第84話 襲撃者
「ハデス十二使徒がいるかもしれないんだ。わかっていると思うけど、気をつけろよ、アステシア」
「ええ、ありがとう。あの教会はあなたの部下がまもってくれているんでしょう? でも、そうね……心配だったら後で見に来てくれてもいいのよ」
「わかった。仕事が終わったらお邪魔するよ。その代わり今度はちゃんともてなしてくれよ。薬入りの飲み物は勘弁だからな」
「もう……あの時は悪かったと思っているわよ。あと、一応何かあった時用のためにこの薬を渡しておくわ。状態異常が治るから違和感を感じたら飲みなさい」
夕暮れの中、街に戻った俺はアステシアとそんな会話をしてから別れる。最後にアステシアがピュラーを見つめながら薬を渡してきたがなんなのだろう? それにしても……ヴァサーゴの別荘に言った時にハデス教徒の奇襲があるかと思いきや何もなかったんだよな……ハデス十二使徒はマジで通りすがりだったのか?
杞憂だったならそれでいいが、ここは敵地だ。常に警戒をしている方が良いだろう。緩みかけた気持ちを引き締める。
「ヴァイス様……私はお役にたてたでしょうか?」
「ああ、もちろんだ。おかげでこの街に巣くう犯罪組織の壊滅が進みそうだよ」
「良かったです!! ご褒美に褒めてくださると嬉しいです」
俺が心配そうにこちらを見つめているピュラーに礼を言うと彼女はなぜか頭をこちらに傾けてきた。え? 撫でていいの? なんか前世で女の子の頭を撫でるのはNGみたいにあったと思うんだが……俺がロザリアに視線で助けを求めるとなぜか、彼女も少し緊張した顔で俺の方にやって頭を傾けてきた。
「ヴァイス様……私も頑張ったので頭を撫でていただけますか?」
「いや、別にいいけどさ……二人とも嫌じゃないのか?」
二人の勢いに俺は状況がよくわからないまま二人の頭を撫でる。なんだろう、この世界の女性は頭を触られることに抵抗がないのだろうか……
そんな事を思いながら、宿についた俺達が扉を開けた時だった。
「ヴァイス様、ピュラーさん、気を付けてください!!」
「うおおおお!?」
「きゃあ!!」
いきなり飛んできた投げナイフをロザリアが槍ではじき、俺達に守るように前に出て、宿の奥を睨みつける。
そんな中、流石の俺も荒事に慣れてきたこともあり、ピュラーを庇いながらも即座に魔法の準備にかかる。
「何者です? この御方をヴァイス=ハミルトン様と知っての狼藉ですか!!」
「はっ!! 知っているに決まっているだろうが!! 俺はお前らを殺しに来たんだからなぁ!! お前が上に立つと困る人がいるんだよォォ!」
その言葉と共に真っ黒な包帯のようなもので顔を隠した三人組が短剣を構えて襲ってくる。こいつらは黒い三連星とでも名付けようか。予想以上に速い動きだ。
だけど……そんなのは今のロザリアの敵ではない。そして……俺だって強くなってるんだよなぁ
「ピュラー、俺から絶対離れるなよ!!」
「はい、ヴァイス様!!」
「影に潜みし虫よ!! わが目となり、耳となれ!!」
ピュラーがぎゅっと俺を抱きしめるのを感じながら、新しい中級魔法を放つ。俺を中心に影が広がり、まるで、霧のように散っていき、宿屋全体を覆った。
なるほど……もがくように動いているのが地下に二人、身を潜めているのが上に二人か……状況はだいたいわかった。
「ロザリア!! そいつらの他にあと二人屋根の上に潜んでいる!! 気をつけろ!!」
「はい、ヴァイス様!! 氷よ、我が敵を凍てつかせよ」
その言葉と共に、彼女は槍を振るい黒い三連星のうちの二人をあっさり切り捨てると、そのまま、天井の方に槍を突き刺して魔法を放つ。
今頃、槍の先から放たれた氷によって屋根に潜んでいた連中も氷づけになっていることだろう。
「くそが!! こんなに強いなんて聞いてねーぞ!! せめて一人くらい!!」
「させません!!」
「ロザリア、ナイス!! 影の腕よ、我に従え!!」
やけくそ気味に放たれた投げナイフがこちらへと向かってくるが、それはロザリアによって防がれる。流石はロザリアだぜ!!
てか、この軌道……俺とピュラーを狙ってやがったな……
そして、俺の影によって造られた腕がナイフを投げた襲撃者の首と手足を掴んで拘束する。
「さーて、お前らの正体を話して……は?」
捕らえた襲撃者から話を聞こうとした時だった。そいつは苦しそうに呻くと、口から血を吐きだしたのだった。槍で倒した他の二人の生死を確認していたロザリアの方へ行くと首を横に振る。
任務に失敗したから自害しやがったのか……まじで漫画やゲームに出てくる暗殺者のような事をしやがる。おそらく天井のやつらも同じ状況なのだろう。
「ヴァイス様……他の襲撃者ももダメですね……命を絶っています。とりあえず、ここは危険です。兵士たちの元へと避難しましょう。今回はヴァイス様が目的の様ですが、念のためアステシアさんも呼んできます」
そして、ピュラーを一瞬見てロザリアが俺の耳元で囁く。
「暗殺者のナイフはピュラーさんも狙っていました。彼女は無関係の可能性が高いですが、ハデス十二使徒はどんな手を使ってくるかわかりません。一応警戒はしておいてください」
「ああ、わかった。ありがとう。ロザリア」
そして、俺はいきなりの戦いに動揺しているピュラーにこえをかける。今回の暗殺者の襲撃ではピュラーの身も危険だった。それこそ、彼女が死んでも構わないという考えでもない限り無関係だろう。
となると……こいつらの依頼主はハデス教徒ではなく、ドノバンかその関係者だろうか……
「巻き込んで悪いけど、ピュラーも俺と一緒に避難してもらうぞ」
「あ……はい、もちろんです!! ヴァイス様なら守ってくださると信じてますから」
俺の言葉にピュラーは素直に頷く。信頼してもらえるのはありがたいがちょっとむず痒いな……そうして、俺達は一旦避難することになった。ちなみに地下には宿屋の店主たちが囚われており、彼らの命が無事だったのが幸いである。
もうそこいらの暗殺者では相手にならないようですね。ロザリアとヴァイス君強くなった!
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