第157話 戦場の先でみたもの


「三人とも、アムブロシアは?」

「ふっ、わが剣の錆にしてやったわ」

「加護しか能のない相手なんて私たちの相手じゃないわ」

「えへへ、私すっごい頑張ったのよ!!」



 ダークネスがどや顔で剣をかかげ、アステシアがすました顔で答え、アイギスが頭を差し出してきたので、なでると嬉しそうな笑顔をうかべる。

 つい、なでてしまったが大丈夫だったようだ。てか、アステシアがうらやましそうな顔でこっちをにらんでくるのがちょっとこわい……だけど、頭を撫でていいか悩ましいよな……

 そんなことを悩んでいるとダークネスがスカーレットをみつめる。



「そちらも片が付いたようだな。スカーレットよ」

「ええ……ようやく終わったわ」



 スカーレットが悲痛な表情で先ほどまで争っていた場所を眺めている。破壊衝動に目覚めいろいろな人間を殺していたとはいえ、実の妹なのだ。思うことはたくさんあるのだろう。

 俺だって親しい人間を殺さなければってなったら……



「ヴァイス様……大丈夫です。私たちはみんなずっとあなたのそばにいますから」

「ありがとうロザリア」



 表情に出ていたのだろう、ロザリアが優しく俺に微笑んでくれる。ああ、そうだ。彼女たちはもう闇落ちするなんてありえないことなのだ。

 それに……また、しそうになっても救ってみせる。なぜならば俺はヴァイスなのだから。



「いきましょう。ゼウス十二使徒がハデス教徒なんかに負けるとは思わないけど、簡単にはいかないはずよ」



 スカーレットのその言葉を合図に俺たちはほかの十二使徒たちが戦っているであろう奥へと向かう。道を歩いていくたびに目に入るすさまじい激戦のあとに生唾を飲んだのは誰だろうか……

 かつてないほどの緊張感につつまれゼウス十二使徒の無事を願いながらついに最奥へとたどり着く……が、そこで見えたのは信じられない光景だった。



「エミレーリオ、なぜ……我々を裏切ったのですか? いや、なぜ私はこの裏切りを予言できなかったのでしょうか?」

「エミレーリオ? ああ、君たちにはまだ僕が彼に見えているんだねぇ。あのお方の加護は本当に優秀だねぇ」



 服の袖から植物の枝を伸ばしたナイアルが、ローブの男を拘束しておりいつものように胡散臭い笑みを浮かべていたのだ。

 そして、その周辺にはゼウス十二使徒らしき人間やクレスだけでなく、ハデス十二使徒まで倒れている。かろうじで息はあるようだが、その体には植物がまるで生命を喰らうかのようにして、からみついており、脈うっているのがわかる。



「ナイアル……なんでお前がここに……」

「ああ、親友殿!! 君も来たんだね。王都には来ないように警告していたんだけどなぁ……まあ、いいや、すごいでしょ。両方の十二使徒を集めるために誘導したのは苦労したんだよ」

「ナイアル!! 俺の問いに答えろ!!」



 俺が武器を構えると同時にほかのみんなも戦闘態勢になる。これはいったいなんだ? ナイアルは何者なんだ? ただのモブキャラじゃないのか?

 なんで十二使徒を……そして、ハデス十二使徒最悪の相手であるミノスまで圧倒しているんだ。



「なんでって……? それが僕らの命をもらった理由じゃないか。君ならばわかるだろう、ヴァイス=ハミルトン。僕と同じ神に救われ、同じ使命を持つ君にならね」



 ナイアルが笑う。だけどそれはいつもの胡散臭い笑みではなかった。何かを妄信しているような……まるでパンドラのような笑みだ。



「俺ならばわかるだって……まさか……」



 前世でゲームをやっている時に響いた声、あいつなのか……ナイアルが言っているのは?

 俺をこの世界に送りこんだ謎の正体……それを彼は知っているというのか。



「ふふ、思い出したようだね。僕らは『ナイアルラトホテップ』様の命令でゼウスとハデスの盤面を崩すためにこの世界に生命を受けたのさ!! さあ、ともにこの世界を作り替えようじゃないか!!」



 ナイアルが満面の笑みを浮かべながら俺に手を差し出した時だった。十二本の魔剣が彼に襲い掛かったのだ。



「……貴公が何を言っているかはわからん。だが、敵ということでいいな!!」

「問答無用だなんてひどいなぁ……だけど、その認識でいいよぉ」

「なっ」


 驚愕の声をあげたのは誰だったか、煙が晴れるとそこにいたのはすべての魔剣を植物でからめとり無傷のナイアルがいたのだ。


「ふふ、ここは邪魔が多いねぇ。贄もそろったし帰るとしよう。ヴァイス……僕は領地で待っているよ。こいつを片したらきてくれるかな?」

「逃がさないわ。 火の鳥よ!!」



 地面の下から巨大な植物の魔物が現れるも一瞬でスカーレットの火の鳥が焼き払う。

 だが、その先にはもはや。ナイアルだけでなく、十二使徒たちすらもいなかった。ただ一人いるのはなぜか無事なクリスだけである。

 彼の元に向かおうとするも、剣がのど元に突き付けられる。



「ダークネスさん!?」

「ヴァイス……先ほどの話を聞かせてもらおうか? あの男とお前の関係はなんなのだ?」


 武器を抜こうとするロザリアを制止して、俺は彼をまっすぐ見返す。話をしんじてもらえるだろうか……

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