第127話 アイギスとダンス
音楽にあわせて、俺がステップを踏むと、アイギスが緊張した顔で一生懸命ついてくる。ゲームでの彼女はこういうダンスなどが得意そうではなかったが、随分と練習したんだろう。
多少の体に硬さがあるものの、ちゃんと踊れていることが嬉しい。
「ふー、だいぶ頑張ったな。少し休むか……」
「私はまだまだ踊れるわよ!!」
二時間ほどずっと踊りっぱなしだったため、休憩を提案するとアイギスがきょとんと首をかしげる。いや、こっちがつらいんだって……
鍛えているはずなのだが、足腰に疲労を感じている俺に対し、アイギスは息一つきらしていない。
「アイギス様、ずっと練習をしていると、体は大丈夫でも、頭が疲れてしまうんですよ。ヴァイス様はそれを心配してくださっているんです」
「そうなのね、ありがとう!! ヴァイスは気が利くのね!!」
アイギスに満面の笑みでほめられて苦笑する。単に疲れていただけなんていえねえ……ナイスアシストだ、ロザリア!!
彼女に視線で感謝を伝えると、わかっているとばかりにうなづいてくれた。まさに以心伝心である。
俺はアイギスのダンスの練習のために、ブラッディ家に来ていた。流石は大貴族という事もあり、練習用のダンスホールなどもあるらしい。
ブラッディ家のメイドさんからもらった果実水をいただきながら俺は練習していて気になったことを指摘する。
「去年と比べてずいぶんと上達したよな。一生懸命練習したんだろ? 何があったんだ?」
ハデス教徒による母の病が治ってからはアイギスも貴族令嬢としての作法などの勉強も多少はこなすようになっていたとラインハルトさんが驚いたように言っていた。
去年のアイギスの誕生パーティーでは最低限だがダンスだって踊っていたのだ。基本は剣を振り回す方が好きだと思ったのだが……
「去年ね……ヴァイスが他の貴族令嬢と踊っていたでしょう? それを見て……いいなって思ったの。私もあんなふうにヴァイスと一緒に踊りたいなって思ったのよ」
「アイギス……」
顔を真っ赤にしもじもじとしながらも上目遣いで可愛らしいことを訴えてくる彼女に俺の方まで顔が熱くなってくる。
そして、彼女が頑張ってくれるならば俺も全力で彼女の力になりたいと思う。
「じゃあ、頑張ろう。気になったんだが、アイギスは踊るときにやたら緊張していないか? それで体が硬くなっていると思うんだが、なんか心当たりはないか?」
「うーん、そうね……ダンスをするときは次にどうするかとか色々と頭の中がごちゃごちゃしちゃうの……戦う時は直感でやっているからそういうことはないんだけど……」
可愛らしく首をかしげるアイギス。てか、あんなに激しい戦いをしているっていうのに全部直感なのかよ……これがブラッディ家の力という事か……やはり、武力、武力はすべてを解決する。
いや、武力か……アリだな……
「なあ、アイギス……ダンスの基礎はできているし、お前の方が好きにリードして見ろ。ちょうど戦うときみたいにさ、俺はそれについていくよ」
「でも……そんなの作法と違うわよ」
「いいから、とりあえず試してみようぜ」
ラインハルトさんも作法よりもアイギスが楽しめるかの方を大事にしていると思うし問題ないだろう……と思って彼女と再度ダンスを踊る。
ダン!!
とまるで突きでもつくかのような激しいステップと共に、俺は必死に彼女にいついていく。そう……マジでついていくのがやっとだったのだ。
やっぱりアイギスの身体能力はやべえな!!
俺の様に日頃鍛えている人間でなければついてはいけないだろう。俺はちょっと緩めてくれと言おうとしてやめた。
一緒に踊っているアイギスの表情は先ほどまでの緊張に満ちたものと違い、本当に楽しそうだったからだ。ならば今は彼女に楽しんでもらおう。
そして、俺たちは彼女が満足するまで踊るのだった。
「誕生日パーティーのダンス楽しみにしてるわ。ドレスもすっごいのよ!!」
とご機嫌のアイギスに見送られながら、俺とロザリアは馬車を走らせていた。
「アイギス様はとても嬉しそうでしたね。ヴァイス様と一緒に踊るのがとても楽しみなんでしょう」
「ああ、無茶苦茶気合が入っていたからな……おかげで体がくたくただよ」
俺は少しおちゃらけながらかえす。比喩でなく疲労混倍である。すると彼女はふっと笑顔を浮かべる。
「ですが……そんなに風にアイギス様が笑顔で踊って入れるのはヴァイス様が未来を変えるために頑張ったからでしょう? やはりヴァイス様はすごいです」
「ああ、そうだな」
俺の正体を話したというのにロザリアは俺を前と同じようにほめてくれる。それがなんとも嬉しい。彼女の気持ちは本来のヴァイスと同様に俺のことも大切におもってくれているというのがわかるからだ。
「ですが……アイギス様はヴァイス様と踊れてちょっとうらやましいです」
「ロザリア……?」
珍しく彼女が不満そうに唇を尖らす。俺の正体を明かしてからちょっとだけど、こういう拗ねてりする顔を見せることが増えていることに正直俺は動揺していた。
だけど、不思議とそれはうれしかった。
「じゃあ、こんど一緒にダンスでも……」
「ヴァイス様!!」
一瞬油断した時だった。すさまじい轟音がして慌てて馬車がとまる。ロザリアに抱きかかえられて俺は柔らかい感触ににやけそうになったがそんな場合ではないと言い聞かせる。
巨大な岩石が飛んできたのか、他にも何台もの馬車が止まっているのだ。
「一体なにが……」
馬車から出るとそこには数匹の魔物がいた。トロルや、オーガなどそこそこ強力なまものである。ここはブラッディ家の領地から出たが旅人たちも定期的に使用する。山道である。
騎士たちが定期的に巡回しているはずなのに、いったいなんだというのだろうか?
「なんでこんなところに……こいつらが……」
「ヴァイス様……あなたのことはお守りしますのでご安心ください。」
「ふん、我が聖剣に引き寄せられたか……」
俺たちが戦闘態勢に入ろうとすると、一人の男が別の馬車からおりてきた。中世的な顔立ちをした白銀の鎧に身をまとった青年である。
彼は男は光り輝く剣を手に持って魔物たちを睨む。
「我が名はカイザード!! 正義の名のもとに悪を狩るものなり!!」
その男はそう名乗ったのだった。
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すいません、フレイザードの名前さすがにまずいかなっておもったのでカイザードに変更します。
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