第76話 ハデス十二使徒

ここはとある街外れの古ぼけた教会である。そこに複数の人影があった。一人は二十歳くらいの先が杭のようにとがった杖を持った女性である。美しい顔立ちをしているが、どこか狂気に満ちた目をしている。



「それで……どうするのよ、ミノス。ヴァサーゴとやらをけしかけて、ハミルトン領を支配してゼウスの使徒が現れないようにする作戦だったんでしょう? 見事に失敗しているじゃない。こんなんじゃあ、信仰心が足りなくて、ハデス様の復活ができないわよ」

「そうですね、ヴァイオレット……これは私も予想外でした……まさか、魔剣を渡し、金と兵力を与えても負けるとは……」



 ヴァイオレットという女性の言葉にミノスと呼ばれた男は悔し気に呻く。それも無理はないだろう。彼は長年、傀儡にするためにヴァサーゴの機嫌をとって、散々利用したら切り捨てる予定だったのだ。それが、計画半ばで失敗に終わり、ハデス教徒の信仰が増えるどころか、ヴァサーゴの領地では邪教狩りがら始まっている。

 そんな彼をあざ笑うような声がヴァイオレットの下から響く。



「全くだな……ミノス、お得意の策略とやらはどうしたよ。しかも、保険の魔物の軍団までやられちまったんだろ? これは減点だぜ。十二使徒第二位の名が泣くんじゃねえか? さっさと俺に譲れよ?」

「アムブロシア……椅子が勝手にしゃべらないの」

「あひぃぃ、熱いぃぃぃ。ああ……俺は生きているぅぅぅぅ!!」



 ヴァイオレットが溜息をつきながら、飲んでいたカップに入った熱いコーヒーを自らの椅子となっているアムブロシアと呼ばれた不気味なくらい肌のきれいな青年の頭にかけると、彼は嬉しそうに悲鳴を上げた。

 常人ならば大やけどであるが『不死身』の加護を持つ彼からすれば生きているという実感を感じるためのスパイスにすぎない。現に火傷は一瞬で癒えて再び不気味なほどきれいな肌に再生する。



「あれは本当に予想外でしたよ……ハミルトン領にあれだけ優秀な人材がいるとは……」



 すでにその光景が日常と化しているミノスは何事もなかったかのように会話を続ける。



「まったくね、戦争の直後に魔物達を扇動しても撃退するなんて一体何者なのよ。それに魔術バカの姉が協力をするなんて……まさかそこの領主に魔法の才能があるのかしら」

「あひぃぃぃぃぃ!!」



 ヴァイオレットはとある女性の事を思い出して、己の中の破壊衝動が抑えきれなくなり、八つ当たりとばかりには手に持っていた杖をアムブロシアの手に突き立てる。凄まじい痛みに歓喜の声が響く。



「そうですね……ヴァイス=ハミルトンとやらは思ったよりもはるかに厄介な領主な様です。もしかしたら、彼こそがゼウスの加護を得しものだという事でしょう。本来であれば十二使徒全員に集まって会議をしたかったのですが皆忙しいようですね……特にパンドラはヴァサーゴの監視が終わったいうのに帰ってきませんし……」

「そう……みんな忙しいのよ……別にあなたが人望がないわけじゃないわ」



 空席の目立つ椅子を見つめながらミノスは溜息を吐くとなぜか、ヴァイオレットの目が泳ぎ、必死にフォローするが、アムブロシアの言葉ですべてが無駄となる。



「そうだぜ。この前の飲み会もミノスがいると辛気臭いし、なんか意味深な事を言って気分が下がるからって呼ばなかったわけじゃないからな!! ああ、でもエミレーリオのやつのミノスの物真似はわらったなぁ。あいつは死んだらしいからもうみれないけどよ。いたぁぁぁぁぁ」

「この馬鹿!! 少しは空気を読みなさい」



 慌ててヴァイオレットがアムブロシアを黙らせるが、ミノスが一瞬寂しそうな顔をしたのは気のせいではないだろう。



「……まあ、私としては、予言通りハデス様が復活すればいいのですよ。しかし……予言が歪み始めています。それが問題なのです。その中心にひょっとしたらヴァイスという人間がいるかもしれません。私の予言ではヴァイスとやらはとっくに全てを諦めて傀儡となった上に、十二使徒同士の戦いはエミレーリオが勝つはずだったのですが……」

「それならよぉぉぉぉ、理由はわかっているぜぇぇぇぇ!!」



 突然の乱入者にヴァイオレットが魔法を唱え、アムブロシアが彼女とミノスを守るようにさっと前に立つ。すさまじい殺気が、乱入者を襲うが、その乱入者は気にした様子もなく口を開いた。



