第8話 ヴァイスと会議
本日二話更新の二話目です。
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「よっしゃーーー、走り終わったぁぁ!!」
「ウフフ、ヴァイス様すっかり、体力がつきましたね」
「そりゃあな、一週間ちゃんと運動したし、その……ロザリアが栄養のつくものを色々と作ってくれたからさ……」
「ヴァイス様……気にしないでください。私はあなたの専属メイドですから。それくらい当り前です!!」
俺が素直に感謝の言葉を述べると、ロザリアは嬉しそうに笑った。メグから聞いた話だと、ヴァイスが領主になってから、中々食事をしないヴァイスのために、彼女が俺の料理を作っていたらしい。わざわざ好物を用意したり、食べやすいものを作ったりと色々とやってくれていたようだ。
本当にヴァイスに忠誠を誓っているんだな……他のメイドの反応を見る限り、普通ではここまでの信頼関係は築けないだろう。機会があれば二人に何があったのかをそれとなく聞いてみるとしよう。
「それにしても最近のヴァイス様は本当に見間違えましたね。お仕事もちゃんとやっていますし、他の使用人たちからの評判も良くなってきていますよ。特にメグが他の人にも色々とヴァイス様が変わったーーって色々な人に言ってました」
「そっか……よかった……でも、俺のことなのにずいぶんと嬉しそうだな」
「当たり前じゃないですか!! だって、ヴァイス様は本当は素晴らしい人なのに……色々とショックな事があってちょっとだけダメになっただけなのに、みんなして文句ばっかりいって悔しかったんですよ!!」
そう言うと彼女はまるで自分の事のように怒ってくれている。そんなロザリアを微笑ましくも思いながらも、胸が少しズキリと痛むのを感じた。
彼女が信頼してくれているのは俺ではなくヴァイスだというのに黙ったままでいいのだろうか?
一瞬よぎった気持ちを誤魔化すように俺は話をかえる。
「それじゃあ、魔法の練習をしたいんだがいいか?」
「はい、この一週間基礎練習をお疲れ様でした。魔力の放出はスムーズにできるようになった思います。今度は、制御の練習をしましょう。それでは影の手でそこの木を10回ほど叩いてみてください。ちゃんと制御しないと当たりませんからね。最初はうまくいかないでしょうが集中すればいつかできるようになるはずです」
そういうと彼女は中庭の木を指さした。これまではただ影を解き放ちその威力を高める訓練をしていたのだが、ようやく次のステージにいくようだ。
だけど、気になる事があった。
「そんな簡単なことでいいのか?」
だってこれは……俺が普段やっている書類を取ったりするよりもおはるかに簡単な事に見えるのだが……それとも何か意図でもあるのだろうか?
「ふふん、魔法に馴れていない人は簡単そうって言いますが、制御してイメージをするのはとっても難しいんです。って、ええええええ? 嘘ですよね!! なんで、そんなにあっさりとできるんですか!! 普通の人は一か月で、ここまでできてもすごい方なんですよ!!」
俺が説明の最中に影魔法で木を叩き始めるとロザリアが驚愕の声を上げる。そりゃあ、まあ、回数をこなすのが大事とゲームの知識で知っていた俺はポーションで魔力を回復しながら、この一週間ほぼ一日中練習をしていたからなぁ……
それに初日から結構あっさりと制御できていたんだが、ひょっとしたら、ヴァイスには闇魔法の才能があったのかもしれない。序盤で死んでいたゲームではわからなかった事実だが……
「ちなみにこんな事もできるぞ」
「えええええ? いくら基礎とはなんでそこまでできるんですか? 凄い制御力です!! もう、私が教えれる事なんて一つじゃないですか……」
俺が影の手を三つにわけて、拾った石でお手玉をすると彼女が信じられないとばかりに目を見開いた。ここまで反応してもらえるとこちらとしても気分がいい。そして……ヴァイスを褒めてもらえるとまじで嬉しい。推しを褒めてもらっている感じだからね!!
