第53話 魔剣の力
敵の兵士たちがこちらを取り囲んでいるのを俺とロザリア、アステシア、ホワイトで、土壁越しに覗いていた。
カイゼルは今度こそ手柄を立てると言って前線にいる。
「いやー、結構な数だな……相手が総力戦ってのはマジみたいだ。何か奥の手でもあるのか? あっちが600人、こっちは300人くらいか……また、倍かよ……」
「はい、そうみたいですね……しかし、何を考えているのでしょうか? 確かにすごい数です……でも、今回はこちらが拠点での防衛ですからね。こちらは相手に比べて兵士の練度が高いですし、持ちこたえるのは難しくないかと思います」
ロザリアの言う通り数では劣っているものの、一概にこちらが不利とはいえない。こちらは土魔法を使える魔法使いによってつくられた土壁や、バリスタに巨大な投石機など対抗手段を様々に用意してあるのだ。
先の敵の奇襲を俺達がしのいでいる間に後方支援組が作成してくれていだ。大人数が攻め入るルートは大体限られるからな。見晴らしもよく奇襲の心配も少ないところで臨時の砦を作っていたのである。
「でもさ……あっちだって斥候がいるんだよな。流石に兵器の存在はばれているだろうし、何か策があるのか……?」
「相手が何にも考えていない馬鹿って言う可能性はないかしら? あら、何か動きがあったわよ」
俺達が話し合っていると立派な鎧をつけた人影が一歩前に出てきた。風魔法を使っているのだろう。戦場全体に声が届く。
『我が名はヴァサーゴ=インクレイ!! これは最後の警告である。国に禁じられた奴隷売買をしたヴァイス=ハミルトンよ。今降伏するならば部下の命だけは助けてやろう!! さもなくば貴様は我が力の恐ろしさを知るだろう。十秒だけ待つ。良い返事を期待している』
あくまで正義は自分にあると言いたいらしい。それとも兵士たちの揺さぶりが目的だろうか? 俺は周りを見回すが、誰も動揺もせずに、冷めた目をしてヴァサーゴを見つめていることに安心と共に嬉しく思う。
「ねえ、ヴァイス……これって今攻撃しちゃだめなのかしら。バリスタなら届くんじゃない?」
「無茶苦茶名案なんだけど、貴族の作法があるんだよ」
「そうですよ、アステシアさん。気持ちはわかりますが、相手は貴族です。最低限の礼儀は守らないといけません」
元も子もない事を言うアステシアを俺とロザリアがたしなめていた時だった。十秒立っていないのに、相手が再び魔法で声を運んでくる。
『ふん、どうやら、臆病領主は僕の前に顔を出す事すらできないらしいな。兵士達よ、無能な領主の元に生まれた自分たちを恨むんだな」
はは、やっすい挑発だぜ。誰が行くかよ。ばーかばーかと思っていると隣からすさまじい殺気を感じた。
「ひっ……」
「そうですよ、アステシアさん。気持ちはわかりますが、ただ殺すなんて生ぬるいです。生まれてきたことを後悔させてやりましょう。バリスタの準備を!!」
「ちょっと、ロザリア、さっきと言ってることが違うんだけど!! 私もそこまでしろとは言ってないわよ……」
「きゅー!?」
殺意の波動に目覚めたロザリアに俺とホワイトが恐怖のあまり身をすくめ、先ほどとは逆にアステシアがロザリアをたしなめる。
てか、それよりも、ヴァサーゴのやつが何かを振りかぶっているんだが……どこか禍々しい光を帯びている棒状のものを見て無性に嫌な予感がした。
あれはまさか……
「伝令こっちにこい!! 俺の声を戦場に響かせろ!!」
「はい!! わかりました、風の精霊よ、汝の力を貸し与えたまえ」
「いきなり、どうし……」
俺が視線をおくるとロザリアが察したのか、アステシアの口を塞ぐ。そして控えていた伝令の魔法によって俺の言葉が戦場に響き渡った。
『あの魔剣の射線上から離れろ!! 早く!!』
俺の言葉で何人が避難できただろうか? ヴァサーゴの剣から禍々しい光を放ち、振りかぶると、一直線に黒と赤が入り混じった光線が放たれた。
そして、その光線の直線上にいた人間を焼き払い、轟音と共に土壁が破壊される。
『ふはははは、どうだ。これがヴァサーゴ=インクレイの力だ。恐れおののくがいい』
耳障りな笑い声が戦場に響く。なんでだよ、あれはお前が持っていいようなものじゃないし、ゲームで出るのももっと先のはずだ。この時期はハデス教徒が管理しているはずなのに……
「ヴァイス様、今のは……」
「ああ、あれは『魔剣ダーインスレイヴ』ブラッディ家の家宝だよ……」
そして、中庭でラインハルトさんがハデス教徒に渡していたものだ。回収はできなかったと言っていたがこんなとこで見るなんて……
だけど、ゲームであの魔剣を使用していたアイギスが負けたように弱点だってある。このまま負けてたまるかよ!!
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魔剣はゲームではアイギスのみが使用するチートアイテムだったりします。
ゲームでもありますよね、敵専用武器……俺も何回も使いたいと思ったことか……
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