第50話 戦争の始まり
「ヴァイス様、敵影が見えました!! やはりかなりの数ですな」
「うわー、こうしてみると圧巻だなぁ……」
「きゅーきゅー!!」
川の向かい側から、砂埃が舞っているのが見えて、何百人の歩兵や騎兵がこちらに向かってくるのが見える。先遣隊だというのにこちらの総力と同じ500人くらいの数だろう。
今ここで相手を迎え撃つために待機しているこちらの兵は250人か……別動隊に、斥候、拠点を守る兵士などもいるからな。流石に全員をここに投入することはできなかったのだ。それにしても単純に2倍か……
「大丈夫なの……? 私にできる事なら何でも言いなさい。とりあえずできるだけの加護はかけておくわね……ってなんで楽しそうに笑ってるのよ」
「ああ、悪い悪い……あまりにも予想通りだったからさ」
俺は怪訝な顔をしているアステシアに俺は得意げに答える。兵士の練度はこちらが上でも数が違いすぎる。真っ向から戦ったらおそらく苦戦するだろう。
だけど、俺はこの戦いをゲームで何度も体験している。時期は違かったが戦力や戦い方はあまりかわらないようだ。後はイレギュラーな要素と言えばハデス教徒がどれくらい出ているかである。
だったら……問題はないな。俺は兵士たちに向けて大声で声をかける。
「諸君!! 今回ヴァサーゴたちは我々に奴隷売買の濡れ衣を着せて、戦争を仕掛けてきた。こんなことが許されていいものか? いや、いいはずがない!! こんな汚い連中に我らがハミルトン領が踏み散らされれば、皆の家族が、どうなるかは想像に難くはないだろう。だが、安心してほしい。ゼウス神は我々を見てくださっている!! この不利な状況を奇跡によって覆して見せよう!!」
「皆の者、我々が辛い訓練をしてきたのはなんのためか!! 我々は民とヴァイス様を守るために剣を取っているのだ!!今ここで、ハミルトン家の力を見せてやろう!!」
「そうだ、カイゼルの言うとおりである。皆の者!! 我らがハミルトン家の力をみせてやろう!! 今回敵将を捕えた物には褒賞をやる。さあ、神よ、我らの兵士に奇跡を!!」
「「神よ、祝福を与えん」」
「「「「「「「うおおおおおおおお!!!!!」」」」」」」
アンジェラが連れてきてくれたプリーストたちによるバフと俺とカイゼルの演説によって、士気の上がった兵士たちが雄たけびを上げる。
兵士たちのやる気は十分なようだ。それを確認した俺はアステシアに声をかける。
「じゃあ、行ってくるよ、アステシア。合図をしたら頼む」
「ええ……その絶対帰ってきてね。死なない限りは癒してあげるから。カイゼル……ヴァイスを守ってね」
「もちろんです。ヴァイス様がいらっしゃってこそのハミルトン家ですから!!」
「きゅきゅーー」
心配そうな顔をしているアステシアにカイゼルが胸を張って答える。俺はそれを嬉しく思いながら、初めての戦争だというのに全然怖がっていない自分に少し驚く。
これもヴァイスの力だろうか……彼が俺の心の中にいて、俺を信じて待機してくれているロザリアと、心配そうに見つめてくれているアステシアに、俺を守ろうと気合を入れているカイゼル、首元で俺を守るようにしがみついているホワイトがいると思えば不思議な安心と、何とかなるという勇気が湧き出てくる。
それに……俺がヴァイスになってからやってきた兵力の強化という努力の成果が見れるのだ。興奮しないはずがないだろう。
「いくぞぉぉぉぉ!!」
「おおーー!!」
俺の号令と共に歩兵や騎兵が駆け出す。そんな中俺はあえて先頭で馬を走らせる。そして、相手に声が聞こえるギリギリにの距離で馬を止めて大声で叫ぶ!!