そして……魔法の制御力とイメージが大事だと言うのなら、俺ならばちょっとしたチートが使えるかもしれないと、ある発想が頭をよぎった。
「ふははは、そうなんだよ。ヴァイスはすごいんだ!! わかってもらえてうれしいぜ!!」
「フィリス様といい、やはりヴァイス様も天才だったんですね……」
フィリスか……一瞬胸がざわめく。彼女はヴァイスの様な踏み台キャラとは違いメインキャラクターだ。主人公のヒロイン候補であり、……ヴァイスの義理の妹でもある。
確か今は王都の魔法学校にいっているはずだ。ゲームのシナリオではヴァイスと彼女の関係性はあまり良くないため、もっと足元が固まるまでは関わりたくないというのが本音である。
「失礼しました。じゃあ……基礎練習は十分なようなので実戦訓練といきましょうか」
俺の表情から何かを読み取ったのかロザリアが話題を変える。
「へぇー。楽しみだな。実戦訓練って何をするんだ?」
「そうですね……私から一本とってみてください。氷よ!!」
「え?」
俺は目の前でいつものように優しく微笑みながら、魔法で作った氷の槍を構えるロザリアの言葉に間の抜けた顔で、ききかえすことしかできなかった。
「うう……こわかったよう……」
「すいません、ちゃんと寸止めはしたのですが……それに……中途半端に手加減をする余裕がなかったものですから……」
魔法の練習という名の一方的な攻撃を受けて、半泣きになっている俺の後ろをロザリアが苦笑しながらついてくる。
日本という争いと無縁な世界にいた俺は目の前で氷の槍が振るわれるだけでもまじでビビった。影の手も全て槍ではじかれ、剣なんて当たりもしない……だけど、彼女の言葉がお世辞でなければ全く通じなかったわけではないようだ。
「てか、俺さ、以前は気に入らないとロザリアをなぐっていたけど、本気を出せば余裕でかわせたろ?」
「大丈夫ですよ。とっさに受け流してましたからダメージはほとんどありませんでしたし……そのヴァイス様に殴られるのは嫌じゃないですから。あのくらいの攻撃プレイの一環みたいなものです」
「うわぁ……」
「それに私に当たってヴァイス様の気が晴れるなら本望ですから」
一瞬の迷いもなくそういうロザリアの忠誠心は本当にすごいと思う。俺は狂信的ともいえる彼女に内心驚きながら会議室へと向かう。
「差し出がましいようですが、訓練で疲れているとは思いますが、会議中には寝ないように気を付けてくださいね。最近ヴァイス様の努力が皆さんに認められ始めていますが、それはあくまで館の使用人たがちや日常的にお会いする方だけですので……」
「ああ、いつも心配してくれてありがとう。その……何かあったらサポートを頼むよ」
俺は緊張しながら会議室の扉の前に立つ。ここが大勝負だろう。俺は大きく深呼吸をしてロザリアに頷いた。
「ヴァイス様がいらっしゃいました」
ロザリアが扉を開けると同時に会議室にいた人間の視線が集中する。その目はどこか値踏みするようで……少し心地悪い。
「右から財政を担当する……」
ロザリアが誰が何を担当するか教えてくれるが、俺の目線はガタイのいい気真面目そうな壮年の男性に集中していた。情報収集をして色々と問題ばかりの我が領地だが、特にやばいのは治安である。そこをなんとかしなければいけないだろう。だから特に担当の者とは重点的に話し合う必要があるのだ。
一見真面目な壮年の男性だがなぜ治安の悪化を放置していているのだろう。
「そして、トイレ掃除担当のカイゼル様です」
「は?」
いやいや、ガタイの良い人はトイレ掃除だったよ。てか、なんでトイレ掃除担当が会議にいるんだよ。そして、何よりも……
「治安担当はどこだよ!!」
「バルバロ殿ならいつものように控室でお酒を飲んでいると思いますが……」
俺の叫び声にカイゼルが答える。なんで、来ないんだよ。てか、バルバロってマジかよ……ヴァイスにとっても悪い意味で因縁のある相手だ。
今あいつについて色々と調べ終わった所なんだけど……まさか、治安担当なんてやってるとはな……。
「舐めてんだろ!! なんで誰も文句を言わないんだよ」
「それは……ヴァイス様がバルバロ殿は我が代理でもあるとおっしゃったので誰も文句を言えず……」
ヴァイスのせいだったぁぁぁぁぁ。俺は内心頭をかかえる。
「くっそ……俺が連れてくる。ロザリア、そいつの元に案内をしてくれ」
「はい、ヴァイス様」
そうして、俺はバルバロの元へと向かうのだった。念のために剣を持っていく。
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