第29話 ヴァイスとインクレイ領
アンジェラからの話を聞いた俺は、すぐに準備をしてインクレイ領の教会へと向かっていた。アステシアの状況が読めないからな、彼女は今も呪いに苦しめられているのだ。一刻を争う状態である。
「なあ、ロザリア、ちゃんと冒険者に見えるかな? 貴族としての溢れ出す気品あふれ出てないか?」
「大丈夫です、とてもお似合いですよ。歴戦の冒険者って感じです。流石、ヴァイス様、どんな服装でもお似合いです!!」
俺が心配そうにロザリアに話しかけると、彼女はいつものように笑顔で返してくれる。領主として訪れるわけにいかないため、俺とロザリアは変装をしているのだ。ロザリアが旅のプリーストで、俺がその護衛の冒険者という設定で、アステシアのいる教会を訪れるのである。身分に関してはアンジェラの推薦状があるので問題はないらしい。
俺がほっと一安心していると、隣に座っている男が茶々をいれてくる。
「そうそう、親友殿は目つきが悪いからね。ちょっとやさぐれた冒険者って感じに見えるよ」
「いや、なんでお前が当然の様にいるんだろうな……」
「何を言っているんだい? 親友殿が心配でついてきたにきまっているじゃないか」
俺の言葉にナイアルは胡散臭い笑みを浮かべる。こいつはたまたま俺達が出かけるときに遊びに来ていて、強引についてくることになったのだ。
本当は断っても良かったんだが……
「それに……旅のプリーストと冒険者だけよりも、貴族である僕の護衛も兼ねているといった方が通りはいいだろう? 現に検問もあっさりと通れたじゃないか。僕はヴァイスと違って周りの貴族達とも仲良くしているからねぇ。ねえ、マリアンヌ」
「それに関しては感謝しているよ……」
ナイアルの言葉に反応して、触手みたいなキモイ草が動く。悔しいがこいつの言う通りなのである。俺達は今、こいつの家の馬車に乗っているのだ。ナイアルの家はインクレイ領にポーションを輸出していることもあり、長い検問の列も無視して裏口からさっさ入れたのはありがたい。でもさ……
「この植物たちはなんなんだよ!! ホワイトもびっくりしているだろ」
「きゅーきゅーー!!」
そう、馬車の中は変な触手のような植物に囲まれているのだ。しかも、こいつらうねうねと動いてマジでキモいんだけど!!
ホワイトもすっかりびびっているからか、俺の服の中に隠れて鳴いている。
「ふふ、この子達が解毒剤や、ポーションの原料になるんだよ。現に僕の馬車酔いだって彼女達の香りが中和してくれているのさ。それに、君たちのいく教会のある街にも納入先があるんだ。しばらく、僕も街に滞在しているからやりたいことが終わったら教えてくれよ。一緒に帰ろうじゃないか」
「ありがたいけどさ……ナイアルはなんでそんなに俺の事を助けてくれるんだ? 神霊の泉の時だってそうだ。あそこは魔物が出る場所だ。死ぬ可能性だったあったし、今回だって事情を聞かないでこうして助けてくれる。なんでそこまで……?」
「なんでか……」
俺の言葉に彼は少し複雑そうな顔をして、ふっと笑った。
「それは親友殿だからだよ。僕は君が苦しんでいる時に何もできなかった。だから、君の力になれる今、全力で力になるって決めているんだよ。それに……君の領主としての作る未来を見たいんだ。それじゃあ、ダメかな?」
「いや……ありがとう……ナイアルも何かあったら言ってくれ。俺にできることならなんでもするぞ」
「ああ、楽しみにしているよ。いつかその時は絶対に来るだろうからね」
俺の言葉に胡散臭い笑みを浮かべるナイアル。こいつとヴァイスは本当に親友なのだろう。彼の優しさに俺は胸が熱くなっていた。
「ヴァイス様……そろそろ教会につきますよ。準備をしましょう」
「ああ、そうだな……じゃあ、ナイアル、ホワイトを頼むぞ」
「きゅー……」
「ふふふ、たーっぷり可愛がってあげるよぉ」
寂しそうにしているホワイトを撫でる。神獣を連れて行くと目立ちすぎるからな。まずはアステシアの現状を把握するのが第一である。
「では……これからは偽名でいきますね。行きますよ、ロイス。うふふ、なんだから私と名前が似ていて家族みたいですね」
俺とナイアルの会話が一区切りつくのを待っていたのだろう。ロザリアが声をかけてくる。ちなみに偽名を考えたのはロザリアである。
「ああ、護衛はまかせてくれよ、お姉ちゃん」
「ヴァイス様が弟……アリですね」
「いや、馬車がずっと止まっていると注目されちゃうから、二人とも早く出た方がいいんじゃないかな?」
なにやらにやけるロザリアに、ちょっと怖いものをかんじながら俺達は馬車を下りるのだった。
馬車をおりてしばらく歩くと目当ての教会が見えてきた。それと同時に子供の泣き声が聞こえる。そこには5歳くらいの少年が涙を目にためながらしゃがんでいた。転んで足でもすりむいてしまったのだろう。
ポーションでも渡してやろうとかと近寄る俺達よりも先に一人の少女が駆け寄る。サラサラの銀色の髪の無表情な少女だ。まるで人形のように透き通った白い肌の美少女である。
「キース……大丈夫? ゼウス神の加護よ、そのものの傷をいやしたまえ」
少女がキースとよばれた少年の傷口に手をかざすとどこか暖かい光とともに擦り傷が瞬時に癒える。子供が少女に感謝を言って無事解決……とはならなかった。
「何をするんだよ!! 助けてくれなんていってないだろ!!」
少年はなぜか少女の手を振り払うようにはたいてそのまま教会へと走って行ってしまった。残され少女はその後姿を無表情に見つめ……そして、無表情のまま、後を追っていった。
「なあ、ロザリア……正直に言ってくれ。あの銀髪の少女の事をどう思う?」
「それは……」
彼女は自分でもわからないというように眉をひそめて……そして、申し訳なさそうにこう言った。
「なぜでしょうか? さきほどの行い自体は素晴らしいはずなのに私は彼女に嫌悪感を感じました」
「ああ、そうか……」
俺は彼女の言葉に大きくため息をついた。滅多な事で人を嫌わないロザリアですらこれとはな……どうやら彼女の呪いは思ったよりもはるかに強力らしい。
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呪いとは一体どんな効果なんでしょうかね……
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