第22話 ヴァイスとハデス教徒

混乱している俺とハデス教徒の間にアイギスが凛とした表情で割り込んだ。流石は大貴族の令嬢といったところか、威圧感すら感じる。



「あなた達は何でここにいるのかしら? 彼は私の友人よ。今すぐ武器を捨てて詫びなさい」

「アイギス!?」


 ハデス教徒たちに対して上から命令をする彼女を止めようとするが、その手が俺の武器を指さしている。時間を稼ぐから奇襲の準備をしろって事か。力で解決する、流石ブラッディ家だぜ。



「アイギスお嬢様が、屋敷を出たので心配して見にきたのですよ。おそらくそいつらはあなたをさらうつもりだったのではないでしょうか? だから、こんな辺鄙な所に連れてきたのでしょう、その男は無能な悪徳領主と有名です。利用されてしまいますよ」



 細身の男はあくまで自分はアイギスの味方ですとばかりに笑みを浮かべる。ああ、確かにこれは彼女との信頼関係を築けていなかったら危なかった。俺の悪評は周辺にも広まっていたからな。

 でもさ、俺と彼女はもう友達なんだよ。



「私がつけられていたのね……ごめんなさい……あいにくだけど、私はお母様の病の原因を知ってるのよ。あんたたちがマンドラゴラを飲ませたこともね!! それと……私の友人を侮辱したことを詫びなさい!! そうすれば命だけは許してあげるわ!!」

「なぜそれを……!?」



 アイギスの言葉に大柄な男が動揺した声をあげる。てかさ、ゲームでは誰にも心を開かなかった彼女にこうまで言ってもらえると嬉しいな。



「バカが……なんで反応するんだ、お前は……こうなったら仕方ない。小娘もろとも皆殺しだ!!」



 それまでの媚びる口調から一転して細身のハデス教徒が殺気をあらわにし、巨体のハデス教徒もまた、両腕を振り上げる。

 あの腕で叩かれたら無事では済まないだろう。



「すまねえ、だがこの失態は取り戻すぜ。ハデス様からもらった俺の筋肉で!!」

「させませんよ!!」

「影よ!!」



 巨体のハデス教徒とアイギスの間に割り込んだロザリアの氷がその巨体を凍てつかせ、ひそかに魔力を練ってた俺の影が細身のハデス教徒を束縛する。

 普通ならこれで勝ちだが、そう簡単には行かないだろう。現にこいつらはニヤリと笑った。



「はっ、ハデス様の加護を持つ我らを舐めるなよ!! 眷属よ!!」

「その程度の氷、我が筋肉の前では無意味だ!!」

「私の氷が……」

「何よ、こいつら!!」

「召喚術か……やるねぇ……」

「きゅーー……」



 巨体なハデス教徒は凄まじい力で、氷を抱しめるようにして砕き、細身のロキ教の手が光ると同時に、使い魔である禍々しい闇を凝縮したようなカラスが現れた。

 なるほど……こいつらのタイプがわかったぞ。あいにくお前らとはゲームで何回も戦ったことがあるんだよ!!



「巨体な方は力があるだけだ!! 素早しさと守備力はそこまでじゃない。攻撃にだけ気をつけろ!! 細身のやつのカラスはすばしっこく急所を狙ってくるぞ!! だが本体は大したことない!!」

「そう……じゃあ、素早く叩けばいいのね!! いい事を教えてあげるわ。鍛えられた武力は時に筋肉を凌駕するわ!!」

「はっはっは、いくら速くとも僕のミレイユの触手から逃れらるほどじゃないでしょ」

「え?」

 


 氷を壊し得意げな顔をしていた巨体なハデス教徒に、アイギスが凄まじい速さで近づく。そして構えていた剣の刀身を叩きつけると冗談のような勢いで、ハデス教徒は木々をなぎ倒しながら吹き飛んでいった。


「俺の筋肉がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 それと同時に、ナイアルが気障っぽく指を鳴らすと彼の服の裾から無数の触手が突き出てきて、使い魔のカラスに絡みついてそのまま握りつぶす!!



