第130話 領主の責任


 アイギスに手を引かれてついてきた先は、ラインハルトさんの執務室だった。領地の規模もあるからか扉からしてうちよりも立派である。

 一体どうするのかと様子を見ているとアイギスは迷いなく扉を開けた。



「お父様失礼するわ!!」

「ちょっとアイギス、ノックくらい……」



 そして、俺は彼女を全力でとめなかったことを後悔する。



「なあ、マリアベルよ……アイギスのはなすことが最近ヴァイスくんのばかりなんだ。このまま彼に取られてしまうのかな?」

「はいはい、あの子ももう子供じゃないのよ。恋くらいするわよ。あら……噂をすればなんとやらね」



 俺の視界に入ったのは普段の威厳はどこにいったやら情けない声をあげてラインハルトさんと、その妻であるマリアベルさんが宥めている姿だった。

 まるで子供のように頭を撫でられているラインハルトさんに俺が言葉を失っているのをよそに、アイギスはまったく気にした様子もなく会話をする。



「あ……」

「アイギス、ちゃんとノックしないとだめじゃないの」



 俺にきづいてばっと姿勢を正すラインハルトさんと対照的に落ち着いた様子でアイギスを注意するマリアベルさん。



「ねえ、ママ。ヴァイスの悩みごとを聞いてくれないかしら? 領主としての責務で悩んでいるみたいなの」

「領主の悩みね……あなたはちょっと出て行ってくれるかしら……」

「あ、ああ……わかった」



 マリアベルさんは俺を見透かすような目で見つめた後に、恥ずかしいところ見られたからか顔を赤くしているラインハルトさんが立ち上がってこちらへとやってきた。

 そして、すれ違いざまに耳元でささやく。



「ヴァイス君……ここで見たことは忘れるように」

「はい、わかりました」

「なによ、いつものことじゃないの」

「アイギス……家族に見せる顔と仲間に見せる顔は違うんだよ……」



 耳ざとく聞いたアイギスに突っ込まれるとラインハルトさんは哀愁の漂う顔でため息をつく。アイギスが何事もなさそうにしているのは彼女にとっては日常だったからだろう。

 ちょっとラインハルトさんがかわいそうになってきたな……



「それで……ヴァイス君の悩み事っていうのはなにかしら?」



 マリアベルさんは俺を真正面から見て安心させるようにほほ笑む。アイギスと同じ真っ赤な髪をしたアイギスが大人になったらこうなんじゃないかと思わせる美しい女性だ。

 ゲームのアイギスとはずいぶんと雰囲気は違うが、それは落ち着いた表情で知性を感じさせる瞳だろうだろう。アイギスはいつも殺気立った顔をしていたからな。



「あのラインハルトさんはいなくていいんでしょうか?」

「うふふ、あの人は戦うこと以外はからきしだからいても無駄よ……むしろ邪魔になるわ。まあ、そんなところもかっこいいんだけど……」

「パパは戦いはすごいんだけど、基本的に深く考えないもの!! だからいつも難しいことはママが考えてくれるのよ!! だから、ヴァイスの疑問だってきっと答えてくれるわ」



 散々な評価である。だけど、マリアベルさんがラインハルトさんのことを想っているのは俺でもわかった。そして、俺が悩んでいることを話すとマリアベルさんはうなづいてこういった。



「なるほど……わかったわ。多分ヴァイス君には説明するよりも実際にみてもらえばいいと思うわ。ちょっとついていきてくれるかしら?」

「ママとヴァイスとお出かけ楽しみにね」

「別に構いませんが、一体どこへ?」


 突然の提案に混乱している俺にマリアベルさんは微笑む。


「あなたは領主の責任について知りたいのでしょう? だから、かつて、我が夫であるラインハルトが侵略した街に行くわ」

「は?」



 俺は予想外の返答に驚くのだった。



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この作品が電撃の新文芸様より書籍化いたします。


イラストになったみんながみれるぞ。 楽しみ!!


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