第98話

ハデス教徒最後の十二使徒であるアステシアを倒し、ゼウスの加護によって選ばれた彼らは見事邪神ハデスを打ちのめして、英雄となった。

 長い長い道のりだった。クレスはこれまでの事を思い出いながら、馬車に揺られている。

 守れたものもあったし、救えなかったものもあった。自分たちを守るためにその身を犠牲にした師匠がいた。異世界から転移してきたという聖女がいた。自分と共に魔法を学び、この国を救うために、戦ってくれた少女がいた。そして……誰のことも信じない赤髪の少女を救う事は出来なかった。邪教の中にいる弱きもののために勝てないとわかっていても最後まで戦い続けて死んだ少女がいた。

 彼はこの旅で出会った人々の事を忘れることはないだろう。



「クレス、そろそろ、王都につくよ。君は英雄なんだから、しゃきっとしないと!!」

「そうですよ。クレス様。みんなあなたの姿を見て、お礼を言いたいんです。そして、ゼウス様の神殿で祝福を受けましょう」

「ああ……そうだね、二人とも」



 いつものように年上風を吹かすフィリスと、結局旅の間ずーっと様呼びが直らなかったカエデに苦笑する。彼女たちがいたからこそクレスは様々な試練を乗り越えることができたのだから……



「この旅も終わりか……ちょっと寂しくなっちゃうね。みんなはこれからどうするの?」

「そうだね。私はメグと故郷に戻って、領主になるよ。ハミルトン領を頑張って発展させるんだ」



 フィリスが遠くハミルトン領の方を眺めどこか悲しい笑みをうかべながらそう言った。ああ、そうだ。彼女が元々魔法学園に来た理由は、故郷でとある人物の力になるために、魔法を学びに来たんだっけ。結局そのとある人物が誰のことは教えてくれなかったけど……



「私は……クレス様についていこうと思います。昨晩もあんなことをさせたんです。責任をとってくれますよね?」



 カエデはまるで、愛おしいものでも見つめるかのように、クレスを見つめて、その手を握る。その意図が一瞬わからず……怪訝な顔をしていると、フィリスが顔を真っ赤にして叫ぶ。



「ええ、二人ともやたら仲良いって思っていたけど、やっぱりそういう関係だったの? というか昨晩って何? 最終決戦前にどんなエッチなことをしてたの?」



 やたらと慌てる彼女にクレスとカエデは顔を見合わせてにやりと笑う。



「耳かきだけど………? そんなにエッチかな?」

「どうでしょうか? 私はそうは思いませんが……フィリスさんは一体どんなことを想像したんですか?」

「あ……うう、また私をからかってーー!!」


 

 顔を真っ赤にして、怒る彼女にクレス達はくすくすと笑う。いつもの光景だけど、もう見ることはできなくなるであろう景色だ。彼らはゼウスから祝福を得たらそれぞれの道を行くのだから……

 そして、フィリスが落ち着くのを待って、カエデが口を開く。



「私はクレス様とずっと、一緒にいたいと思っています。ダメでしょうか?」

「もちろん、嬉しいけど……元の世界に戻らなくてもいいの? ゼウス様がこれから一つだけお願いを聞いてくれるんでしょう。その時にお願いすればそれくらいできると思うけど……」

「はい、私はあなたといたいんです」



 カエデがクレスを熱い目で見つめ、フィリスが気まずそうにつぶやく。



「どうしよう、私、今無茶苦茶お邪魔じゃない? 二人の世界をつくらないで……」



 そして、荒廃している王都をやたらと豪華な馬車で凱旋していると、民衆たちが歓声を上げる。クレスは彼ら手を振りながら、ふと目に魔法学園の制服を身にまとった学生たち姿が目に入る。



 ああ、いいなぁ……僕もちゃんと学校生活を満喫したかったなぁ……



 フィリスやカエデ、師匠と一緒にいたらきっと楽しい生活が待っていただろう。そして、誰にも言わなかった思いを心の中で告げる

 僕は英雄になんてなりたくはなかった。ただ、普通の人生を過ごしたかったんだ……






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王都というだけあって、ハミルトン領とは比べ物にならないくらいにぎわっている。市場には人々が行きかい、大道芸を披露しておひねりをもらうものがいて、魔法学園の生徒が買い食いをしている。



「とても、にぎやかですねヴァイス様」

「ああ、初めて来たけどすごいな。ハミルトン領もこれくらい発展させないとな」



 俺はすました声で答えるが内心はドキドキである。なぜかというと……



 うおおおおおおお、本当に王都に来たぁぁぁぁ!! ガチの聖地巡礼じゃんこれ!!



 ゲーム本編では、荒廃していた王都がこんな風ににぎわっているの嬉しいし、かつての同人誌で読んだ、『もしも、フィリスではなくヴァイスが魔法学園に入学していたどうなるだろうシリーズ』の舞台でもあるのだ。

 これで滾らなくて何に滾るっていうんだ?



「ふーん、ヴァイスは王都が初めてなのね。じゃあ、案内してあげるわ」

「おお? ちょっと、アイギス!?」



 満面の笑みをうかべるアイギスが俺の手を取り、馬車から飛び出そうとする。いや、まだ走ってんだけど……と思っていると、まるでこれからおきることがわかっていたかのように馬車が止まる。

 なぜだろうと思っていると、目のあったロザリアがにこりと笑う。まさか、予想して馬車をとめてくれたのだろうか?

 このメイド有能すぎる。



「ありがとう、ロザリアも行くか?」

「うふふ、気にしないでください。ヴァイス様。まだ約束の時間までありますし、たまには気分転換をされるのも大事ですよ。私は先に宿で荷物の整理をしておきますから」



 ロザリアが優しく見送ってくれる。せっかくだし、彼女の好物でも買って帰ろう思っていたが、アイギスの一言で馬車内の空気が変わる。



「うふふ、じゃあ、行くわよ。ヴァイス!! 王都デートね!!」

「ああ、そうだな。二人っきりで女の子と観光か……確かにデートだな」

 


 満面の笑顔で、だけどすさまじい力で俺の手を引くアイギスの言葉に思わずドキッとしてしまう。出会ったときはまだ子供だったが、ここ一年で全体的に起伏が激しくなり、その容姿もより美しくなっている。

 そんな彼女と手をつないでデートという現実を改めて実感すると胸がどきどきしてくる。思わずにやけていると、すさまじい視線を感じた気がする。

 ロザリアである。彼女はいつものように笑顔をうかべているが、その表情はどこか硬い。



「……ヴァイス様、気が変わりました。冷静に考えれば、ここにもハデス教徒がいるかもしれません。護衛は必要でしょう。私も行きます」

「いや、俺とアイギスがいれば何とかなると思うが……」



 俺の言葉にも彼女は微笑んでいるだけど何も答えない。あれ、何か選択肢を間違えたのか? やっぱり嫉妬してくれているのか? だったら俺は……

 俺がそう考えているとアイギスの楽しそうな声が響く。



「うふふ、三人でデート最高ね!! ロザリアも私と手をつなぎましょう!!」

「うう……アイギス様の無邪気さに自己嫌悪を感じます……」



 そして、俺たちは三人で王都の観光にいくのだった。




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前半はゲームの原作主人公の視点です。

エンディング中の話ですね。



フィリスのキャラが違うのは、尊敬する大好きなお兄ちゃんに対する態度と、てのかかる弟みたいな存在に対する態度の違いですね。


どうでもいいですが、ゲームではアステシアが闇堕ちしたので代わりの聖女としてゼウスに呼ばれ異世界転移したカエデちゃんが聖女になっています。

サモンナイトみたいなノリですw



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