第79話 『狂乱』と『教祖』

先ほどのローブの上からでもわかる起伏の激しい体つきから目撃したハデス十二使徒はある程度特定できる。おそらくハデス十二使徒第十一位『狂乱』のバイオレットか第七位『教祖』のパンドラだろう。バイオレットは強力な王級魔法を連発する破壊衝動に心を冒された危険な相手で、ゲームでは一人で城を崩壊させたほどである。だけど……真正面から戦ってくる上に挑発に乗りやすい分こっちの方がまだましだ。



「問題はパンドラだった場合だよな……」



 彼女は話術や策略で相手を屈服させて、ハデス教徒とした上に、自分とハデスを信仰させ、その信仰力を使い、ハデスの力を召喚する恐ろしい能力を持っているらしい……

 らしいというのは彼女は、ゲーム開始前にハデス教徒に堕ちたアステシアによって殺されているのだ。俺が彼女に関して持っている情報は、『少女』と『従者』という腹心を持ち、戦闘では主に混乱による同士討ちや、魅了による行動不能を得意とし、教会での事件で呆然としていたアステシアのゼウス神への不信を煽り、ゼウス教徒からハデス教徒に鞍替えさせた張本人である。そして、絶世の美少女と設定資料集に書いてあったことくらいである。

 ゲームの知識が通じない相手な上に、ゲームとは違いシナリオが無い以上、絡め手の方が戦闘よりも厄介なのは身にしてみている。気合を入れなければいけないだろう。



「そんな相手がこの街にいるかもしれないですね……」

「ああ、ハデス十二使徒は倫理観もやばい上に何をしてくるかわからない。警戒しておいて損はないだろう」



 ロザリアの言葉にうなづきながら、彼女の淹れてくれた紅茶に口をつける。あの後、アステシアと別れた俺はこの街の町長の屋敷へと訪れて待合室で待機しているのだ。

 そして、待ち時間に警戒すべき敵の事を説明していたのである。



「そうですね……十二使徒も警戒すべきですが、パンドラの部下の二人に関しての情報はないのでしょうか? 外見や能力があればある程度情報を集められるかもしれません」

「ああ……『少女』と『従者』はパンドラに心酔しきった二人の女性の事だ。ハデス教のプリーストと剣士でな。プリーストの方は、パンドラと同様に相手を惑わすのを得意とし、剣士の方は魔法と剣技を駆使して戦っている護衛役だな。常にパンドラのサポートをしているらしんだが、外見とか詳しい事はあまりわからないんだ。すまない」

「謝らないでください、ヴァイス様。むしろそれだけでもわかって助かります。その情報取集力さすがです」



 俺が頭を下げるとロザリアが慌てて、フォローをしてくれる。なんか言わせちゃったみたいでもうしわけないな。二人の敵に関しては本当に情報がないのだ。

 せいぜいある『従者』のエピソードは、十二使徒の集会で、アイギスに話しかけたパンドラが『胡散臭い女ね、私はあなたが嫌いよ』と言われるのを見て、その態度にぶちぎれて一騎打ちを申し込んであっさりと殺されたと設定資料集に書いてあったくらいである。

 そして……パンドラはそれを面白そうに笑っていやがったのだ。てか、俺の周りの女の子やばい子多くない? 敵より凶暴なんだけど!!




「ご安心ください。ヴァイス様の身は私が必ず守りますからね!!」

「ありがとう、ロザリアがいれば安心だな」



 意気込むロザリアに俺が笑顔でうなづくと彼女は嬉しそうに頬を緩ませて、俺の手を握ってこちらをまっすぐに見つめてくるので何やらが恥ずかしい。

 いや、嬉しいんだけど、最近なんかスキンシップが多い気がするなぁ……ドキドキしちゃうじゃないか……



コンコン



 ノックの音が響くとロザリアがぱっと離れて、訪問者から用事を聞いてくれる。そして、こちらを振り向いていった。



「ヴァイス様会議の準備が出来たそうです」

「いよいよか……ロザリアサポートを頼む!!」

「はい、お任せください!!」



 本命の仕事はこっちだ。気を取り直い手取り掛かるとしよう。まずは舐められないようにしないとな。




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こういうのって関わりたくないほうを引きますよね……

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