第135話 ヴァイスの決意

「それであなたたちはこの街でおきた出来事をきいてどうおもったのかしら? そして、私はどうべきだと思う?」



 呼びされた俺たちにマリアベルさんは開口一番そんなことをたずねてくる。なんとも答えにくい話である。王の命令なんだから、マリアベルさんは悪くない!! というのが本音だがそれでいいのだろうか? 少なくともここの人たち全員がそう思っているわけではないのはわかった。

 しばらく、考えて……彼らの言葉を……この街で聞いた話を思い出す。



「確かに冤罪だったかもしれないけど、お父様たちは命令で戦って統治したのよ。悪くないわ!! だからこのまま今まで統治をしていればいいと思うわ」

「そうね、アイギスの考えも一つも答えよ。だけど、それで損したり被害を受けた人々はそうは思わないわ。そして……私たちが命令を聞くだけでなくもっと調査をすれば結果は変わったかもしれないもの」

「お母さま……」



 アイギスを諭すように答えながらもマリアベルさんの言葉には、一切の後悔の色はなかった。彼女の中ではとっくに答えは出ているのだ。そして、その瞳が俺に答えを促しており……それをまっすぐ受け入れる。



「俺もアイギスと前半は同意見です。だけど、こんなことは二度とないように対策を行って……不平や不満を聞き入れる姿勢を示すことが大事だと思います。そして、それがあなたのやり方なんですね」



 この街ではマリアベルさんへの肯定の意見も不平不満も当たり前のように聞こえてきた。それは彼女があえて放置してガス抜きをしているのだろう。

 もしくは自分への戒めへとしているのかもしれない。



「ええ、それが私の答えよ。私とあの人はできるかもしれないことをおろそかにした。だから、二度とこんなことがおきないために、十二使徒に意見を伝えて調査部をつくってもらったわ。だけど、すでに被害を受けているここの人のからしたら私たちは侵略者として思われることは否定できないわ。それを受け入れた上でどう統治するか考えなければいけないの」

「だけど……お母さまたちは命令でおこなったんでしょう? なんで攻められなきゃいけないのよ」



 アイギスの訴えはもっともだ。そして、俺が知りたい言葉でもある。被害を受けた人間にマリアベルさんに関してマリアベルさんがどう考えているかだ。



「そうね……だけど、私たちは兵士ではない。貴族なのよ、貴族は大きな権力を持っていると同時に大きな責任も持っているの。だって、彼らはもう私たちの領民ですもの。領民には真摯に対応すべきよ。だから自らの私たちの行動で被害を受けた人間の文句はそれが理不尽ではないと思う限り聞き入れる義務があると思うの」



 マリアベルさんは不満そうなアイギスにほほ笑みながら、言葉を続ける。



「それが私の結論。私たち貴族に責任があるかわりに権力があるから、その分色々なことができるわ。だから、ヴァイス君はヴァイス君なりに考えてみなさい。私はあなたにどうしろとは言わない。ただ貴族としてできることは教えることはできるわ。その結果……仮に文句を言う人間を皆殺しにするっていっても私は攻めないわ。まあ、そんなことはしないと思うけどね」



 くすりと笑ってマリアベルさんの言葉を俺はかみしめていた。ああそうだ。俺は今のヴァイスがどうすれば破滅フラグを防げるか、ロザリアや、アイギス、アステシアたちを救うことを考えてがんばってきた。

 ゲームで簡単なテキストのみで片付けられていたヴァイスに物語があったように、ヴァイスの圧政で苦しんだ人々にも物語があったのだ。

 そして、ヴァイスはバルバロたちの言いなりになっていたことを後悔していた。領民たちにも申し訳ないと思っていたのだ。



 推しになって推しを救うってことはさ、推しのダメだったところも認めて、何とかすることをも含まれると思うんだよな。



 俺はヴァイスの失敗に……過去の罪にも向き合おうと思う。それはすでに自己満足かもしれない。だけど、俺はヴァイス=ハミルトンなのだから……



「マリアベルさん……ありがとうございます。色々とごちゃごちゃしていたものが分かった気がします」

「そう、それはよかったわ。また、何かあったら遠慮なく相談してね」

「ヴァイスが納得したならいいけど……私にもできることがあったら言ってね」



 アイギスがきょとんとした顔をしているが彼女のおかげで色々と考えることができたと思う。ロザリアは俺が転生者だという事を知っていることもあり、このことではあまり攻めるような話をできないし、アステシアは民衆にはそこまで興味がない。

 脳筋なところもあるが、貴族令嬢であるアイギスだからこそ俺の悩み事をわかってくれたのだ。



「まあ、今日はもう遅いし、休んでいきなさいな」

「はい、ありがとうございます」



 そうして、俺はお言葉に甘えて部屋を借りることにしたのだった。




 


「とりあえずは今度の会議で話し合いたいことをまとめなきゃな……」


 

 寝る前に俺は今日話したことを考えているとノックの音が聞こえてくる。



「ヴァイスちょっと寝る前にお話ししたいんだけど大丈夫かしら?」

「ああ、別に構わないぞ」



 確かに今日は難しい話ばかりしてアイギスと二人ではしゃべってないかったなと思って答えて……俺は目を見開く。



「じゃあ、失礼するわね。ヴァイスがうちにいるなんて不思議な気分ね」

「アイギス……その恰好は?」

「お母さまが選んでくれたの。似合うかしら?」



 そういって得意げにくるっとまわる彼女の姿は胸元の大きく開かれたレースのあしらわれたネグリジェだったのである。

 出会った時はただの少女だった彼女もこの一年でいろいろと成長している。ましてや、ゲームとは言え成長した彼女の美しい姿も俺は知っているのだ。



「私がこんな可愛い恰好へんかしら?」

「いや、無茶苦茶可愛いぞ!!」

「えへへ、ヴァイスにそう言ってもらってうれしいわ!!」



 満面の笑みで抱き着いてきた。柔らかい感触と香水か何かの甘い匂いにクラっとしそうになる。


 あの……マリアベルさん既成事実をつくろうとしてませんか?






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カクヨムコンテストように新作をあげました。

読んでくださるとうれしいです。


『せっかく嫌われ者の悪役領主に転生したので、ハーレム作って好き勝手生きることにした~なのに、なぜかシナリオ壊して世界を救っていたんだけど』


本人は好き勝手やっているのに、なぜか周りの評価があがっていく。悪役転生の勘違いものとなります。


https://kakuyomu.jp/works/16817330667726111803



『彼女たちがヤンデレであるということを、俺だけが知らない~「ヤンデレっていいよね」って言ったら命を救った美少女転校生と、幼馴染のような義妹によるヤンデレ包囲網がはじまった』

ヤンデレ少女たちとのラブコメ


https://kakuyomu.jp/works/16817330667726316722





よろしくお願いいたします。



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