第7話 ヴァイスの評判

 魔法の特訓の後は書類とにらめっこである。とりあえず回されてくる書類を見ながらハンコを押すだけの簡単なお仕事かなと思ったがそうではないようだ。

 これまであまりちゃんとチェックをできていなかったのか、支出がむちゃくちゃな帳簿や、適当な報告書も結構多いのである。絶対舐められているな……ヴァイスが慣れない仕事で苦しんでいたって言うのにふざけてやがるぜ。

 残念だったな。義務教育やゲームでたくさん勉強した俺からすればおかしいなって言う事はわかるんだよなぁ。



「それじゃあ、この件に関する報告書を修正して明日までに提出しろ」

「は、はい、わかりましたぁぁぁ」



 さっそくふざけた内容の書類を提出してきたやつをしかりつけてやった。今頃書類の矛盾を無くすために彼は必死に頭をはたらかせているんだろうなぁ。そんなことを思いながら、俺は影を使って遠くに積まれている新しい書類を拾い上げる。

 ちなみにこれは歩くのが面倒なわけではない。ロザリア達は知らないようだが、『ヴァルハラタクティクス』では魔法は使えば使うほど経験値が溜まるのだ。だからあえて日常的にも使うようにしているのである。

 ゲームでは戦闘でしか使わなかったが日常生活でつかうのは意外な使い道があって楽しい。それに、闇系統の魔法もゲームでたくさん見たいから一度使ってしまえばイメージも容易いのだ。といっても魔力は無限ではない。



「しかし、くっそまずいなこれ……そろそろちゃんとした飯を食うか」



 俺は泥水のような喉ざわりの無味な魔力回復ポーションを飲みながら鈴を鳴らす。すると、しばらくした後にノックと共にメイドが銀のお盆にパンにハムや野菜を挟んだもの……つまり、サンドイッチを載せて入ってきた。この世界には存在しなかったので俺がお願いしてつくってもらったのである。

 ロザリアは忙しいのか、目覚めた時に俺の悪口をいっていた栗毛のメイドのメグがやってきたようだ。



「ヴァイス様……失礼します。お食事をお持ち致しました」



 声が少し震えているのは気のせいではないだろう。笑顔こそ浮かべているが、彼女の目に浮かぶ感情は恐怖だ。ヴァイスは相当荒れていたようだからな……俺は彼女を安心されるように笑みを浮かべながら声をかける。



「ありがとう、今受け取るよ」

「きゃぁ」



 その悲鳴とともにびくりとした彼女はお盆をおとして、コーヒーが彼女のエプロンを汚す。やっべえ、つい影の手を使ってしまった。



「申し訳ありません!! お許しください」

「こっちこそ悪い、つい魔法を使ってしまった。驚いたよな。大丈夫か? 俺の料理はいいから、早く着替えて火傷がないか見てもらえ。料理は自分で取りに行くよ」



 慌てて立ち上がった俺は彼女の元にかけよってハンカチを差し出す。ホットコーヒーだったが大丈夫だろうか? 

 しかし、彼女は俺のハンカチを受け取らずに、信じられないという顔で俺が差し出したハンカチを眺めているだけだ。あれ? 俺が拭いた方がいい? でも、セクハラにならない?



「ヴァイス様……?」

「ん。どうしたんだ?」

「いえ、怒鳴ったりしないのかなと思いまして」

「するわけないだろう……それより、火傷は大丈夫か?」



 俺の言葉に彼女は不思議そうな顔をする。今のは完全に俺が悪かったからなぁ……魔法は凶器にもなりえるから、本来はこんな風に日常的に使う人間は少ないのである。



「その……心配してくださってありがとうございます。念のために着替えてきますね……お食事は……どうしましょうか?」

「せっかく立ち上がったし自分でとりにいくよ。着替え終わったら通常業務に戻ってくれ」

「はい、わかりました!! その……心配してくださってありがとうございました」



 そういうと彼女は早足で出て行った。なぜかその足取りは少し軽そうだ。俺はそんなメグの後姿を見つめながら体を伸ばす。まあ、ずっと座っていたしちょうどいいだろう。



「ヴァイス様……ほんとうに変わられたみたい……」



 彼女がぼそっと何かつぶやいていたがよく聞こえなかった。そして、その夜何気なくステータスを見るとなぜか『民衆の忠誠度』が11に上がっていたが何があったのだろうか?




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読んでくださってありがとうございます。本日二話更新を致しますのでよろしくお願いします。


次の話は夕方6時くらいに投稿いたします。

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