第129話 ヴァイスの罪
俺はいきなりのことに混乱を隠せなかった。俺が悪徳領主だと……? そりゃあ、ゲームではそうだったかもしれない。だけど、今は違うはずだ。
「お待ちください、カイザード様。ハミルトン領の領主さまが悪徳領主というのはどういうことでしょうか?」
「うん……? 知らないのか。やつは政治を側近に任せ、領地が貧乏だというのに、領民に重税を課して自分は贅沢三昧をしていたのだろう?」
「それは昔のことだよ。今はハミルトン領は平和そのものだ」
カイザードの言葉は確かに正しい。それはかつてのふてくされていたヴァイスで、バルバロに良いように使われていたからな。
だけど、俺がヴァイスとなりロザリア、カイゼルと共に様々な改革を行ったのだ。今はもうハミルトン領に俺を悪徳領主なんていうやつはいないと思うのだが……
「そうだな……だが、だからといって昔、行ったことがなかったことになるわけではあるまい? 俺に助けを求めてきた少女はヴァイス=ハミルトンの増税によって、母とともに故郷を捨てて我が領地へと逃げてきたのだ。つらいかったと……生きていくので精いっぱいだったと俺に訴えてきたよ」
「な……」
何を言っているんだとばかりの表情のカイザードに俺は思わず言葉を詰まらせる。ああ、そうだよな……かつてのヴァイスの悪政で苦しんだ人々がいることは事実だ。何人もの領民がハミルトン領をあとにしたのかはわからないが、その人たちにとってはヴァイスはまだ悪徳領主なのだろう。
「申し訳ありません。確かにヴァイス=ハミルトン様に関しては、かつては至らなかったこともありますですが、心を入れ替えて善良な領主になったと聞いております。それに、私は人は過去を悔いて変わることはできると思います。仮にも相手は領主なのです。通りすがりに過ぎない私たちよりも、もっと周辺の街などで情報を集めた方がいいと思います」
「ふふ、むろんだ!! これから周辺で情報収集をするつもりなのだ。だが、俺の正義の味方としての勘が訴えているのだ。やつは敵であると……まあいい、二人とも手助け感謝するぞ」
会話は終わりとばかりにロザリアが答えるとカイザードは最初にあった時と同じように笑いながら去っていった。
だけど、ヴァイスの罪か……そりゃあそうだよな……バルバロとかにいいように使われていた時につらい思いをしたやつだっているはずなのだ。
もやもやとした感情を抱きながら俺は馬車に乗る。
「ヴァイス様……あまり気になさらないでください。それにこの罪はあの方をとめられなかった私と……」
「それは違う。俺の罪でもあるんだ。だって、今の俺もヴァイスなんだから」
「ヴァイス様……」
これは俺の本音だ。だって、俺はヴァイスに頼まれたのだ。それにロザリアやカイゼル、ハミルトン領の領主としての立場など自分に都合の良いものだけ受け取って、あいつの罪だけからは逃げ出すなんてできないだろう。
それよりもだ……
「俺が反論しなきゃいけないのにお前にヴァイスを穢すようなことを言わせてすまなかった」
カイザードと会話していた時に、自分の手を力強く握っていたロザリアの手をさすってやる。事実とは言え悔しかったのだろう。
そして、俺はそんなことを彼女に言わせてしまった自分のことを悔いる。ああ、そうだよ……俺は今を何とかすることに必死で過去を全然見ていなかったのだ。
「次の会議の時に俺(ヴァイス)が腐っていた時に重税を行ったため損害を受けたもののために、何らかの補填をする方法はないか提案してみようと思う」
「ヴァイス様……流石です!!」
過去はなかったことにはできない。だけど、見て見ぬふりをしていいわけでもないだろう。だからいまできることをやろう。
そう思うのだった。だけど、推しのことを悪く思っている人がいると知ると少し胸がずきりと痛むのだった。
そうして、割り切ったと思っていたのだが……翌日一緒に踊っていたアイギスが、途中で動きをとめて心配そうな顔でこちらをのぞいてくる
「ヴァイス……今日は集中できてないみたいだけど、何かあったのかしら?」
「いや、別に何も……」
「……私に嘘は通じないって知ってるわよね。それとも、私はそんなに信用できないかしら」
じとーーっと攻めるような視線のアイギスに俺は冷や汗を流す。そうなんだよな……心眼を持つ彼女に嘘は通じないのだ。
「それがさ……」
アイギスのプレッシャーに負けた俺は観念してカイザードに言われたことを話す。すると彼女は憤怒の表情を浮かべた。
「何が正義の味方よ!! カイザードとかいうやつをぶっ殺しましょう!! 私はヴァイスの味方なんだから!!」
「いや、落ち着けって!! それに俺はあいつの言葉にも一理あると思っているんだよ」
今まさに剣を持ってカイザードに殴り込みに行こうとうするアイギスを慌てて押し止める。意図せず原作再現になってしまうところだった。
やはり武力、武力はすべてを解決する!!
「むーー、ヴァイスは悪くないと思うけど……でもそれで悩んでいるのね……だったら良いところがあるわ!! 私についてきて」
「え。でもダンスは?」
「うふふ、ヴァイスのおかげ予定よりも上手になっているの。だから安心して、当日のダンスを楽しみにしててね」
そう言って嬉しそうに笑う彼女の手に引っ張られるのだった。ちなみにすごい握力だった……
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久々にアイギスのターン!!
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