第78話 予想外の出会い

 馬車の中で俺はフィリスとナイアルからもらった手紙を読んでいた。フィリスは魔法学校でスカーレットの元で魔法の勉強に励み、ナイアルは薬学の勉強のために、色々な地方を回っているらしい。お見舞いとしてもらったあのきもい植物どうすりゃいいんだろう?



「二人とも頑張っているなぁ」

「きゅーきゅー♪」




 手紙置いて、体を伸ばしながら、一息つくとホワイトが首にじゃれついてくる。魔物たちのスタンビードから半年の月日がたった。ハミルトン領の治安は良くなり、民衆の忠誠度も上がってきたうえに今のところは大した問題はなく順調だ。

 昨日もラインハルト様の元での周辺貴族を集めた会議が終わった。内容は奴隷売買組織やハデス教徒の残党への対処の報告、そして、戦後の処理である。ヴァサーゴの所の領地は結局遠縁の親族が継ぐことになったらしい。そして、その一部がわれらハミルトン家の領地に正式になったので視察のために俺たちは向かっているのだ。



「なあ、アステシア……やっぱりあの街にいくのは気が進まないんじゃないか? 無理をしなくてもいいんだぞ」

「別にそんなことはないわ。私はあなたの専属プリーストなのよ。一緒にいるのが当たり前でしょう? でも……ありがとう」



 俺の言葉に無表情に答えながらもアステシアの表情がどこか硬いのがわかる。無理もない。俺たちの領土となった場所はかつて彼女が働いていて十二使徒と戦った場所なのだから……

 俺とホワイトは顔を向き合わせて、うなづいた。



「きゃあ!? ちょっとくすぐったいじゃないの」

「きゅーきゅー♪」



 ホワイトがアステシアに飛び乗ってじゃれつくと黄色い叫び声が馬車にこだまする。これで気分転換になってくれるといいんだけどな……

 俺は少し元気が出た様子のアステシアを見守った後に、御者室にいるロザリアに声をかける



「ロザリア悪いけどさ、町長の館に行く前に、アステシアがいた教会によってもらってもいいか?」

「はい、もちろんです。ふふ、ヴァイス様は本当にお優しいですね」



 俺の意図を悟ってくれ彼女がどこか誇らしげにほほ笑んだ。村での宴の時はちょっと様子がおかしかった彼女だったが、あれ以来はいつもと大して変わらない。強いてあげれば、アンジェラとのお茶会の回数が増えたことと、そのアンジェラに『このすけこまし』とか言われたくらいだろう。

 そして、馬車は目的地に到着する。外を見たアステシアが怪訝な顔をした後に俺をにらみつけてくる。



「ちょっとヴァイス、ここは……?」

「キースたちから謝罪の手紙とかももらっているんだろう? せっかくだし、話し合ってこいよ。こわいなら俺もついていくからさ」

「もう……おせっかいね……じゃあ、お言葉に甘えるわ。ついてきてくれるかしら?」

「もちろんだ。きっちりとエスコートをしてやるぜ。お嬢さん」

「エスコートって、もう、大げさね」



 俺の軽口に苦笑した後にアステシアは大きく深呼吸をして。俺の腕をつかんで外に出る。緊張しているのか、わずかな震えが感じられたので俺は手を握って落ち着かせる。ロザリアにこうしてもらうと落ち着くのを思い出したのだ。

 アステシアは一瞬驚いた顔をしたが、少し顔を赤くしてぼそりと言った。



「ありがと……」

「ふふ、いつも俺はアステシアに助けられてるからこれくらいはな」



 そう返していると何やら視線を感じる。ロザリアがちょっと拗ねたような顔で俺を見つめている。一体どうしたのだろう……と思っていると彼女はなぜか俺の開いている方の手を握りしめる。

 俺が怪訝な顔で見つめると彼女はいつものように微笑む。



「ロザリア……?」

「ここは占領したばかりです。もしかしたらヴァイス様に不満を持っている人間がいるかもしれません。いつでも守れる距離にいないとまずいですから……」

「……ふーん、ようやく自覚したのね、ロザリア」

「はい……ヴァイス様は素敵な方ですから」



 俺をはさんで、なぜかロザリアとアステシアが微笑み合っている。なんでか笑っているのに、寒気がするんだけど……てか、敵が襲ってくる可能性があるなら、俺の両手をふさぐのはまずくない? と思ったがなんか直感的に言わない方がいいなと思ったので黙る。

 教会につくと、エミレーリオとの戦いで破壊されていたところはすっかり復旧されていた。そして、元に戻ったのは建物だけではない。

 庭を走り回っていたキースがこちらを見つけるとかけよってくる。



「あ、冒険者の兄ちゃんと、プリーストの姉ちゃん。それと……アステシア……その、久しぶり」

「ええ……マルタは元気かしら?」

「うん……マルタを助けてくれたんだろ? 話は聞いたよ。その今までごめん……」



 少しぎこちないながらも会話が始まる。お互い最悪の別れだったが文通をしていたし、話し合いたがっていたのはわかっていた。だからきっかけをつくってあげたかったのだ。

 キースに手を引かれて教会に連れていかれるアステシアを見て思う。もう大丈夫だろう。



「ホワイト、アステシアを見てやってくれ。俺たちは町長の元へ行くか」

「きゅーー♪」

「はい、そうですね。アステシアさんが嬉しそうで何よりです」



 そうして踵を返した時だった。俺の視界に一瞬だけど見覚えのあるローブを身に纏う人影が目に入る。そいつはアステシアの方を見つめていたのだ。



「ちょっまっ……」



 俺が声をかけて、おいかけるがそいつは人ごみにその姿を消してしまう。一瞬だったし、あのローブはゲームでしか見たことはない。だから見間違いだったかもしれない。でも、どうも嫌な予感がするのだ。



「どうしました、ヴァイス様? ご気分がすぐれないのですか?」

「いやなんでもない……大丈夫だよ、ありがとう。ロザリア」



 勘違いかもしれないのに心配させるのもあれだと思い、誤魔化そうとする俺の目を彼女はじっと見つめる。



「ヴァイス様のその顔は何かあった時の顔だって知ってます。気になったことがあったらなんでも言ってください。私はヴァイス様に頼ってほしいんですよ」



 そう言ってほほ笑む彼女に俺は愛しさを感じるとともに余計な気遣いだったなと申し訳なくなる。そうだ、遠慮なく頼ってくれって何回もいわれているじゃないか。気のせいだったらそれはそれで問題ないしな。



「ああ、ひょっとしたらハデス十二使徒の一人がこの町にいるかもしれない」

「ハデス十二使徒ですか……」



 俺の言葉にロザリアが信じられないとばかりに目を見開いた。そう、あのローブは、ハデス十二使徒のみが身につけることを許された特殊なローブだったのだ。







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