り上げて売って、我が領土に大きな損害を与えただろう? そして、借金を盾に犯罪に手に染めされる気だったな?」



 そう言って、俺はヴァイスが失敗した事業に関しての資料を彼に見えるように広げる。グスタフが苦い顔をしたことによって俺は推論が正しかったことを確認する。

 もちろんたった一日でこいつの悪事がわかるわけではない。ゲーム本編でこいつは主人公にも同様のことをしているのだ。

 主人公には幸い商売に詳しい仲間がいたから何とかなったが、領主になったばかりのヴァイスはきっと藁にもすがる思いで頼ってしまったのだろう。そして、彼には助けてくれる仲間はいなかった。それが今の状況を作ったきっかえの一つだろう。

 


「領主への不敬罪と、俺の大事なメイドであるロザリアに手を出そうとした罰だ。しばらく牢屋で反省をしているんだな、その間にお前の罪を暴いておいてやるよ」

「そんな……」



 俺の合図とともに兵士がやってきてグスタフとその護衛を牢屋へと連行していった。絶望に染まった顔で連行されてくるグスタフを見て、俺は思わず意地の悪い笑みを浮かべてしまう。


 俺の推しであるヴァイスを騙した上に愚弄し、ロザリアにまで手を出そうとしやがった。許すはずないだろうが。


 それに、こいつの罪はそれだけではない、この国では禁止をされている麻薬や奴隷にも手を出しているのである。借金があるためヴァイスが文句を言えなくなったら好き勝手にするつもりだったのだろう。こうしてこいつを捕えている間に証拠を集めるとしよう。別件逮捕ってやつだね。

 領地の治安をよくして、民衆の忠誠度を上げるためには手はえらんでいられない。日本でも警察が使っている手だ。問題はないだろ。それに……主人公ではない俺が生き残るには多少は卑怯な手を使う必要があるのだから……



「ロザリア助かった。だけど、今後は自分の身を囮にするような真似はやめてくれ……」

「ヴァイス様は心配をしすぎです。ちゃんと触られる前に腕をひねりましたし……こんな指輪をもらったのにあなたの役に立てない方が辛いんです」



 俺の言葉に彼女は珍しく反論をする。彼女のお願いとは、自分を餌にしてグスタフを捕えるチャンスを作るということだったのだ。もちろん、俺は反対をしたのだが、彼女の言葉に負けてしまった。これじゃあさ……俺がピンチになったら彼女は自分の身を犠牲をしてでも守ろうとするだろう。嬉しいけど何とかそれは防ぐようにしないと。

 それには俺が強くなるだけじゃない、領主としても優秀にならなければならないのだ。ひとまずは領地の力をつけるために今の状況の確認と改善、そして……ゲームの知識を使って、将来害をなすであろう人物が力をつける前に排除する必要もあるだろう。やることばかりである。



 だけど、俺はやってみせるよ。そのために俺は推しキャラを救う権利を得たのだから……

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