第100話 主人公との遭遇

 お店でしゃべっていては邪魔になるので外の路地で俺たちは向かいあっていた。クレスがなぜかアイギスを凝視しており、彼女は怪訝な顔で首をかしげる。



「ごめんなさい、あなたと会ったことあったかしら?」

「あ、ああ……申し訳ありません。アイギス様とは遠目に見たことがあって……まさかこんなところにいるとは思わず……」

「ふぅん……」



 少し動揺しながらも答えるクレスにアイギスが怪訝な表情で見つめる。そんな中俺の頭はパニック状態になっていた。

 クレスは確か地方貴族だ。実は俺が知らないでも接点があったという可能性もある……のか?



 なんてな……違うだろ? 俺よ……あいつも俺と同じ転生者の可能性の方が高い。だって……課金ショップの存在を知っているんだぜ。

 しかも、ゲーム中盤で解禁されるこの場所をだ。



「ヴァイス様……何やら目の前の少年を警戒しているようですが……ハデス教徒でしょうか?」



 そう思っていると、ロザリアが耳元でささやく。さすがはロザリアというべきだろう。俺の動揺に気づいてくれたようだ。そして、俺は会話をしている二人を観察しながら返事をする。



「いや、ハデス教徒とか違うが……同じくらい厄介なやつの可能性がある」

「わかりました。いつでも戦えるようにしておきますね」



 自然な動作でロザリアが武器に手をおくのを確認して、俺は二人に話しかける。仮に主人公が転生者ならば序盤の敵である俺に対して敵意をみせるはずだ。アイギスの顔を見て動揺しているくらいだし、あまりポーカーフェイスは得意じゃないみたいだからな。

 


「おいおい、少年。王都じゃそんなナンパが流行っているのか? 確かにアイギスは可愛いけどさ。そういう時は俺を通してくれなきゃ困るぞ」

「いや、そうじゃなくて……」

「そうか、ナンパじゃないなら……アイギスとどこであったか教えてくれるか?」

「ヴァイス……?」



 話しかけながらアイギスにウインクをする。それを見た彼女ははっとした顔でうなづく。これはアイギスに能力を使って嘘かどうかを判断してもらう時の合図である。

 ははは、これでお前が嘘をつけばアイギスの警戒心は増すだろう。そして、質問を誘導すれば転生者かどうかわかるぞ!! 

 そうして、内心どや顔しているとこいつはとんでもないことを言いやがったのだ。



「君は……まさかアイギス様の婚約者なのか?」

「はぁぁぁ!」

「え……は……え……」



 クレスの言葉に俺は動揺して、思わず間の抜けた声をあげてしまう。そして、アイギスは先ほどまでの険しい顔とは裏腹に、顔を真っ赤にして金魚のように口をパクパクしてこちらを見つめている。

 いや、なんか遠回しにラインハルトさんからそういう話があった。だけど、今の俺はそんなことを考えている余裕はなくて……俺は何と答えようか困惑する。

 


「あなたが何者かはしりませんが、いきなり失礼ではないでしょうか? まずは自己紹介をすべきでは……?」

「あ、ああ……ごめん。僕の名前はクレス=ノーチス。魔法学園の生徒です。その……人間嫌いと有名なアイギス様が、親し気に他の方と話しているのに驚いてしまい……」

「いつの噂よ!! そりゃあ、私だってそういう時もあったけど……ヴァイスのおかげでそういうのは卒業したんだから!!」



 アイギスが昔を思い出して、少し恥ずかしそうにもごもごといった。まあ、初手で「私はあなたが嫌いよ」とか言ってたしな……

 彼女にとっては黒歴史になっているのだろう。いや、黒歴史になってくれたのだ。その事実を改めて実感して、嬉しく思いながらも少し落ち着いてきたので質問をする。



「なるほど……そういうことだったのか。俺はヴァイス=ハミルトン。アイギスの友人だよ。ところで、俺は王都に来たばかりであまり詳しくないんだ。スターバックスってどこにあるか知らないか?」



 自己紹介をしながら俺は爆弾を放り込む。こちらの正体もばれるかもしれないが、相手が転生者だとわかればやりようはある。

 幸いこちらは三人であちらは一人だ。それに彼と少し話て様子を見たが、アイギスへの敵意はなかったしな。何をしようとしているか探ってもいいだろう。



「スターバックス……なんだい。それは?」



 怪訝な顔をするクレスの言葉を聞きながらアイギスを見ると……彼女は首を横に振った。え? 待って、こいつスタバ知らないの? じゃあ、転生者じゃない……? それともくっそ田舎で育った野生児か?



「でも、ヴァイス……ヴァイスって確か……」



 何かを思い出そうとするクレスだったが、その言葉はさらなる乱入者によって、妨害される。



「クレスいたーー!! もう、荷物持ちをやってくれるって約束したでしょ!! お兄ちゃんがせっかく訪ねてきてくれるから、美味しいご飯を作るっていったで……しょ?」



 駆け足でやってきたのは、クレスと同じ魔法学園のローブに身を包んだフィリスだった。ちなみに彼女はこちらのしゃべり方が素なのだろうな。

 そんな彼女は俺とロザリアに気づくと……一瞬固まって、澄まし顔で仕切りなおすかのように礼儀正しくお辞儀をする。



「お兄様、アイギス様、ロザリア、王都へようこそ!! 王都はすごい人でしょう? 楽しんでいますか?」

「え? 待って、フィリスそんなキャラだっけ? いたい!!」



 余計なことを言ったクレスがフィリスに足を踏まれて悲鳴を上げる。そうして、俺はなんかイレギュラー的に主人公と出会ってしまった……





-----------------


ついに100話になりました。


これからもよろしくお願いします

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る