第17話 ゲーム知識と治療薬


「やあやあ、親友殿すごいじゃないか、あの気難しいアイギス様とデートをするなんて!! どんな魔法を使ったんだい?」

「ふふ、ヴァイス様は素敵な方ですからね。当たり前ですよ。でもちょっと妬けちゃいますね」



 ナイアルが驚いたように、ロザリアが誇らしげに言った後に、少し不満そうに唇を尖らせた。一体どうしたのだろう?

 二人には悪いが今はやることが山積みで頭がいっぱいである。アイギスの母が、かかっている病気はハデス教団が広めた疫病であり、将来主人公たちの領土を襲う病気である。

 まさか、こんな前から病にかかっている人がいたとは……この感じだと有力な権力者にとりいるための道具として使用していたのかもしれない。自分たちで開発した病だ。治し方だってわかるだろうさ。現に主人公はハデス教の幹部を倒して治療法を得たのだから……そして、その治療法はもちろんのことだがゲームをプレイした俺も知っている。



「なあ、ロザリア……なんとかマンドラゴラの根っこが手に入らないか? 至急必要なんだ」

「マンドラゴラの根っこですか……冒険者ギルドに頼めばしばらくしたら手に入るとは思いますが……レアな素材なのでいつ手に入るかまでは」

「そうだよなぁ……」



 困った顔のロザリアに俺もうなる。主人公たちはイベントでたまたま手に入れたのだが、そううまくはいかないようだ。しかし、急いで手に入れないと……先にハデス教が治療薬を渡したりすればラインハルト様は彼らに逆らう事はできなくなるだろう。そして散々利用されて、使い捨てられてアイギスも闇落ちしてしまう事になる。



「え? マンドラゴラの根っこなら僕の家にあるよ」

「は? 一体なんで……」

「言ったじゃないか、僕のところは薬草を扱っているって、それと同様に珍しい植物も集めているのさ……だから……」

「頼む、ナイアル。売ってくれ!!」



 俺は興奮のあまり彼の手を掴んで頼み込む。すると彼は驚いたように目を見開いてちょっと気障っぽく笑った。



「親友殿の頼みだ。もちろんいいよ。でも一個だけ条件がある。何をするか僕も混ぜてくれよ。もう蚊帳の外はまっぴらだからね」



 そうして俺はナイアルに知人の病を治すのに必要だということを説明するのだった。







「まさかこんなあっさりとマンドラゴラの根が手に入るとはな……」

「フッ、感謝するがいいよ、親友殿!! このナイアルのおかげで君の計画は一気に進んだのだからね!!」

「ああ、お前って、気障なだけのアドバイスキャラじゃなかったんだな」

「うん? アドバイスキャラというのがよくわからないが、褒めていないという事はわかるよ、親友殿」



 後日、俺は頼んでいたものを持ってきたというナイアルを執務室へと招いていた。どや顔の彼の言う通り、本来レアアイテムのはずのマンドラゴラの根を掲げている。

 苦悶の表情をした人の顏の様な根っこは確かに呪術的な力がありそうだし、キモい。



「それで……これをどうするんだい、親友殿? マンドラゴラの根は生命力を与える効果もあるが毒も強い。半端な知識で手を出せば毒薬となるよ」

「ああ、大丈夫だ。その毒を神霊の泉で浄化してポーションと混ぜるんだ。そうすれば、毒の成分は反転するからな」

「ほう……だが神霊の泉は神霊や神獣たちが頻繁に訪れるほどの清らかな泉だろう? 王都の貴族や一部のポーションギルドが独占し、教会が管理しているはずだ。新しい場所もそう簡単に見つかるとは思えないけど……」



 俺の言葉にナイアルは怪訝な顔をして眉を顰める。そう……神霊の泉は彼の言う通り、貴重なものである。たいていはは誰かの管理下にあり、お金を積むか、よほどの権力が無いと使わせてはもらえないのだ。

 だが、俺にはゲームの知識がある。実は我が領地にはまだ手付かずの神霊の泉があるのだ。しかも、そこの魔物はそんなに強くはないし、どんな魔物が出てくるかも知っている。ロザリアがいれば俺くらいならば、守りながら行けるだろう。

 ご都合主義だ……と思うかもしれないが、本来は主人公が使うものだからな。ちょうどよく配置してあるのだろう。そして、それを俺が使わせてもらうのだ。




「ふふ、その顔何か当てがあるようだね、それでいついくんだい? 僕も準備をしなければいけないからね。早く教えてもらわないと困るよ」

「え? お前もくんの?」

「何を言っているんだい……言ったじゃないか、マンドラゴラの根を渡す代わりに僕もこの話に混ぜろってさ。それに……もう、キミがピンチなのに、何もできないのは嫌なんだよ……」

「ナイアル……」



 俺は彼の言葉に少し涙ぐむ。ああ、ヴァイスの事を想ってくれていたのはロザリアやカイゼルの他にもいたんだな……ナイアルの戦闘力は高くはないだろうが、ロザリアなら一人くらいは守りながらでもいけるだろうならきっと大丈夫なはず……だよな? さすがにもう一人いたらきついだろうが……



 そう思っているとノックの音と共にロザリアがやってきた。いや、ロザリアだけじゃない。彼女は……



「ヴァイス様、アイギス様がいらっしゃいましたよ。ふふ、すっかり仲良くなられたのですね」

「おお、これはアイギス様、御機嫌はいかがですか?」

「あんたを見たら不機嫌になったわ。私はあなたが嫌いよ!!」


 

 ナイアルが胡散臭い笑みを浮かべながらそう言うとアイギスは一瞥をして不機嫌そうにいった。うわぉ、ツンツンしすぎじゃないですかね。

 


「それで……アイギス様、今日は一体どんな御用で……」

「決まっているでしょう。あなたに依頼した件よ!! ちゃんと約束を守ってくれるか見に来たの!!」



 そう言って、彼女は俺を真正面から見つめる。気丈にふるまっているけれど、不安なのだろう。その手は俺の答えを聞くのを恐れているかのように震えている。

 未知の病だ。その場では調べるとか任せろと言っても、見当もつかずあきらめるやつだっていたかもしれない。

 だけど……俺は違うよ、アイギス。彼女を安心させるように微笑んで言った。



「ああ……それならご安心を……解決の目途は立ちましたよ」

「嘘……じゃないのね……本当に……」



 彼女は俺の顔をまっすぐ見つめて返事を聞くと、信じられないとばかりに涙をポロポロと流したのだった。そして、そのまま彼女は縋るように抱きついてくる

 え? もう信じるの? なんで俺の事をそんなに信頼できるの? 


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