第128話 カイザード
カイザードという名に関してはやりこんだ俺でもあまり知っていることは多くない。彼はゲームの始まる前にアイギスの婚約者として登場し、首をちぎられるだけの出番しかなかったからだ。
彼女の苛烈さを表現するだけの存在だったのだ。それゆえ彼がなぜアイギスの婚約者となり、彼女に殺されたかは俺もわからない。
「む……その立ち振る舞い……貴様らもなかなかの手練れと見た!! 正義の味方として共にこいつらを倒さないか?」
「ん? ああ、もちろんだ。ブラッディ家の領民たちに被害が及ぶのは俺も嫌だからな」
「流石はご主人様です。あなたの背中は私にお任せください」
視線があって声をかけてきたカイザードに俺は敵意はないと笑顔を浮かべて答える。まあ、パッと見た感じそんなに悪いやつではないのか……?
とりあえず彼の腕前をみてみるとしようと、ロザリアに視線を送ると、以心伝心とばかりにうなづいてくれる。珍しく名前ではなくご主人様と呼んだのは、俺の意図をくみ取ってくれたということだろう。
そして、俺たち三人は魔物の元へと突っ込む。
「ふははは、我が聖剣の糧となるがいい。ティルファングよ、その力を表せ!!」
カイザードは剣を抜くと、そのままオークやゴブリンに斬りかかっていく。するとその剣は魔物たちの鎧ごとまるで紙のようにあっさりと切り刻んでいく。
「なんて切れ味だよ、あの剣……」
「それだけではありません。あの剣技……相当な鍛錬を積んでいるかと……おそらく、アイギス様よりも強いと思います」
「まじかよ……」
俺たちは魔法などを使い他の騎士たちをサポートしながらカイザードの戦いを観察していたがその予想以上の強さに思わず驚愕の声を漏らす。
よく、アイギスはこいつを殺せたな……まあ、ゲームの彼女は今とは違い地獄のような環境にいたのだ。もっと強く容赦がなかった。比べるだけ無駄だろう。
そして、カイザードは強いだけではなかった。
「そこの男!! 俺の目のまえで負傷するつもりか!!」
そう叫んだカイザードはオークの斧によって押しつぶされそうになっていた騎士をつきとばすと、そのままの流れでオークを斬り伏せる。
「あ、ありがとうございます」
「ふん、正義の味方として当然のことをしたまでだ!! それよりもまだ終わってはいないぞ。正義の味方として邪悪なるものを殺せ!!」
騎士をかばったその時にほほを軽くかすったのか、血が垂れているが気にしている様子もない。あれ、この人無茶苦茶良い奴じゃない?
そうして、カイザードと俺たちの活躍もあり、大した負傷者もなく魔物たちの撃退に成功する。
「すごいな……カイザードさんは名の知れた騎士なのか?」
「ふっ、違うな。俺は正義の味方だ。ここにも悪を狩りに来たのさ」
決め顔でちょっと恥ずかしいこと言う姿がダークネスとちょっとかぶるなと思いながらも、ハデス教徒と戦う時に力になってもらえるかもしれないと思い恩を売ることにする。
「へぇ……俺はこの近くの領主なんだ。力になれるかもしれない。悪っていうのは誰なんだ?」
「ふふ、お前も俺と同じく正義の味方だったか!! 俺は悪役領主であるヴァイス=ハミルトンを狩りに来たのだ」
「「は!?」」
「ん? どうした?」
俺とロザリアが間の抜けた声をあげるとカイザードはきょとんとした顔で首をかしげるのだった。
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ヴァイス君はカイザードがハデス教徒だって知らなかったりします
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