第94話

ハデス十二使徒になるための条件……それは正直よくわからない。ゲームではアステシアはもちろん、他の十二使徒もすでに十二使徒として活動していたし、新しい十二使徒は生まれなかったからだ。



「アステシア、ちょっと悪い」

「え? 今はそういう空気じゃないでしょ? まあ、強引なあなたも嫌いじゃいけど……」



 いてもたってもいられず彼女の腕をつかんでステータスを確認する。なぜかアステシアが顔を真っ赤にしているが気にする余裕はなかった。


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十二使徒の資格


 あなたの能力の高さにハデスが興味を示しました。あなたが望めば欠番である第十二位としての力を得ることができます。


得られる『加護』:『ハデスの甘言』


 他者の欲望を解放し、惑わすことができる。この力を使えば相手を同士討ちにすることもできるし、うまく誘惑すればあなたの想い人を我が物にすることもできます。

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 アステシアは元々ゲームでは十二使徒だったのだ。選ばれることも驚いたものの意外ではない。だけど、加護の内容が全然違う。

 ゲームの全てに絶望していた彼女と今の彼女では欲するものが違うのだろうと、アステシアを見つめていると、なぜか不満そうにジトーーっとした目でこちらをにらんでいるのに気づく。



「なによ、人の腕を触って変な顔をして……」

「いや、ちょっとな……それよりも、アステシアはハデス十二使徒になりたいのか?」



 自分で聞いておいて、緊張してしまう。今のアステシアはゲームとは違う。だから、ハデス教徒にはならないと思っていた。だけど、わざわざ俺に相談するってことは迷っているということだろう。それは今回のように教会が襲われたことが関係しているかもしれないし、パンドラとの戦いが関係をしているのかもしれない。

 少し緊張しながら彼女の答えを待ってじーっとみつめていると、アステシアは少し潤んだ瞳で、俺を見つめ、おそるおそるといった感じで彼女の腕を掴んでいた俺の手に自分の手を重ねる。



「それをね、ヴァイスに決めてほしいの。ハデス十二使徒の力は強力よ。私の加護は相手の欲望を解放されることができるみたいなの。現にあのベアトリクスとかいう女は混乱していたでしょう?」



 アステシアの手が何かを恐れるように俺をぎゅーーと握りしめる。確かにベアトリクスのあのどこか狂った笑みを生み出したのはアステシアの言葉だった。あれがハデスの加護の一部だったのか……

 だけどさ、その力を使っている時のアステシアの顔は……



「多分、この力を使えば私はもっとあなたの役に立てるわ。この力を使えば今よりももっとハミルトン領も発展すると思う。だから、あなたが私に十二使徒になってくれといえば……」

「俺がアステシアといるのは役に立つとかそういうんじゃない。一緒にいたいからいるんだよ。だから、俺のためにそんな辛そうな顔をしないでくれ。それに……アステシアは本当はあんな能力を使いたくないんだろう?」


 

 彼女の言葉を遮って、こちらの気持ちを伝える。だってさ、あの時の彼女は本当に辛そうだった。俺だってハミルトン領を発展させたいのは事実だが、アステシアを不幸にしてまで成し遂げたいことではない。

 だって、俺の一番の願いは推しを幸せにすることなのだから。



「だけど……今回パンドラの襲撃に巻き込まれたのは私のせいなのよ!! また、あいつのようなやつが出てきてあなたに迷惑をかけてくるかもしれない。あなたやロザリアだって危なかった。だから、迷惑をかけた分私が強くなってあなたたちを守りたいのよ」

「なにを言ってるんだ。今回悪いのはパンドラだろ!! アステシアはさ、ただ巻き込まれただけだ。迷惑だなって思ってないよ。それに……アステシアだけが無茶をする必要はない。俺たちが強くなればいい。ハデス十二使徒なんて相手にならないくらいにさ。俺は……アステシアに笑顔でいてほしいんだよ」

「ヴァイス……」



 アステシアの辛そうな表情が和らぎ、目からきらきらとしたものがあふれ出す。その姿は美しいけど、何とも弱々しくて、思わず席を立って彼女を抱きしめる。

 胸元で嗚咽を漏らす彼女の頭をなでながらやさしく言葉をかける。



「俺一人じゃ弱いけどさ。アステシアもいればハデス十二使徒なんて相手にならないくらい強くなれると思うんだ。だからさ……俺達で強くなろう」

「それでいいの? だって、私がハデス十二使徒の力を得るよりもずっと大変なことよ……?」

「ああ、俺はヴァイス=ハミルトンだぜ。不可能の一つや二つ可能にしてみせるさ」



 アステシアに強く抱きしめ返されながら俺は考える。彼女がハデス十二使徒の候補になったことは、他の十二使徒に知られるのだろうか? それに今後もパンドラがまた襲ってくるかもしれない。とりあえず警戒しておいたいいかもしれない。

 ゼウス十二使徒に相談をした方がいいかもな……ほかの連中はわからないが、ダークネスやスカーレットならば力をかしてくれるだろう。



「そうね……あなたならそう言ってくれるわかってたのに、甘えちゃったわね……」

「まあ、こんな時くらい甘えてくれていいんだぞ。今回みたいに悩んだらさ、なんでもいってくれよ」

「じゃあ、一つだけ聞いてもいいかしら?」

「ああ、何でも聞いてくれ」

「あなたはピュラーとどこまでしたのかしら?」

「え?」



 先ほどまでのどこか甘い空気はどこにいったのか? その場の空気が一瞬にして重くなった気がする。アステシアの表情は無表情で、俺を観察するように見つめている。

 こわいこわいこわい。さっきまでのなんか感動的な雰囲気はどこにいった?



「いや、せいぜい抱き合ったくらいで……」

「ふぅん、じゃあ、今と同じくらいね……まあ、いいわ。あなたに飲ませた薬の効果を治療するから少し目をつぶりなさい」



 なんで抱き合ったまま治療するんだよ、などとツッコめる空気ではなく俺はおとなしく、目をつぶる。何をされるのかとびくびくとしていると、ほっぺたに何か柔らかく湿っぽいものは軽く押し付けられる感触を感じた。

 それと同時に、アステシアの甘い匂いと、押し付けられている胸の柔らかい感触が耐えがたく魅力的なものに感じる。

 うおおおお、強制賢者モードが終わったからか、一気に変な気分になってきた。アステシアがなぜか離れたのを感じて、目を開ける。



「治療は終わったんだよな……でも、一体何を……大丈夫か、アステシア!?」

「な、なんでもないわ。うう……自分でやっといて、これ以上は無理だし、これくらいで幸せでなる自分のチョロさがにくい……」



 アステシアはなぜか、ベッドに腰掛け自分の唇を抑えながら、悶えていた。一体どうしたっていうんだろうか?

 でも、いつもの彼女に戻ったようでなによりである。



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アステシアの強化イベント終了。


アステシアさんは一瞬唇にキスをすることも頭をよぎったのですが、やはりファーストキスはヴァイス君からしてほしいという乙女心の方が勝ったようです。

まあ、同意なしでキスしている時点でハデス教徒の素質はあるんですが……


また、この作品とは一切関係ないのですが


『外れスキル「世界図書館」による異世界の知識と始める『産業革命』~ファイアーアロー?うるせえ、こっちはライフルだ!!~』


というこちらでも公開している作品が今月10月14日に発売されます。


領地運営モノでファンタジー世界の住人がこちらの科学の知識を手に入れて魔法と科学の力を組み合わせて様々なものを発展させる話となっています。


よかったら買ってくださると嬉しいです。

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