第96話
パンドラとの戦いから一日が立った。アステシアには教会で子供たちの洗脳を解いてもらい、俺たちは町長室で後始末をしていた。
「私は悪くない!! 全ては貴様が悪いのだ、ヴァイス=ハミルトン!! 知っているぞ!! 貴様は私を排除してこの街を支配するつもりだろう。私は正義のためにお前を殺そうとしたのだ!!」
「……言いたいことはそれだけか?」
まるで正義は我にありとばかりに縄でしばられながらも、こちらをにらんでいるドノバンを、あえて偉そうにふんぞり返りながら冷たく見下ろしていた。
いや、こいつマジで何言ってんの? 犯罪者が英雄気取りかよ。同席しているジャミルの表情も探るが困惑を隠せていないようだ。
「お前は邪教であるハデス教徒をかくまったばかりか、俺を暗殺しようとした。それは認めるということでいいんだな?」
「ああ、そうだ。私は英雄になるのだ!! お前という悪徳領主を殺してな!! おい、ジャミル、力を貸せ!! このままではこの男にこの街は支配されていいようにやられてしまうのだぞ!!」
「英雄? あなたは一体何を……? ヴァイス様信じてください。私はドノバンのたくらみとは一切関係ないんです」
どこか狂気に満ちた目で、狂ったこと言うドノバンを、傍らで様子をみていた副町長のジャミルが共犯にされてはたまらないとばかりに、慌てて無罪を主張する。まあ、彼からしたら無関係なのに、仲間扱いされそうになっているのだ。笑い事ではないだろう。
「ああ、心配するな。こいつの妄言だろ。お前は邪教徒との戦いでも、俺たちのサポートをしてくれたと報告を受けてるよ」
「わかってくださって安心しました」
「お前のことは評価しているんだ。だから、これからもこの街のために頑張ってほしい」
ジャミルはほっと肩をおろす。この街を統治するには元々権力を握っていた人間がいた方が都合がいい。彼にはドノバンの分もこの街のために働いてもらうのだ。優しくしておいて損はないだろう。
「おい、ジャミル!! いいのか!! お前はそいつに……ひっ!?」
「そいつとは誰の事でしょうか? これ以上ヴァイス様を侮辱するようでしたら、あなたの首と胴体がお別れをすることになりますよ」
無表情にロザリアが自然な動作で、槍をドノバンの首に押し付ける。わずかに刃が当たっているのだろう。彼の首からツーっと血が流れるのが見える。
こわいいいいいい!!! 演技で偉そうに断罪している俺と違って、ロザリアは本気でおこってんじゃん!! ドノバンも先ほどまでの狂気に満ちた瞳がすっかり輝きが消えて、恐怖に涙をうかべている。
恐怖のあまりパンドラの洗脳も解けたようだ。
「ひぃぃぃぃ!! 命だけはお許しを!!」
「ああ、いいぞ。その代わりお前にはこの街で不正を働いていたやつの情報をたっぷり吐いてもらうけどな。連れていけ」
情けない悲鳴を上げてドノバンが兵士たちに連れられて行く。そんな彼を見送った俺は傍らにいるジャミルに話しかける。
「ドノバンがいない今、君が一番この街に詳しい。とはいえ、今回の騒動でかなりの兵士が犠牲になったはずだ。俺の方でもカイゼルという信用できる部下と彼の指揮する兵士たちを手配した。協力してこの街を統治してほしい」
「はい。わかりました!!」
一瞬複雑そうな顔をしながらも、ジャミルがは元気よく返事をする。まあ、俺の兵士が増えればそれはこの街のこちらの戦力が増えるということだ。俺が完全にこの街を私物化するのを警戒しているのかもしれない。
実際は違うが、元々ヴァイスは悪徳領主として有名だったからそう思われるのも無理はない。
「心配するな。カイゼルは俺が信頼する部下の一人だ。不正を許したりはしないし、俺も彼をいつまでもここに置いておくつもりはない。治安が落ち着いたら、またハミルトン領に戻ってもらうさ。だから、その時は頼むぞ」
「……はい。ありがとうございます。では失礼いたします」
俺の言わんとしたことを理解してくれたのか、ジャミルがほっと息を吐いて部屋を出ていった。これでこの街の未来は安心だろう。ジャミルはまじめにやってくれそうだし、何かあったらカイゼルが止めるはずだ。
