第52話 初戦を終えて
戦いから一晩たって、俺達は拠点にて体を休めていた。初戦を勝ったことにより、わが軍の士気はかなり高いし、相手の数も相当減らした。その甲斐あってか今は敵もおとなしくしているようだ。
「ヴァイス様……以上が相手の情報になります。捕らえた相手の指揮官や、兵士の複数人から得た情報なのでほぼ間違いは無いかと思います」
「なるほど……1000人の中の内訳は、ヴァサーゴの直属の兵士は700人で後は様々な領の合同部隊で烏合の衆であり、士気は相当低いか……斥候が脱走兵を何人もみかけたらしいし、本当っぽいな……」
「はい、現に先ほどの戦いも、前線で戦ったのはほとんどがヴァサーゴの兵士と彼ががどこからか引き連れてきた人間……ハデス教徒がほとんどででした。かなりの数の減らしたので相手の士気はかなり低いと思います」
「数だけでも揃えようとしたんでしょうね……その結果がこれとは無様ね」
「まあ、倍の数だからな……便乗した奴らも俺達をさっさと倒しておこぼれを預かろうって作戦だったんだろうよ」
ロザリアの報告を、俺とアステシアは少し呆れながら聞く。ちなみにカイゼルは、次こそは打ち取って見せますと意気込んで素振りをしにいってしまった。休まなくて大丈夫なんだろうか?
「それにしても……兵士はともかく指揮官クラスまでよくもまあ、ペラペラと喋ったな」
「それはまあ、ちょっと体に直接聞いたので……」
「まさか拷問を……」
「えへへ、冒険者時代に取った杵柄ですね」
「私がいればいくらでも治せるんですもの。ロザリアが壊して、私が治す。私とロザリアが組めばどんなやつも吐くと思うわ」
「ひええ!!」
ロザリアが少し恥ずかしそうに、アステシアが得意げに答えた。いやいや、怖いな、この拷問娘たち……俺には好意的だけど敵に回した絶対やばいやつじゃん……いや、アステシアはマジでやばいやつだったわ……ゲームでの行動を思い出して、怒らせないようにしようと誓う。
「もう、アステシアは大げさですよ。それより、これからどうしますか? 兵力差は埋まりましたが……」
「ああ、こっちから攻めるのにはまだきついな……かといって援軍も来ないから籠城戦ってわけにはいかないんだよなぁ……こうなりゃ少数で、食糧庫でも燃やして、あっちを煽るか。幸い地の利はこっちにあるしな。そういうのは影魔法の使い手である俺の得意分野だ」
「ヴァイス様……お言葉ですがそれはあなたに危険が……」
「あら、ヴァイスなら大丈夫だと思うわ。今日だって、相手の将軍を倒したのよ」
「それは……そうですね……ヴァイス様ももう立派に戦っていますもんね……」
アステシアの言葉に複雑な顔をするロザリア。俺がどんな声をかけようかと悩んでいると、アステシアの言葉が再び彼女に笑顔を戻した。
「それに、私はロザリアがずっとそばにいるのよ。失敗なんてしないでしょう」
「……はい、そうですね!! ヴァイス様がんばりましょう」
「ああ、そうだな、一緒に頑張ろう。そういえばさ、ロザリアはよく不意打ちとはいえ敵の将軍を倒せたな。あいつも結構強いと思うんだけど……」
「それは……ヴァイス様のために鍛えていますから」
可愛らしく力こぶをつくるようなしぐさをするロザリア。可愛いな……たしかにダークネスやエミレーリオと会ってから特訓をしているんだよな。
ちょっと気になった俺は彼女の力こぶに触れる。たしかに鍛えられているからか、ちょっと固い。
-----------------------------------------------------------------------------------------
ロザリア
武力 60→65
魔力 80→81
知力 62→65
スキル
氷魔法LV3
上級槍術LV3→LV4
ユニークスキル
主への献身LV3→4
主人のために戦うときは、ステータスが40%アップ
主人を罵倒された場合、殺意と共に冷酷さが増す。
強さへの渇望
自分の弱さを悔いて、さらに強さを求めるものに現れる。戦闘時の経験値及び、ステータスが上がりやすくなる。すべては己の主の槍となるために。
職業:メイド
通り名:殺戮の冷姫
主への忠誠度
100
好感度
100
ヴァイスのメイド。かつて命を救ってもらったことに恩を感じて、彼の事を自分よりも大切に想い、彼の幸せを願っている。最近どこか頼りなかった彼が、かっこよくなって自分の中に生まれている感情に困惑している。
------------------------------------------------------------------------------------------
え? なんかステータスもわずかだが上がっているし、スキルレベルも上がっているんだけど……ヴァイス同様にロザリアもまたゲームの序盤で死んでいる。彼女の才能は誰にもわからないのだ。頼もしいな……
などと思っていると視線を感じた。俺に力こぶを触られてなぜか顔を真っ赤にしているロザリアとじとーとした目でこちらをアステシアが見つめている。
「ヴァイス様……そんな風に触りながら黙らないでください。恥ずかしいです……」
「ふーん、あんたそういうのが好きなのね……まあ、貴族って変わった趣味が多いらしいし……その……私は腕力ないから、ちゃんとできないかもしれないけど、私の力こぶも触る?」
「ロザリア、ごめん!! 深い意味はなかったんだよ。後、アステシア、そんな趣味はないっての!! それはそれとして触っていいの? まじで?」
アステシアの提案に俺は思わず触りそうになるが、ヴァイスがこういう変なことをするのは解釈違いだったので自重した。
推しが力こぶフェチとか思われなくないからな。
それにしても、このままいけば勝てそうだな……
今日の戦い圧勝だった。まだまだゲームで使われた作戦もあるし、相手にはいない強力な魔法を使える俺や、ロザリアもいる。このまま、膠着状態になれば、少数精鋭で相手の数を削っていきしびれを切らせたところを打ち取ればいいだろう。そう思った時だった。
テントの扉が乱暴に開けられて、兵士が入ってきた。
「大変です、ヴァイス様!! 敵兵が総力を集めてこちらに進軍してくるそうです」
「は? まじかよ……こっちの拠点の整備だって済んだんだぞ?」
一体何を考えているんだ? 初手ならともかく、この兵士の数も士気も低い状況で一気に攻め込んでくるなんて、うまくいくはずないだろ……某ハンター協会の会長だって「悪手じゃよ」って言うぞ……それとも何か作戦でもあるのだろうか?