「おいおい、俺様がよぉぉぉぉ、生きてたってのにとんだ歓迎だなぁ?」

「エミレーリオ……まさか生きていたのですか?」

「あ、お前、さては俺の力を使って生き延びたな!! はは、アムブロシア様の加護を使わせてもらってありがとうございますっていえよ。あひぃ!!」

「それで……今まで何をやっていたの。これでも心配をしたのよ。無事なら連絡をしなさいよね!!」



 くだらない事を言うアムブロシアにお仕置きをしながら問うヴァイオレットの言葉に、エミレーリオが満面の笑みを浮かべて答えた。



「わるかったなぁぁぁぁ!! だが、朗報だぜぇぇぇl!! 俺はよぉォォ、十二使徒のやつらに復讐をするためにを追っていたんだけどよぉぉぉ!!、その結果、ミノスの予言を覆した原因となるゼウス加護を得たやつらを見つけたぜぇぇぇ。そいつの正体はヴァイス=ハミルトンじゃねえ!! 魔法学園にいるクリスって金髪のガキと、フィリス=ハミルトン。こいつらがゼウスの加護を得た人間だぁぁぁぁぁ!! クリスってガキが、十二使徒に助言を与え、フィリスがヴァイスに手紙を送ったせいでお前の予言がゆがめられたんだよぉぉぉぉ!!」

「ふむ……ゼウス神の加護を得た人間ならば私の予言を覆すのもおかしくはありませんね。エミレーリオ。詳しく話してもらえますか?」

「ふーん、魔術学園の生徒なら姉と関係があってもおかしくないわね」

「ああ、かまわないぜぇぇ、その代わりに攻めるときは俺もいれろ。あいつらにはたっぷりと復讐をしたいからなぁぁぁ」

「はは、何を負けたやつがいきってるんだよ。先陣はこの俺様に決まってんだろ? 『不死身』の加護の恐ろしさをみせてやるよ。それに戦場でなら痛みも感じ放題だしな!!」


 三者三様の反応をする十二使徒たちを見て、彼は……触手のような姿の植物の力によって、幻惑を見せ続けていたナイアルはニヤリと笑った。

 感謝してくれよ、親友殿!! 君からはちゃんと注意は逸らしたよ。それにしてもこのしゃべり方は恥ずかしいなぁ……そう思いながらナイアルは幻覚をみせて狂わした本当のエミレーリオから得た情報を元にハデス十二使徒たちを、自分の……自分の信じる神の都合の良いように誘導するための会話をする。

 そうして、偽りにみちた会議がはじまるのだった。



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ヴァイス=ハミルトン


武力 55

魔力 80

技術 40


スキル


闇魔術LV3

剣術LV2

神霊の力LV1


職業:領主

通り名:武闘派領主

民衆の忠誠度

55→70(英雄譚が広まり、これまでの努力が正当に評価されることになったことにより忠誠度がアップ)


ユニークスキル


異界の来訪者


 異なる世界の存在でありながらその世界の住人に認められたスキル。この世界の人間に認められたことによって、この世界で活動する際のバットステータスがなくなり、柔軟にこの世界の知識を吸収することができる。


二つの心


 一つの体に二つの心持っている。魔法を使用する際の精神力が二人分使用可能になる。なお、もう一つの心は完全に眠っている。



(推しへの盲信)リープ オブ フェース

 

 主人公がヴァイスならばできるという妄信によって本来は不可能な事が可能になるスキル。神による気まぐれのスキルであり、ヴァイスはこのスキルの存在を知らないし、ステータスを見ても彼には見えない。


神霊に選ばれし者

 

 強い感情を持って神霊と心を通わせたものが手に入れるスキル。対神特攻及びステータスの向上率がアップ。




異神十二使徒の加護 


 ゼウスでもハデスでもない異界の神に認められた十二人の強者にのみ与えられるスキル。異神の加護にステータスアップ及び、自分より下の存在に対して命令を下すことが出来る。

 ヴァイスは異界十二使徒の第二位であり、第三位から第十二位は空位。世界が異神の存在を認識したことによってスキルが目覚めた。


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なんかハデス十二使徒が可哀想になってきたよ……


ヴァイス君の領地周りも色々と解決してきたしヒロインも出そろった!!

ということでこれにて一区切りです。おもしろいなって思ったら星やレビュー、感想などいただけたら嬉しいです。。



あと、大変申し訳ないのですが、ちょっとネタにつまっているため毎日更新ができなくなります。

これからもよろしくお願いします


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