「我が名はヴァイス=ハミルトンである!! 卑劣な侵略者たちよ、我を討ち取れるものならば討ち取ってみるがいい!!」
挑発するような声に相手の兵士が一瞬困惑して、そして、一部の兵士たちがこちらへ向かって駆け出してきた。
「ヴァイス様、あとはお戻りください。ここは私が……」
「そうはいかないぞ。相手は俺という餌によって、陣形を崩してくれたからな。そして……ここからが本番だ」
俺は飛んでくる矢を剣ではじきながら心配そうにしているカイゼルに首を横に振る。貴族同士の戦争はたいていが領主の一存で決着がつく。今回の場合は俺が死ぬなり、捕えられればゲームオーバーだ。だからこそ……俺をどうにかしたやつには相当な褒賞が与えられるだろう。
功を焦って何人もの兵士たちがやってきやがった。そして、俺は半数ほどの兵士が川を渡っている時に剣をかかげる。
するとまばゆい光が天をつく。アステシアの雷である。
ゴォォォォォゴゴ!!!
それから少し遅れてすさまじい振動音があたりに響いて、敵味方関係なく、混乱し……上流から怒涛の如く流れてくる水によって驚愕と絶望に染まる。
ロザリア達が氷魔法で凍てつかせて、押しとどめていた川の水を解放されたのだ。氷は水に戻り、せき止められていた氷交じりの水が降り注ぐ。
「うわぁぁぁぁぁぁ!?」
慌てて川をわたろうとする敵兵だったがその大半はそれが叶うことは無かった。鉄砲水に驚いて暴れた馬に振り落とされる騎兵や、混乱のあまり身動きが取れない歩兵たちが戦う事もなく散っていく。
「いまだ、相手は分断されたぞぉぉぉぉぉ!!」
俺の言葉と共にわが軍の兵士たちが再び突撃をする。しょせん鉄砲水は一時的なものに過ぎない。相手が混乱している間に、一気に攻め込んで優勢にして見せる。
士気も高く、ラインハルトさんに訓練をされた兵士たちは有利に戦いを進めていく。だけど、ヴァサーゴのところも流石は武官である。そう簡単には攻めきれないようだ。しかも、ハデス教徒らしきやつらも厄介な加護を使ってきやがる。使い魔に翻弄されている兵士たちも多い。
まずいな……水が収まれば増援が来てしまう……少しでも早く、こいらの数を減らしておきたいというのに……
俺が内心焦っている時だった。わが軍の兵士たちがまとめて数人吹き飛ばされていく。
「ふはははは、しょせんは、ハミルトン家の雑魚共だなぁ!! 卑怯な手を使ってこの程度か!!」
「あいつは……」
「相手の将軍スラッシュです。凄まじい怪力と剣の使い手ですが、これほどとは……」
「へぇーーー、どれくらいの強さだと思う?」
「おそらく……ロザリアとおなじくらいかと……」
ゲームには登場しなかったが、カイゼルの言う通り、かなりの使い手なのだろう。わが軍の兵士がどんどん倒されていく。数で攻めれば何とかなるだろうが……損失も計り知れないだろう。数で劣っている俺たちには致命的だ。そして、敵兵の士気が上がっていくのが見える。だからこそちょうどいい。
こいつを討ち取れば俺達の勝利は近づくだろう。
「我が名はヴァイスである。スラッシュとやらよ、勝負しろ!!」
「ほおーー、領主ごときが俺と勝負とはなぁ!! その心意気は買った!! 相手をしてやるよ」
「ヴァイス様、危険です!!」
俺の言葉にスラッシュまでの道を兵士たちが開ける。カイゼルには申し訳ないが、ここで俺がこいつを倒せば兵士たちの士気は上がる。ここの戦いが戦況が決まるのだ。
「心配するなよ、俺はヴァイス=ハミルトンだぜ」
「それは知っていますが……」
そう、俺はヴァイスなのだ。しかも、ゲームとは違い、ちゃんと鍛錬したヴァイスなのだ。ロザリアに魔法を習い、カイゼルやラインハルトさんに剣を習った。正当に成長した推しなのだ。
だったら負けるはずがないだろう?
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最近十二使徒とかばかりいたからあれですが、ロザリアクラスは一国ではかなり上位なんですよ……
しかし、スラッシュさんのかませ臭がやばい……
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