「なんで、倍の数で負けるんだよ!! 将軍たちはなにをやっていたんだ」
臨時の拠点で戦いの報告を聞いていたヴァサーゴは怒りのあまり、怒鳴ちらす。斥候からの報告では数はこちらが二倍くらいだったはずだ。相手に地の利があるとはいえ負けるはず何てなかったのに……
「それは……その……スラッシュ様はヴァイス=ハミルトンの策略によって命を落とし、もう一人の将は不意を打たれて捕らわれました……」
「は? あの雑魚にやられたっていうのか? どうせ卑怯な手を使われたんだろう?」
「はい……報告によると川をせきどめして、その間にやられたとの事です」
「くそ、地の利があるからってこざかしい真似を……」
兵士の報告にヴァサーゴが舌打ちをする。その反応をみて、兵士は『ヴァイスに一騎打ちによってスラッシュが倒された』という事を報告しなくてよかったと内心ぼやく。
アイギスとヴァイスが仲良くなってから、やたらと目の敵にしているのだ。これ以上刺激したら自分がどんな八つ当たりをされるかもわからない。
「しかし……次はどうするか……初戦の間にあいつらは生意気にも簡易的な拠点を作ったらしいじゃないか……」
舌打ちをしながら、ヴァサーゴは部下からの報告書に目を通す。それによると相手の拠点には魔法で作った土壁があり、バリスタなどの兵器まで運ばれているらしい。
これを攻め入るのはちょっと面倒そうだ。
「お前らの仲間も何人もやられたんだ。そっちだって、ムカついているだろ、なんかいい案はないのか?」
「そうですね……聖女アステシア……あの女の力は厄介ですね。ですが、数はこちらの方が上です。私の方でも策があるので、一応手は打っておきましょう」
話を振られたローブの男……ハデス教徒の男がヴァサーゴに返事をする。そして、何かを思いついたかのように言った。
「それにしてもヴァイスが自ら出てくるとは意外でしたな。そこが士気の差につながって、戦況の影響を与えたのかもしれませんな」
「なるほど……指揮官が自らでるか……」
「はい、そして、あなた様の力をやつらに見せつけてやりましょう。真正面から全力で戦い打ち勝つのです。そのための力があなたにはあります」
「この魔剣か……」
フードの男の言葉を噛み締めるような表情で繰り返したヴァサーゴは腰の魔剣を触りながらにやりと笑った。
「次は僕自ら指揮を取ろう。何、ヴァイスにできて僕にできないはずがない。それに……僕にはお前らがくれたこれがあるからな」
そう言って、彼はハデス教徒から友好の証にと渡された強力な力を持つ魔剣を再び撫でる。この魔剣はかのブラッディ家に伝わる強力な力を秘めた魔剣らしい。こんな強力なものを僕が使えば……まさしく剣聖に名剣だろう
かつてラインハルト=ブラッディはこの魔剣を手に戦場をかけまわり英雄として成り上がったという、ならば次に英雄と呼ばれるのはこの魔剣の主である自分の番ではないだろうか?
「ですが……相手の砦が完成しているのに正面突破は……いえ、わかりました……全軍に伝えます」
兵士はヴァサーゴに何か意見をしようとして、やはりやめた。この人は一度言い出したら止めはしない。本来指揮官が前線に出るのは愚策である。ヴァイスが前線に出たもの、不利な状況にいる兵士の士気を上げるためである。そして、作戦があり、本人の戦闘力が高いから成功したのだ。確かにヴァサーゴ様も強い。だが彼には……親と弟を毒殺して領主になった彼には人望がない。士気の向上はあまり影響はしないだろうとおもう。その上、彼は領主になってから鍛錬をやめてしまった。兵士は嫌な予感がしながらも命令を伝えに行く。
ヴァサーゴがもう少し思慮深かったら、そして……兵士がちゃんとヴァイスの事を報告くしていれば彼の未来もかわったかもしれない。しかし、自分を振ったアイギスに好意をもたれているであろうヴァイスに嫉妬にも近い憎しみを抱いている彼にはそこまで考えが浮かばなかった。
そして、ハデス教徒の男が珍しくにやりと笑っているのに気づく者はいなかった。
------------------------------------------------------------------------
ヒロインたちは敵に回したら恐ろしそうですね……
ヴァサーゴさんがどんどんフラグを立てている……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます