番外編 悪役たちの原点(オリジン) ヴァイス編

書籍発売記念の短編です。


ゲームでのヴァイスの話となります。


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 失敗した、失敗した、失敗した。

 


 燃え盛る屋敷の中でヴァイスは泣きながら痛む体を抑え必死に走っていた。その後ろからは武器と武器がぶつかり合う金属音が響いている。

 その音を聞くたびに自分を守るためにこの場に残った彼女のことが頭に浮かんで胸が痛む。



「ロザリア……俺は……俺は……」



 なぜ、彼女が領主のみに教えられる隠し通路を知っていたかはわからない。だけど、最期まで自分のことを想ってその身を犠牲にしてくれた彼女の笑顔が浮かぶとどうしようもない後悔に襲われる。



「なんで俺はあいつらの助言を聞き入れなかったんだ……」



 父が死んで、領主になってからは失敗だらけだった。引継ぎもろくにしてないというのにやることが多く、いたるところから不満がでたり、新たな商売に手を出しては失敗し、領民や部下の心がどんどん離れていくのをとめることができなかった。

 そんな中でも彼にアドバイスをしてくれる人は何人かいたのだ。例えば、今はつらくとも地道に努力すればいずれかみんな見直してくれると、優しくも妥協を許さなかったカイゼル、義妹であるフィリスに力を借りるべきだと言っていたメグ。

 そして……俺が自暴自棄になっているのを、辛そうな顔で……だけど笑顔でずっと見守ってくれていたロザリア……



「それなのに俺は楽な方に逃げてしまった」



 部下のいう通り酒に逃げて領主との仕事を放棄して好き勝手やらせてしまった。借金の盾にされ悪徳商人にの言う通りにこの国で禁止されている商品の流通を許してしまった。

 結果がこのざまだ。悪徳領主として、民衆に嫌われて、大嫌いで鼻持ちならない義妹が引き連れてきた金髪の少年によって革命をされてしまったのだ。

 外では今頃勝利の叫び声が聞こえてくるだろう。悔し涙で視界を歪めながらも扉を開くと、そこに広がっているのは武装した民衆たちの姿だった。

 どうやら、この隠し通路すらもとっくにばれていたらしい。



「いたぞ!! ヴァイスだ」

「こいつが重税をかけたせいで俺の親は病気で死んだんだ!!」

「お前が麻薬なんて流通されるから俺の息子は……」

「お前の部下に頭を下げなかったっていうだけで俺の友達は殺されたんだ。ぶっ殺してやる!!」



 憎しみ、怒り、殺意、あらゆる表情がヴァイスを責め立てる。かつては優しかった領民たちの視線が自分のやってしまったことの重大さを教えてくる。



「すまない……ロザリア……俺はここまでのようだ……」



 かつてならばこの程度の連中は倒せただろう。だが、酒に逃げた生活は確実に彼の体を蝕んでいた。少し走っただけだというのにすでに息は切れており、剣を握る腕がやたらと重く感じる。

 そして、本来得意なはずの魔法すらも使わな過ぎてその精度は全盛期に比べはるかに落ちている。それになによりも……彼らの怒りは正当なものだ。自分に反撃する資格はない。ならばできることはただ一つである。



「ふはははは、フィリスのような愚かな女を担ぎ上げるとは貴様らも落ちたものだなぁ!! それにロザリアも愚かなものよ、あいつの貴様ら領民を守るために俺のいう事を聞くしかなかったのだからなぁ!!」

「なっ、フィリス様を侮辱するな、悪徳領主め!!」

「お前……ロザリアさんにどんな命令を……?」



 ヴァイスが嘲るように笑うと武器を持った民衆たちが斬りかかってくる。ろくに抵抗せずに彼はその攻撃を甘んじて受ける。

 これでフィリスがここを統治するのも少しは楽になるだろう、そして、ロザリアの名誉も守られるはずだ。



「ふはははは、その程度で殺す? ハデス様に力を授かった俺を殺せると思っているのか!?」



 痛みに必死に耐えながら馬鹿にするように笑う。すべての悪は自分だと民衆が思うように……ロザリアや、最後まで戦ってくれた他の兵士たちにヘイトがいかないように……

 だけど、ヴァイスは薄れゆく意識の中で思うのだ。



 神は俺を見放した……もしも、ゼウスやハデス以外の神がいるというのならば俺のことはどうでもいい……ロザリアを救ってくれ……そして、彼ら民衆が誰かを憎み武器を持つことのないようにしてくれ……


 そして、ヴァイスの息は息絶える。



 これはゲームのプレイヤーたちが知らない物語。ゲームのテキストにて



『ヴァイスは民衆に捕まってリンチされた』



 とだけ語られた彼の……最後の物語である。



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今月金曜17日にこの作品の書籍が発売されます。


一巻の内容は ヴァイス、アイギス、アステシアの話


そして、書き下ろし短編となっております。


二巻も出してフィリスのイラストもみたいので買ってくださるとうれしいです。


よろしくお願いいたします。

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