第158話 説得

 目の前で鋭い目つきをして俺を見つめ剣をつきつけているダークネスを見て、どうすべきか悩む。

 転生のことを伝えるべきだろうか? だが、俺のことを自分の命を犠牲にしてもでも守ろうとするくらいの信じてくれているロザリアだからこそ信じてくれたのだ。こんな荒唐無稽な話を彼が信じてくれるとは思えない。

 そして……アステシアやアイギスは先ほどの話を見てどうおもっているのだろうか?

 恐る恐る顔を窺うと予想外のことがおきていた。



「アステシア、アイギス……それはなんのつもりだ。貴公らはよくわからない神を信仰しているヴァイスの味方をするというのか?」



 そこにいるのはダークネスに剣を向けているアイギスと、いつでも魔法を使えるようにしているアステシアだったのだ。

 それに対してかつてないほどの殺気を放っているのはダークネスにアステシアは一切恐れずに答える。



「当たり前でしょう。私が信じたのはヴァイス本人よ、彼が何を信仰していようが関係ないわ。あと……今の私は十二使徒にだって負けないわよ」

「悪いけど、私もヴァイスを信じるわ。だって、私のお母様を救ってくれて友達になってくれたのは彼だもの」

「……私は言葉にするまでもなくヴァイス様の味方です。ダークネスさん、その剣をおさめてはいただけないでしょうか?」



 みんなが俺の味方をしてくれたことがうれしいような驚いたような不思議な気持ちに包まれる中、口を開く。



「ダークネス、スカーレットさん、俺が怪しいのは認める。だけど、今は俺を信じて剣をおさえて話を聞いてはくれないか? 俺もナイアルのことはよく初めて知ったんだ」


 俺の言葉にダークネスとスカーレットが二人で視線を交わし合う。まあ、いきなり変な神様のことを信仰していると言えば神の影響力が前世よりも強いこの世界では疑われても仕方がないだろう。



「俺が悪徳貴族とよばれていたのは知っていただろう? 絶望の日々を過ごす中である日俺の頭の中に語り掛けてくる声があったんだ。そいつの正体はわからなかったがどうやらそれがナイルの言っていた『ナイアルラトホテップ』のだったんだろう、そいつに俺はこれからおこるであろうことを教えてもらって、ここまで成り上がることができたんだ」



 もちろんその言葉は嘘が混じっている。人をだますには真実を混ぜるといいと聞く。俺の前世の知識を『ナイアルラトホテップ』の加護といえば信じてもらえるのではないだろうかと思ったのだ。

 


「なるほど……あなたが自分のキャパを超えるほどの魔法を使えたのも関係しているのかしら?」

「ええ、俺はこのままだと破滅することはわかっていましたからね。限界を超えるだけの魔法を使える方法を教えてもらったんです。習得するのはたいへんでしたが……」

「でしょうね、あれはあくまで裏技であって楽をする方法ではないもの」



 俺が魔力のキャパを超えて王級魔法を使っていたことを言っているのだろう。あれは俺のゲーム知識だがこれも加護だと言った方がいいだろうと判断した。



「なるほど……だが、神の加護を得たものは大なり小なりその神に思考を影響するという貴公が異神とやらの先兵にならない保証はどこにある?」

「そんなことがあるのか……?」

「ええ……信仰心が高ければあるでしょうね。私がかつて皆に嫌われても聖女であろうとしたように……」



 驚きながら声をあげる俺の言葉にアステシアが苦い顔をして答える。そんなことがあるのか……?

 いや、確かにカイザードのやつはハデスの力に目覚めておかしくなったようだしありえるのか?

 


「大丈夫ですよ。ヴァイスさんは裏切らないでしょう。というかこの人が裏切るつもりだったらすでにこの戦いは負けています」

「「クレス!?」」



 驚きの声をあげる俺とダークネスにふらふらと立ち上がった彼は真正面に見つめて答える。



「ナイアルとやらが信仰してきた神の狙いはわかりました……ゼウス様に特別な祝福を受けた僕には通じませんが彼がかたりかけてきたんです。そのあとに頭がぼーっとしたので即座に口に含んでおいた毒を飲んで死んだおかげで奴の影響をうけずにすみました。」



 軽い感じでいっているけどこいつの覚悟に改めて驚く。こいつはエクスカリバーの回復力を信じてその命を捨てたのだ。

 クレスの言葉に俺たちは驚きの声をあげるのだった。

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