第6話 魔法にチャレンジ
「ロザリア……まずは、主な部下たちと領地に関して話し合いをしたいから会議を開こうと思う。人を集めてくれるか? それと……だれか魔法に詳しい人を探してくれないか?」
「それならば問題はありませんよ。一週間後には定例会議ですし、魔法の先生ならばヴァイス様の目の前にいるじゃないですか。再び魔法に興味を持ってくださって嬉しいです」
「え? ああそうか、ロザリアが先生だったのか……」
そう言えばロザリアは魔法と槍術をメインにして戦っていたのだ。かつてのヴァイスが彼女に魔法を習っていてもおかしくはない。
「では、明日からまた私が先生として教えましょう!! せっかくです。中断していた剣術も頑張りましょうね」
「ああ、そっちも習おうかな。領主として戦場に出るかもしれないしな」
「ダメですよ。ヴァイス様。そういう戦いがおきないようにするのがあなたのお仕事なんですから、それにもし、戦う事になっても私が絶対守りますからね」
「ああ、そうだろうな……」
ああ、わかっているよ。君が本気で俺を……ヴァイスを守ってくれるって言うことくらいさ。そして、今は平和だが、あと数年でゲーム本編の時間になってしまう。大規模な戦争が始まるのは避けられないのだ。
俺が救いたいのはヴァイスだけじゃない。彼女もだ……主を身を挺してまで守る高潔な彼女があんなふうに悲しい最期を迎えていいはずがないのだ。
だから俺はヴァイスが……今の俺の想いを素直につげるのだ。
「俺も誓おう。ロザリア、お前を守ると。だからずっと俺のそばにいてくれ」
「え……はい……もちろんです。ヴァイス様、どこか変わりましたね……やはり刺されたショックで頭が……」
「今いい話の流れじゃなかった? あれ、俺おかしい事言ったかなぁ……」
「うふふ、ちょっと恥ずかしくなってしまったんですよ。目を覚ましてからちょっとおかしい所もありましたが、昔のヴァイス様に戻ってくださったみたいで嬉しいです。では明日からビシビシと行きますからね!!」
俺の言葉にロザリアが満面の笑みを浮かべた。そうして、俺のヴァイスとしての生活が始まるのだった。
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「やばいやばい、マジでやばい……何この体ひよわすぎぃぃ」
俺は訓練前ランニングで、ばてている自分の無力さを嘆きながらも必死に体を動かす。栄養失調は伊達じゃないぜ!! マジで死にそうなんだが!!
「ヴァイス様、最初は無理をしなくてもいいんですよ?」
「いや、そうはいかないだろ……それに、体力は何をするにしても大事だしな」
「うふふ、ヴァイス様が前向きになってくださって嬉しいです」
無理に頑張りすぎたせいだろうか。俺は足をふらつかさせて倒れそうになってしまう。両親の死後暴飲暴食をしていたためか、予想以上に体力の無さがひどい。
しばらくはバットステータスとも付き合っていかなければいけないだろう。
「剣術も習いたいんだが……今は素振りすらきついな……」
「そうですね、しばらくは体力づくりと魔法の訓練にしましょう。もうちょっと体力がついたらにしましょうか。剣術は私も基礎なら教えられますし、本当はちゃんとした先生に習うのが良いんですが……」
そう言うとロザリアは言葉を濁す。なんだろう、なにかとても言いにくそうだ。ヴァイスのスキルに剣術があったので、かつては誰かには習っていたのだろうが……もしかしたら、すでに追い出してしまったのかもしれない。
とりあえずそこらへんの確認もしないとな……
「それではまずは魔法の使い方ですね……色々とショックな事があると使えなくなることがあるというのは聞いたことがあります。魔法は精神と直結していますからね。それでは基礎からおさらいをしましょう」
魔法の使い方がわからないと言った俺に対して、彼女は怪訝な顔をしながらも基本を教えてくれる。まあ、レベル1ってことは元々ヴァイスは魔法を使えたのだ。それがいきなり忘れたんだから疑問に思うだろう。
だけどそんな俺に彼女は嫌な顔もしないで教えてようとしてくれている。
「ヴァイス様は闇属性ですので、もっとも身近な存在である影を使いましょう。目を瞑って意識していてください。自分の影を体の一部だと認識するのです。久々ですが、体が感覚を覚えているはずです。そして、脳内に浮かぶであろう呪文を詠唱してください」
「呪文か……それって例えばロザリアに教えてもらう事はできないのか?」
「それは難しいですね……私の専門は氷ですし、魔法は詠唱と同時にその結果も頭の中に浮かんでくるんです。そのイメージが不十分だと、詠唱をしても魔法は使えません」
「ズルはできないって事か……」
俺はロザリアに言われたように目を瞑る。だけど、自分の一部って無理じゃない? 影は影じゃねえかよ? てか、呪文何て思い浮かばないんだが……焦れば焦るほどわからなくなってくる。俺が混乱のさなかにいる時だった。
『今回だけは力を貸してやるよ。一回しかやらないから覚えとけよ』
「影の腕よ、我に従え!!」
その声と共に自分の感覚が影とつながった。影が腕の形になり振るうイメージが思い浮かんできた。この感覚か!!
「きゃあ!?」
「どうだ、ロザリア……あ……」
視界に入ったのは舞うように浮かび上がるスカートと、可愛らしいレースが刺繍されている水色の布だった。そう俺の影は手の形をかたどって彼女のスカートをめくっていたのだった。
「ヴァイス様……」
「いや、今のはわざとじゃないって言うか、その……やっぱり氷属性だから水色のなの?」
「もう……エッチなんですから。そう言う事は他の女性にいったら絶対ダメですよ」
彼女は少し顔を赤くしてスカートを抑えながらも、呆れたように溜息をついた。他の女性にはダメって、ロザリアにも本当はしたらだめだろ……だめだよな?
「とりあえず感覚は取り戻せたようですね。それでは影を自由に扱う練習をしていきましょう。あ、次もスカートに触れようとしたらその影を斬りますからね」
「わ、わかってるって……」
「魔法を制御できるようになればできることはだいぶ増えますからね。とりあえず一時間ほど魔術の練習をしましょうか」
そうしてちょっと嬉しそうな笑みを浮かべている彼女との特訓が開始した。不慣れだったけど、魔法の練習はすごく、楽しくて、俺は時間も忘れて打ち込んだ。だって、推しと同じ魔法が使えるんだぜ? 最高じゃん。
その結果俺は影の手を一本ある程度自由に動かせるようになったのだった。しかし、さっき聞こえてきた声はなんだったのだろうか?
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