俺は声をひそめてローザに頼んでいたことを聞く。
「それで、ローザ……パンドラたちは見つかったのか?」
「いえ、彼女たちの姿は見つけることができなかったそうです。最悪、もうこの街から逃げているかもしれません。ただ……身元が不明な首のない女性の死体が丁重に埋められていたのが見つかったそうです」
「身元不明な首のない死体だと……?」
何それこわい。ハデス教徒の儀式かなんかだろうか? 俺は怪訝に思いながらもゲームで何かそういう魔法でもあったかと思い出そうとするが見当もつかない。
「パンドラの置き土産で何かをやっているかもしれない。引き続き冒険者にパンドラたちの捜索と死体の身元の調査をお願いしておいてくれ」
「はい、お任せください」
とはいえ、死体が誰かというのはわからないかもしれない。この世界にはDNA鑑定とかもないし、人探しの魔法もないしな。
そう、考えているとロザリアが何かを言いたそうにじーっとこちらを見つめているの気づく。
「ん? どうしたんだ? 何か話したいことがあるなら聞くぞ」
「あ、はい……その……今回はヴァイス様を今回は危険な目にあわせてしまって申し訳ありませんでした。私はあなたを守ると誓ったのに……」
シュンとした顔で申し訳なさそうな顔をしているロザリアの頭をなでながら、俺は優しく彼女の目を見つめて言い聞かせる。
「それは違うぞ。ピュラーが敵だっていうのに気づけなかったのは彼女の能力だし、俺がロザリアに調査をお願いしたんだ。だから、お前が悪いわけじゃない」
「ヴァイス様……ありがとうございます」
彼女の柔らかい髪をなでていると、甘い香りと共に幸せな気分になってくる。彼女の方はとろけるような目でこちらを見つめているの気付く。。
やばい、ドキドキしてきた。
「ヴァイス様……その言いにくかったらいいんですが、ピュラーさんにはどんなことをされたんでしょうか?」
「え?」
「あ……その、これはヴァイス様のメイドとして気になったというか……あれです……」
予想外の質問に思わず聞き返すとロザリア自身もなぜそんなことを聞いたのかわからないのか、珍しくテンパっている。
一体どうしたというのだろう。まあ、隠すようなことでもないし、気になるなら答えてもいいだろう。
「まあ、その……抱き着かれはしたがそれだけだよ。ロザリア達の顔が思い浮かんでさ、正気に戻れたんだ」
「そうなんですね、流石はヴァイス様です。その……キスとかもされていないんですね……」
俺の言葉にロザリアがほっとしたように息を吐いてほほ笑む。まあ、ずっと一緒にいた俺がいきなり現れたピュラーに襲われてエッチな目にあっていたら彼女的にもいい気分はしないだろう。
それにしてもキスか……前世はもちろん、ヴァイスにあってからもそんなことは……そう思って、昨日のアステシアとのやりとりが思い出される。頬に感じたあの感触、まさか……
「ヴァイス様……? どうしました?」
俺の様子に違和感を感じたロザリアが心配そうに声をかけてくる。まさか、アステシアに頬にキスをされたなどとは言うわけにはいかずに、どう誤魔化そうとしているとノックの音が響いた。
「入っていいぞ。どうしたんだ?」
俺が助かったーーとおもいながら入室を許可すると兵士が慌てた様子で豪華な印章の押してある手紙を手に持ってやってきた。
「ヴァイス様、大変です。ゼウス十二使徒様からヴァイス様宛に手紙が届いています。急いで回答が欲しいと!!」
「十二使徒から!?」
予想もしない回答に俺とロザリアは顔を見合わる。まさかスカーレットがなにかあほなことでもやらかして、フィリスから助けの手紙でも来たのだろう。
受け取った手紙の差出人の名前を見ると『未来の英雄ダークネス』とかいてあった。
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ドラゴンノベルスコンテスト残念ながら落ちてしまいました。
イラストになるみんなが見たかった……残念
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