「ほら、ご飯の時間だよ、ミレイユ。よーく味わうんだよ」

「バカな!! 我が眷属を捕えるだと!?」

「お前らそんなに強かったのかよ!!」



 俺は影を操り細身のロキ教徒の首を絞めて気を失わせながら二人に問う。すると二人とも得意気に言った。



「ブラッディ家は武官ですもの、これくらい淑女のたしなみよ!!」

「貴族たるもの自分の身くらい自分で守れなきゃねぇ」

「お二人とも流石です。でも、ヴァイス様もとっても強いんですよ」



 いや、そもそもアイギスはゲームでも強敵だったのだ、強くて当たり前か……もしかしてあのアホみたいなステータスは魔剣の力じゃなくて素だったのかもしれない。絶対怒らせないようにしよう……

 そして……ナイアルはよくわからないが、ひょっとしたらこれからのアップデートで現れるキャラなのかもしれない。でも……この二人がいるならばもしかしたら俺は……俺達は主人公よりも強い仲間を得て、領土を作れるかもしれない。そのことに気づき胸が高鳴る。

 ヴァイス……俺がお前の領地を発展させてみせるよ。お前の夢は俺が叶えるぜ。



「アイギスたちはふっとんでいったハデス教徒をこっちに運んでくれ。あとでラインハルト様に突き出そう。俺はこいつを見張っているよ」

「はーい、さっさと行くわよ。思ったよりとんでいったわね」

「はは、アイギス様はすごい馬鹿力だねぇ……ひえぇぇぇぇ、殺気に満ちた目で睨まないで」



 俺は二人のそんなやりとりを聞きながら、細身のハデス教徒を監視する。薬とこいつらを突き付ければラインハルト様も俺の話を信用してくれるだろう。



「ヴァイス様……こんなことは私がやりますよ」

「大丈夫だって。それに見たいものもあるしな」

「もう、もっと頼ってくださっていいのに……私は周囲を見張ってますね」



 少し拗ねた様子の彼女に苦笑しながら俺はハデス教徒に触れてステータスを確認する。



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シューゼル


筋力 15

魔力 60

知力 60


スキル


使い魔召喚LV2


ユニークスキル


神への狂信LV3

神のために戦うときは、ステータスがアップ



職業:ハデス教徒

神への忠誠度

100


ハデスによって神託を受けて彼の手足として動くことを決めた。趣味はカラスごっこ。

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 本来は中盤に出てくるだけあって、中々強力なステータスだ。魔物達もだが、将来的にこいつらに対抗するためにはうちの兵士たちをこの練度まで上げる必要があるだろう。

 何かいい方法はないだろうか? 誰か優れた軍隊を率いる人に戦い方を教われたらいいんだけどな。



「きゅーきゅー!!」

「ん? どうしたんだ?」



 肩の神獣が何か訴えるように俺の服の襟を引っ張る。いったいどうしたんだ? と問おうとしたら視線を感じる。そして、そちらを向くと影で束縛されて意識を失ったはずのハデス教徒と目が合う。

 しかも、その目は真っ赤で禍々しい光を放っている。



「え? なんで目を覚まして……一体何を?」



 そいつは自分の体が傷つくのも気にせずに影の鎖を引きちぎる。ブチブチという不気味な音と共に血をまき散らしながらり俺の首を掴もうとしたのでとっさに下がる。

 ハデス教徒の手が空を切り、ソイツは憎々しげに俺を睨みつける。



「こいつ一体……」

『なんだ貴様らは……まさか、異界の神の使者か……余計な事をしおって……』


 

 ソレが口を開くと天から声が降ってきた。この世全てを憎んでいるような憎悪に満ちた声に俺は心が震える。

 俺はこのイベントに覚えがある。これは主人公の負けイベントで発生するのだ。本来ならばハデス教徒の十二使徒の一人を倒した時に発生して、主人公たちはなすすべもなくボコボコにやられ、師匠的存在が時間を稼ぐために命を落とす序盤の鬱イベントである。


 こいつの名はハデス……そう、ラスボスであり、帝国が暴走した原因でもある。

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