第75話 ヴァイスとアステシアの関係

「これであらかた終わったわね……」

「きゅーきゅー」

「あー、もう少し待っててくだちゃいね。少ししたらモフモフしてあげまちゅ、美味しいごはんもありまちゅよー♪」



 俺がノックをせずに扉を開けるといつもの光景が広がっていた。アステシアは俺と目が合うと、いつものように無表情に戻り澄ました感じで言った。



「貴族としてノック位しないのはどうかと思うわよ」

「ごめんなさいでちゅーー、次から気を付けるでちゅよ」

「うう……呪ってやるぅぅぅぅぅ!!」

「きゅーきゅー♪」


 

 俺の言葉にアステシアが悔しそうに睨みつけてきて、ホワイトは嬉しそうに俺の肩に飛び乗った。最近忙しくてかまってやれなかったかな……と思いながらホワイトをなでる。

 それよりもだ。俺は彼女の周りに横たわって、規則正しい寝息を立てている冒険者達を見る。



「まさか、ずっと治療をしていたのか? すでに重症の人間は最低限の治療は終えたんだろ?」

「そうね……だけど、私達プリーストにとっての戦いは、戦場だけじゃないわ。戦いの後も戦場なのよ。治療できるのに放置何てできないでしょう?」



 無表情にアステシアは答えた。こいつは飯も食わずにずっと治療をしていたのか……? いや、飯は結構自分で運んでいるようだ。そして、モフモフと一緒にいる……まさか……



「なあ、アステシア……本音は?」

「良く知らない人間達と騒ぐのは嫌だから、治療にかこつけてさぼっていたのよ。悪い?」



 少し気まずそうに顔を逸らすアステシア。無茶苦茶人見知りなだけだった!! だけど、彼女が俺の領地のこの村を守って傷ついた冒険者達を治療してくれたことに変わりはない。別に自分の部屋でホワイトとモフモフしててもよかったんだからな。



「まあ、治療お疲れ様。魔力を使ってつかれたろ。ここじゃああれだし、良かったら俺と飯でも食べるか? どっか行こうぜ」

「そうね……」



 さすがにケガ人が多いところで飲むのは俺が落ち着かないし、人見知りの彼女も俺とホワイトならば大丈夫だろうと提案してみたのだが、眉をひそめて考え事をしている。

 あれ? 結構好感度高いと思ってたんだが先走ってた?



「ちょっと、もらうわね」

「おい、あんまり無茶をするなよ?」



 アステシアは俺が持っていた瓶に入ったワインを一気に飲み干す。彼女の白い喉がゴクリゴクリと飲み干す姿が何とも美しい。そして、酔いのためか少し顔を赤くして彼女は言った。



「ちょっと、魔力を使いすぎたみたいね……わるいけど、一つお願いをきいてくれないかしら?」

「ああ、疲れたのか? なんでもいいぞ。ポーションでも持ってこようか?」

「そう……じゃあ、酔っちゃったから私の部屋までおぶって運んでくれないかしら?」

「きゅーきゅー♪」

「は?」



 彼女は何でもないようにいつも通り無表情にそんな事を言うのだった。




 俺は背中に柔らかい感触を感じながら、歩いていた。やべえ、推しのおっぱい……略して推っぱいが当たっている。本来セクハラ行為は自重すべきだが、今回に関してはあっちからの希望で背負っているのでセーフだろう。

 そして、相手が推しというだけあってフィリスの時とは違い俺の胸もバクンバクンである。肩できゅーきゅーいっているホワイトがいなかったら正気を失いそうだったぜ。



「他の女の匂いがするわね……しかも、三人かしら……ヴァイスはモテるのね」

「いや、別にモテてるわけじゃないって……」

「ふーん……」



 背後でぼそりとそんな言葉が聞こえた気がしたので返事をするが、その後は反応は薄い。え、なにこの子怖いんですけど!!

  


「ここよ。おぶったままでいいわ」



 いや、良くねえだろ。この光景はどう見てもアステシアを酔い潰して部屋でエッチな事をしようとしているクソ野郎である。

 いや、俺が推しを襲うようなことはないんだけどな。ちょっと動転していた俺はつい扉をノックしてしまうと、アステシアがジト目でツッコむ。



「なんでいつもはノックしないのに、今はするのよ!! 誰もいるはずがないでしょう」

「いや、なんとなく……」


 

 そんなやりとりをしながらアステシアから鍵を借りてドアノブにさす。推しの部屋だーとテンションをあげて深呼吸でもしたい気持ちを抑える。それに宿屋だからな。彼女の個性は無いし、俺の部屋よりも狭いし、荷物を置きにいってすぐに出たのか、特に面白い点はなかった。

 俺がちょっと残念に思いながら彼女をベッドに寝かせ、お酒と料理をテーブルに並べた時だった。気を抜いていたタイミングで腕を引っ張られて、思わず、体制を崩すと彼女の方に頭から倒れこんでしまう。



「おい、アステシア酔っぱらって……」

「うふふ、ヴァイスの髪はホワイトと違って、ザラザラね。でも、気持ちいいわ」



 そのまま抱き枕の様に抱き着かれ、肩に押し付けられた頭を撫でられてしまう。柔らかい感触やら甘い匂いに俺が支配されていく。こいつ本気で酔ってるのかよ!!

 これはまずい……俺の推しカップリングはヴァイスXロザリアである。解釈違いぃぃぃぃぃ!!! でもアステシアは俺の推しなんだよな。推しが俺に甘えてくれてんだよ。

 マキマさん 助けて 俺この娘 好きになっちまう……今ならデンジの気持ちがわかるぜ。



「私ね……あなたに助けてもらえて本当に良かったと思っているのよ……多分助けてくれたのがあなたじゃなかったら、私は今みたいに自由に自分の意志で生きていたりなんかしなかったでしょうね……」



 アステシアは俺の頭を撫でながらそんな事を言う。彼女の表情は見えないが今もまだ無表情なのだろうか? だけど、その声色には感謝の気持ちがこめられているのがわかる。



「さっきなんでも聞いてくれるって言ったわね。だったら約束しなさい。今からする事を絶対馬鹿にしないって」

「え?」



 そう言うと彼女は俺の顔を自分の肩から引き剝がして、真正面から見つめてくる。そして、少しぎこちないがニコッと笑った。

 そう、ゲームでも見れなかった笑顔だ。



「アステシア……」

「その……笑顔の練習をしていたのよ……あなたに最初に見て欲しくて……変じゃないかしら。笑ったりしたら絶対許さないわよ」



 冗談っぽく……そして、恥ずかしそうに笑う彼女に俺は詰まりながらも返事を返す。




「……変じゃないよ。可愛いと思う」

「そう……ありがとうって、なんであなたが泣きそうな顔をしているのよ。私の笑顔を見たんだからもっと幸せそうな顔をしなさい!!」



 だって、仕方ないだろ。ホワイトにはみせていたかもしれないけどさ、人に対して笑うのを見ることが出来たのだ。俺は二人目の推しを救うことが出来たっいうことが実感できたのだ。




「うふふ、なんか幸せな気分ね……しばらく、こうしていていいかしら? 人や動物の温もりってこんなにも暖かいのね」



 彼女は俺とホワイトを抱きしめながら本当に嬉しそうに言うのだった。そして、彼女は満足そうな笑顔を浮かべ眠りについた。そして、俺はそんな彼女を見届けて自分の部屋に帰る。

 ちなみにエッチなことはしていない、いやマジで!!



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アステシアさんの作戦名は『ガンガン行こうぜ』ですね。


次の更新は親友殿の話です。お楽しみに

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