第122話 ハデス十二使徒
ここはとある洞窟の深部である。本来住んでいる魔物たちはすでに駆逐されており、ローブを身に着けて顔を隠した数人の男女が集まっていた。
「パンドラは……欠席でしょうか? 敬遠なるハデス様の信者である彼女にしては珍しいですね……」
「あの神様馬鹿のことだから、どこかでまた信者をふやすのに夢中になっているんじゃないのかしら? それで、国の重鎮でもたぶらかしているんじゃないの?」
ミノスの言葉にバイオレットが答える。パンドラはその言動と優れた容姿から他人の信用を得るのが得意だ。かつては小国にハデス教徒を根付かせて宗教戦争をおこしたこともあるくらいである。
「というか、あいかわらず出席者は少ないわね……あなたの人望の無さってすごいわ」
「今回はかなり重要な会議なんですけどねぇ……」
バイオレットに馬鹿にされたミノスは空席の目立つ円卓の囲うように置かれている椅子を見てため息をつく。そもそもハデス十二使徒はほとんどが自己中である。こうして参加しているバイオレットはまだましな部類なのだ。
「いいからよー、はじめてくれねーかなぁぁぁぁ!! 俺も暇じゃねえからよぉぉぉぉぉ!」
「そうですね……エミレーリオのいう通りです。半分はそろってますし始めるとしましょうか」
今回参加しているのは招集したミノスにバイオレットと、外で見張りをしているアムプロシア、そして、さきほど騒いでいるエミレーリオを除けば二人である。
いまいちな集まりに内心ため息をつくながらミノスは議題を話す。
「王都でのハデス教の布教ですが、ほとんどが失敗に終わっています。ハデス教の拠点はつぶされ、内通者の貴族は暗殺されてしまいました……まるで、私たちの行動がつつぬけであるかのようにね」
その言葉にさすがに場の人間に緊張が走る。だって、今ミノスのいったことは……
「それは……私たちの中に内通者がいるっていることかしら?」
「いえ、私たちはろくに情報共有もできてませんし、それはないでしょう。だって、あなたたちの中で私やパンドラが声をかけていた貴族の名前を知っていますか?」
「「「「……」」」」
ミノスの言葉に誰も返事をするものはいない。ろくに会議にも出ないので当たり前である。
「おそらくゼウス十二使徒のひとりに未来予知でもできる人間がいるのかもしれませんね……そこで手を変えようと思います。まずは王都には陽動として数人を残しつつ、地方の貴族の勧誘に力を入れましょう」
「なるほど……そうすればゼウス十二使徒も手がまわらなくなるってことかしら?」
「ええ、そうです。あとどなたでもよいのですが、一人始末してもらいたい人間がいます」
ミノスが一言ためて、参加している人間たちを見回す。ハデス教徒は基本的に好戦的な人間が多い。皆興味深そうにしているのがわかった。
「その男の名前はクレス……この男は私の声をかけていた貴族を殺した人間なのです。そして、十二使徒との付き合いも確認されています。彼が王都から出てハミルトン領にいくという情報を得ました。どなたか、始末をお願いできますか?」
「ハミルトン領だって!!」
ミノスの言葉にそれまでだまっていた青年が口を開く。
「確かあそこはブラッディ家の近くだったな!! 偽りの英雄であるラインハルトとはぜひとも剣を交えてみたかったのだ!! 私が行こう!! 正義の英雄フレイザードがなぁ!!」
フレイザードという青年が血気盛んに叫び声をあげると、ミノスは満足そうに頷いた。
「ええ、お願いします。あなたは頭はちょっとあれですが実力は確かですからね。ブラッディ領をついでに滅ぼしても構いません。それと私の部下を何人かつれていきましょう」
そうして、どんどん話が進んでいく。
「あれ……これはちょっと予想外の展開だなぁ……ヴァイス大丈夫かなぁ……」
そんななか、エミレーリオに化けているナイアルは冷や汗を流してぼそりとつぶやくのだった。
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